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愛よりも青い海-2

 こぎれいな新築の驛舎を出ると、正面の通りにはひしめき合うように店が立ち並んでいる。店々は、驛舎と違い古ぼけている。海が近いせいか、あちこちが錆びているように見える。その風景に見入っていると、圭一は美雪を呼んだ。

「こっち、バスが来てる」

圭一の指さすほうを見ると、循環バスが停車して待っている。美雪が慌てて圭一に駆け寄ると、圭一は美雪の手を取って引っ張るように駆け出した。

 バスは間もなく発車した。ごみごみした町並みを抜けると、新しい広い道に出て、そしてゆっくりと右折した。揺れに堪えて前を見ると、もう真正面に、海が広がっている。バスは海へ向かって走り、そして左折して、海沿いの古い街道を走り出した。美雪は、浮島を眺めながら、ゆっくりと走るバスに身を預けていた。

 はっと、気づいた時、また圭一が、美雪を見ながらにやにやしていた。美雪は、まただと思いながら、ちょっと拗ねた風を装って圭一を睨んだ。

「なによ」

「いや、横顔がかわいいな、って思って」

「もう、やだ」

「でも、今日は、ずぅっとぼんやりしてるね」

「…ん。どうしてだろ」

「…緊張してるの?」

「んん。そうでもない」

「いいところだから?」

「ん。きっと、そう」

「それなら、いいけど」

 美雪は圭一と顔を見合わせて笑った。


 バスを降りると、潮の香りが一層強く感じられた。大きく息を吸い込むと、潮の香りにむせ込みそうになった。圭一は、バス停に立ったまま、じっとしている。どこか、ためらっているようにすら、美雪には見えた。

「…どう…したの?」

恐る恐る美雪が訊ねると、圭一は我に返ったように、いつもの笑顔を取り戻した。

「いや、別に」

「…そう」

それ以上何も訊けなかった。

「さぁ、行こうか」

圭一はいつものように快活に美雪に声を掛けた。それが、虚勢でないことを、美雪は信じたかった。

 低いブロック塀に囲まれた庭を覗き込みながら回り込むと、圭一は、ゆっくりと門を開けて入った。表札には、中川、と書いてある。ここかと美雪は思いながら、静かについて入った。


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