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12.帰郷


「悪いがおれはおれで勝手にさせてもらうからな」

 ユニコーンはそう言って湖に入ると、カラアの魔法石を口でくわえて宙にほうりなげ、それを角でかつんと叩いて割りました。

 すると、ユニコーンはたちまち青い光の粒におおわれ、見る見るうちに茶色の体が、見事な白馬に変わってゆきました。

 ユニコーンは湖の水面に映る自分の白い姿を確かめ、姫にむかって言いました。


「どうだ、ユニコーンらしく見えるだろう!」

「はい、とっても立派ですてきです!」

 姫も、そしてめずらしい光景が見られた少年もこにこしてうれしそうでしたが、剣士はそれを見てびっくりしてしまいました。

「おまえもカラアの石が目当てだったのか!」

「そうだ。悪いか」

 それを聞いた剣士が急に怒り出しました。

「おれはな、おまえがなんだかんだいいながらも姫にはいろいろ世話を焼いてくれるもんだから、見かけによらずいいやつだと、これでもけっこう感謝してたんだ。それなのにおまえときたら……」

 ユニコーンは剣士の怒りようを見てげらげら大笑いして言いました。

「まあいいじゃないか。姫のことはおれも好きだ。だから怒るな」


 姫は少年にていねいに頭を下げてから言いました。

「もうしわけありませんが、ここでお別れです。案内していただいてどうもありがとうございました」

「なんでさ、村でみんなが待ってるよ」と少年は驚きました。

「わたしは、本当は神さまの巫女なんかじゃないんです。あなたの病気をなおしていただいたのはあちらのユニコーンさんの力です」

 少年はびっくりして目を見開きました。

「わたしはあんまり嘘をつくのがじょうずじゃありません。わたしが神さまの使いじゃないとわかると、また村どうしの仲が悪くなってしまいます。だから、このことはみんなにも黙っていてください」

 少年は姫の顔をしげしげと眺めて、「うん、わかったよ」と言って約束しました。

 姫はにっこり笑ってふりかえり、「それじゃあ、帰りましょう」と剣士とユニコーンに言いました。

 剣士は「そうだな、帰るとするか」と言い、ユニコーンは、「よし、それじゃあさっそく準備しろ」と言うと、みんな顔を見合わせていっせいに笑いました。



 村を遠回りし、草原を通り抜け、二人と一頭は砂漠の道を帰ります。

 ユニコーンは色が変わって自分がユニコーンらしくなったのがよほど気に入ったのか、途中、オアシスの街によっても、もう馬のふりをするのをいやがって角を隠さないまま街に入っていってしまうので街の人たちは大騒ぎです。

 ユニコーンは自分から人を襲ったりすることはありませんが、なにしろ人間嫌いで有名な霊獣ですからおとなしく人を乗せて歩くなんて信じられません。

 そのため、姫たちはどこの街に行っても注目の的になってしまい、街の人はあのユニコーンをしたがえている娘は、いったいどんな人なんだろうとうわさしあいました。


 ユニコーンはまるで当たり前のように姫をのせて砂漠を力強く歩いてゆきますが、姫はずっと心配していることがありました。姫はそれを考えると悲しくなってしまうので、なるべく考えないようにしていましたが、砂漠の終わりが近づいてきたある街で剣士が「ここの市場でラクダを買おう」と言い出したとき、とうとう涙ぐんでしまいました。

 

 あの小さなオアシスまでたどり着けば、ユニコーンとお別れしなければなりません。剣士も口には出しませんが、それがとても残念でした。

 すると、ユニコーンが二人をしげしげとながめて、意外なことを言い出しました。

「なんでラクダなんか買うんだ」

「だっておまえ、あのオアシスに残るんだろう」

 剣士がそう答えると、ユニコーンは笑って言いました。

「おれはべつにあのオアシスに住んでたわけじゃない」そういって姫にむかって言いました。

「おれは一人であちこち旅して歩いてるだけさ。次の目的地はもう決めた。おれは東の国に行ってみようと思うんだ」

 姫はそれを聞いてユニコーンの首に抱きついてよろこびました。剣士も、「そういうことなら、まあいいがな。ラクダだって安くはないし」と言って笑ったので、「おれをラクダなんかと一緒にするな」と怒って見せるユニコーンの角でおしりをつつかれてしまいました。

 今は、剣士とユニコーンの間にも、奇妙な友情が生まれていたのでした。


 西の都に戻ると、商人の親方の娘の呪いを解いてくれた白の魔女が、今度は白いユニコーンに乗って帰ってきたのだから、やっぱりここでも大騒ぎになってしまいました。

 うわさを聞いて港の人たちも駆けつけましたが、その中に姫をのせて海を渡ってくれた船長がいて、「おーい、姫さまー」と声をかけてくれました。

 姫たちが再会をよろこぶと、船長は「これからちょうど船が東の港町に帰るところです。よろしかったら、また、ぜひ乗っていってくれませんか」と申し出てくれました。すると、人ごみの中からあの商人の親方も姫の前に飛び出してきて「もう、帰ってしまうのかい」と言って残念がりました。


