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愛よりも青い海-3

 圭一は二三回チャイムを鳴らすと、扉を開き、ただいま、と叫んだ。奥からぱたぱたと足音が聞こえて、出てきたのは圭一とさほど歳が変わらないように見える女の子だった。

「お兄ちゃん?」

「おう、おひさ」

「どうしたの、お兄ちゃん、急に」

「まぁ、いいじゃねえか」

少女の後ろに小さい少年が立っていた。

「よう、章吾。元気か」

章吾と呼ばれた少年は、少女の後ろに隠れるようにしながら、圭一を見つめている。

「おい、どうしたんだ。兄ちゃんのこと忘れたのか?」

「当たり前じゃない。正月も帰ってこないで、一年半も会わなかったら、忘れるわ。章吾はまだ、幼稚園なんだから」

「あぁ、そうか。そうだよな。でも、恵美、あいかわらず、きついな、おまえ」

「なに言ってるのよ。ちょっと、みんな、お兄ちゃんよ。圭一兄ちゃんが帰ってきたわよ」

恵美が声を上げると、奥からばたばたと駆け出してくる音が聞こえた。そして、二人の少年と一人の少女が現れた。

「わぁ、兄ちゃんだ」

「兄ちゃん。ほんとに、兄ちゃんだ!」

「お兄ちゃん。お兄ちゃん、お帰り」

口々に叫ぶ声に美雪は戸惑ってしまった。圭一は取り囲む三人ににこにこ笑みを浮かべながら応対している。そんな状況に場違いな気分を感じながら、美雪はじっと立って見ていた。ふと視線に気づくと、恵美が美雪を見つめていた。美雪はちょっと会釈して、そして、話し掛けようとした。

「誰?圭一?圭一が帰ってきたの?」

突然奥から大きな声が聞こえると、大柄な女性が現れた。

「母さん、ただいま」

「なにを、この子は」

これが、圭一のお母さんなんだと思って見てると、母親はいきなり圭一に持っていた手拭いを投げつけた。

「この子は、まともに連絡もしないで、帰ってもこないで、一体親をなんだと思ってるんだい」

「いきなり、なんだよ」

「それは、こっちの台詞よ。いきなり、帰ってきて、ただいま、はないだろ」

「いいじゃないか。驚かせたかったんだから」

「何を、この子は」

と、言い掛けた瞬間、母親の視線が美雪に向けられた。美雪はどぎまぎして会釈した。母親も、驚いて言葉を失った。圭一は母親の視線を察して、ひと息入れると、さっと美雪を紹介した。

「こちらは、明智美雪さん。学校の友達です」

いきなりのことで、美雪はぎこちなく頭を下げると、

「は、はじめまして、明智といいます」と挨拶した。

大勢の視線が自分に集まっていることに緊張しながらも、なんとなく圭一にはめられたような気持ちになった。

「あらあら、遠いところ、すいません。この子がまた、なにかしでかしたんですか?」

「母さん。俺はそんなに悪い子じゃないよ」

「何を言うの。あんた、一体どうして、自分だけ追んだされたか、わかってないの?」

「いえ、あたし、別に何も。ただ、景色のいいところだからって誘われたんで来させてもらったんです」

「あら、じゃあ、この子の、付き添いで来てくださったんですか?すいません」

「いえ」

「まぁ、こんなところじゃ、なんだから、上がって下さい」

「はい」

 美雪は招かれるままに上がることになった。ふと圭一を見ると、にやにやしてる。やっぱり、はめられた、と思ってしまった。



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