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11.カラアの石


 少年に案内されてやってきた湖は、うっそうとした森に囲まれ、静かな水面に緑と空の色を映して風に吹かれ、小さなさざなみにきらきら光る美しい湖でした。水は透明に澄んでおり、とっても深いところまで、色とりどりの魚たちが泳いでるのが見えました。

 ユニコーンはさっそく水辺にいって湖の水をがぶがぶのんで、「うん、うまいぞ、ここの水は」と満足そうです。


「カラアの石はどこにあるのですか?」と姫が聞くと、少年は「そこの青い石がそうだよ」と答えました。

 湖を見ると、浅瀬に青い石がいっぱい沈んでいます。たくさん、たくさん。

 湖の中にそこらじゅう一面に落ちている青い石。これが全部、カラアの魔法石でした。

 白の姫も剣士も、それまではカラアの魔法石は、とても数が少なくて、手に入れるのが難しいものだとばかり思っていました。でも、ここではどこにでもある、普通の石でしかないのです。ここ以外ではどこでも手に入れることができなかったのは、肌の色を変える魔法石なんて、誰も欲しいと思わないのでこの湖から石をひろって持ち出したりしないからなのでした。


 姫は衣のすそが濡れるのもかまわず、湖の水面に入っていって、そのくすんだ青い色の石をひとつ、ひろいました。


 ずっとほしかった石、カラアの魔法石。

 ここまで来るのに、何日も旅をしました。 

 つらかったことや、楽しかったこと。

 ドラゴンの背中に乗って飛んだこと、初めて見た海を船で渡ったこと、いろんな肌の人たちと会ったこと、つらかった砂漠、ユニコーンに出会ったこと、いろんなことが思い出されました。


「どうやって使うのですか?」振り返って姫が少年にたずねました。

「なりたい色を頭の中に思いうかべて、石を割ればいいのさ。そうすると石がぴかっと光って、魔法がかかるんだ」


 剣士は不思議に思いました。「それじゃあ、この村の人たちは大変じゃないか。こんなにあちこちにあったら、気をつけてないとみんなしょっちゅう色が変わっちゃうだろう」

「だってみんな別に肌の色なんか変えたいなんて思わないから間違って割っちゃったりしても、なんにも変わらないんだ。それにその石の魔法が使えるのは一生に一度だけだしね、ぼくも毎日魚をつりにくるけど、ずーっと前に石をふんずけて割っちゃった。だからぼくはもう心配ないんだ」


 そういって、少年は湖にじゃぶじゃぶはいってきて青い石を二個ひろい、両手に持ったその石をかちんと打ちあわせました。

 片方の石にひびが入って、二つに割れましたが、でもそれだけで、なにもおこりませんでした。


「ねっ」

 少年は姫を見て、にこっと笑い、割れてないほうの石を姫に手渡しました。

 姫は両手のカラアの石をじっと見つめていました。そして、顔を上げて剣士に振り向きました。


 石を使えるのは一生に一度だけ。


 姫は決心がつかないような、とまどった顔をしています。

 剣士もじゃぶじゃぶ湖にはいってきて、姫の前に立ちました。

「姫さん、頼みがある」


 剣士は両手でそっと黒いフードを持ち上げて、姫の頭から脱がせました。

「最後に、よく顔を見せてくれ」


 姫はひとみをぱちぱちさせて、剣士を見ました。

 銀色に輝く髪は、旅立ちのころより、だいぶ長くなっていました。

 透けるように白い肌と、ルビーのような透明な赤いひとみは、そのままです。

 剣士は、じっと、優しい目で、姫の顔をしばらくながめていました。


 そうしていると、姫の顔はだんだん赤くなってきて、しまいには耳まで真っ赤になってしまいました。

 剣士はてれくさそうに目をそらして、じゃぶじゃぶ湖の岸にあがりました。

「さあ、やっちまえ、姫さん」

 少年もわくわくして見ています。

「ぼくも、色が変わるところを見るのは初めてなんだ」

 ユニコーンはなにも言わず、ただにこにこ笑って姫を見ていました。


 姫は、にこっと笑い、それから湖の方をむいて目をつぶって、両手に持ったカラアの魔法石をかちんと打ちあわせました。


 魔法石はぱかっと割れて、その割れ目から青い光がぱあっとこぼれました。

 光の粒は石からどんどんあふれ出て、姫の体にふりそそぎます。


 青い光の粒はうずをまいて、姫のまわりをぐるぐるまわっていましたが、突然あたりに飛び散って湖に吸い込まれました。

 剣士と少年もユニコーンも、まるで夢のような光景にみとれていましたが、気がつくと姫は前と同じようにひざまで湖の水につかって、石を両手にもったまま立っていました。


「姫さん」 剣士がおそるおそる声をかけました。

 振り向いた姫の顔は、白く、ひとみは赤いまま、なにも変わっていませんでした。

 

「あれえ、おかしいなぁ」少年が不思議がりました。

「なんにもかわってないぞお」剣士も、びっくりしました。


 姫は湖からあがって、にっこり笑いました。

「わたし、このままでいいって、思ったんです」

 そういって、ぽろぽろ涙を流し、剣士の胸に抱きつきました。

「なにも変えないでって、石に、お願いしました」


 その様子をみていた少年が言いました。

「なにしに来たいんだい、あんたたち」

「おれは最初から、こうなると思ってたがね」

  ユニコーンはそう言って、笑いました。



次回最終回「12.帰郷」

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