 商人は、「わたしは心を入れ替えて、また商売をはじめたよ。今度はまっとうな商売だから、魔女さんの国も安心して、買い物に来ておくれ」と言って笑いました。

 船長が、「この人は魔女なんかじゃない。幸運の白いドラゴンに乗ってやってきた白の龍の姫さまだ」と言うと商人はびっくりしてしまい、思わず「あなたはどういう人なんだ」と姫に聞いてしまいました。

 姫はにっこりわらって、「わたしは魔女でも、龍の姫でもありません。どこにでもいる、ごく普通の娘です」と答えました。そこには、もうなんの悩みもない、姫の明るい顔がありました。


 ユニコーンは海は初めてで、「オアシスよりもずいぶんでかいな」と言って驚き、「どれ、ここの水はどんな味かな」と言っていきなりごくりと飲み込んだものだから、そのしょっぱさに目を白黒させて船員のみんなを笑わせました。

 航海が終わると、姫たちは船長によくお礼を言い、また騒ぎにならないように早朝のうちにドラゴンが降りたった東の港町を走り抜けました。


 黒ドラゴンが現れたあの岩山は、普通の馬なら通れないような険しい山道なのに、ユニコーンは姫を乗せて軽々と超えてゆきます。途中で恐ろしい魔物が何匹か現れましたが、ユニコーンが姫を乗せたままそれらの魔物を簡単にあしらい、剣士が見事な剣さばきで追い払うので、魔物たちは姫に近づくことさえできません。

 姫たちが岩山のふもとの村に到着すると、さっそく城に早馬がとばされ、心配して姫の帰りを待っていた王様や王女様に連絡がとどき、姫たちが西の森をよけて遠回りして国に帰ってきたときは、国中が大変な騒ぎになっていました。

 しかし、姫が国に戻って真っ先におとずれたのは、市場のはずれの魔女のおばあさんのお店でした。


「おかげさまで、教えていただいた魔法がたいへん役に立ちました。ありがとうございました」と魔女にていねいにおじぎし、心からお礼をいう姫に、市場のみんなが驚いてしまいました。

 魔女がにこにこ笑って、「カラアの石はもういらないのかい」と聞くと、姫は「わたしは、もっと大切な物を、たくさん見つけることができました」といって、にっこり笑いました。


 それから、姫は国に戻ってからもよく魔女を訪れ、仕事を手伝って魔女と一緒に呪いのことで悩んでいる街の人を助けたりしましたので、この国では魔女はみんなにたいへん尊敬される存在になりました。

 国のみんなは、それまでは白の姫のことをなにも知らず、気味の悪い魔女のうまれかわりだろうと勝手にうわさしあっていたのですが、市場をおとずれては誰にでも笑顔で接する姫を見て、みんな姫のことが大好きになってしまいました。


 ユニコーンはなぜかこの国が大変気に入って、魔女の店の隣に小屋を立てさせて住み着いてしまい、嘘をつかない正直な人間には病気を治してあげたりして暮らしています。

 剣士は何日もかけて、西の岩山に出かけては魔物を追い払いました。ユニコーンも気が向いたときだけ、剣士を手伝って一緒に戦います。そのため、姫の国には西の国の人も魔物を気にすることなく安全に行き来できるようになり、うわさを聞いて重い病や恐ろしい呪いにかかった人が姫たちをたよってたくさん訪れるようになりました。

 国の人も姫を見習って、魔女や、病気の人、呪いをかけられた気の毒な人に大変親切にするようになりました。それに続いて、西の商人もこの国を訪れるようになり、姫の国は以前よりいっそう栄えた国になりました。


 そして、姫と剣士は約束どおり、国中にお祝いされて、結婚式をあげました。

 結婚式の日には、突然、あの伝説のホワイトドラゴンが現れて街の空の上を飛びまわったので、みんなびっくりして、そして歓声を上げて手を振りながら、姫たちがこの先もずっといつまでも幸せに暮らしていくだろうと、心の中に信じました。


                おわり




 最後まで読んでくれてありがとうございました。

 作品の日付を見ると1997年に書いたものです。稚拙で恥ずかしい文章でしたな。

 ベースとなっているのは「西遊記」でしょうか。ファンタジーを描くというのが恥ずかしく、「童話」という形で書いたのです。当時は「小説家になろう」のような発表の場がなく、ずっと未公開として古いファイルに収まっていた作品でした。

 連載中はジャンル別童話で時々1位になったりして嬉しかったです。ご支援ありがとうございました。

 ご感想お待ちしています。


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