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俺がツイてる(プロット版)  作者: 非公開(ごろごろ)
序章 終わりと始まり
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#5 ワタシの秘密。

 ◇ルベルアが転生してからの数年を振り返った夜、メルは眠りにつく間際、頭の中にあの日(・・・)の事が鮮明に浮かんでいた◇


 ◇◆◇

(そう、三年の月日が経った今でもあの日の事はハッキリと覚えている)



 生まれ育った街のとあるビルの屋上。


 私はそこに立っていた。


 理由は特にない。


 けど、無理に理由を付けるとするならば、この世界が私を拒絶したからだ…。


 何があっても自殺をしてはいけない。


 それは分かっている。


 だから、私はきっと地獄に落ちるだろう。

 けどね、どちらも同じ地獄なら……人より鬼に苦しめられたい。


 ただ、親が離婚しただけで。


 ただ、お母さんの再婚相手から心も体も汚されただけで。


 ただ、妬んだお母さんから身体中を痣だらけにされただけで。


 ただ、新しいお父さんがお母さんの事をもう要らないと言い、お母さんを包丁で刺し、殺人未遂で刑務所に入っただけで。


 ただ、血も繋がっていないお父さんの起こした殺人未遂事件で、周りの人、学校の人、いつも遊んでいた友達、それらから人間扱いされなくなっただけで。


 ただ、お母さんが私を置いて家を出ていく時


 “あなたなんか生まなきゃ良かった”


 その言葉を最後に残していっただけで……。


 たったそれだけのこと、自殺していい理由になどならないのだろう。


 自殺なんかしたら、残された人が一生悲しむのだから。沢山の他人(ひと)が迷惑することになるのだから。


 残された……人が?他人の迷惑……?


 お母さんは口癖の様に言っていたね…。


 “いい子にしていれば痛いことしないよ”って……。


 私はとても痛いの……。本当に……心が痛いよ……。


「こんなに苦しいのは、私がいい子じゃ無かったからなんだよね……?お母さん」


 私はそこに立っていた。


 涙はとうの昔に枯れている、あと一歩踏み出せばこの地獄ともお別れだ。



 決心はとうに出来ている……はずなのに、足は震えたまま最後の一歩を躊躇っている。


 キキィッ!突然に響いた車のブレーキ音。


 見ると車から体が大きくて顔の険しい男性が降り、こっちをひと睨みしてからすごい速さでこのビルに向かって走り出した。


「ここに来る気だ……!」


 思わず口から心の声がこぼれ落ち、私の背中には嫌な汗が滲んだ。


 男性は怒っているのか、私を説得しようとしているのか、口をパクパクさせて走ってくる。


 何を言っているのかは聞こえない。けれど、あっという間にこの場所へと届きそうな勢いだ。


 私は……私は、これ以上今の地獄と付き合う気はない。


 けど、あの人は私を助けようとしている。もし私が死んだらあの人は悲しむだろうか?あの人は……悲惨な光景を見て心に傷を負うだろうか?


 “残された人”など居ない私なのに、他人の為に迷うなんて……!


 このままだと、私は見知らぬ男に助けられてしまう。


 何度も何度も裏切られたのに、また希望を持ってしまう!


「――あっ」


 そう思った時、私は一歩を踏み出していた。踏み出したと言うよりは膝から崩れたと言った方が正しいのかもしれない。



(見知らぬ男の人、ごめんなさい。私のことを気にすることなく、今日の事を引きずる事なく過ごしてください……!)


 最後の瞬間、まさかの事態に私はギョッとした。男性が、私の落ちる先に入るように飛び込んできたからだ。


「よけ!」


 避けて!と言おうとしたが、遅かった……。


 ゴッッ!!


 ◆


 私は、きっと死んだのだろう。


 考えたくないけど……あの人も……。


 本当に最後まで周りに迷惑をかける“悪い子”だったなぁ……私。


 ここがどこかは分からない。何もない、白く霧がかかった空間。確かに死んだと思うのだけど、ここが死後の地獄なのかな。


 もしそうだとしたら、さっきまでの地獄よりずっといい。



 私はそこに座り込んだまま長い時間をボーッ、と過ごした。



 《愚かな人間よ、汝は何を恐れる》


 (急に変な声が聞こえた)


 《変な声とか思うな!ばかちんが!》


 (あっ、ごめんなさい。私は……私が命を捨てた時に助けてくれようとした男性。あの人が死んだと思うと恐ろしいです。あなたが神様なら、どうかあの人だけは助けて頂けませんか?)


 《我を神などと同じにするでないわ!神など暇をもて余したアホに過ぎぬ!》


(えっと……ごめんなさい)


 《ふむ、しかし……面白い。悔しいが我はもう終わる存在である。長き封印により我が肉体も消滅した今、残るは我の意識と莫大な魔力だけだからな》


(封印……。ここはそういう地獄ですか?)


 《確かにこの場所自体は地獄と呼べるほどつまらん空間だった。残った魔力(ちから)で最後に何か爪痕を残してやろうと考えておったが……ふむ、貴様を我が生きた世界へと転生させてやろう》


(転……。わ、私は生まれ変わるよりもここに居たいです!)


 《ここに居たいとは変な奴め、残念だがお前に拒否権は無い。我が全魔力を注いで作り出す呪いと共に生まれ変わるが良い!》


 《フハハハハハハハ!ハーハッ(あの……)ハッ!?急に話かけるでない!高笑いと被るではないか!》


 (ごめんなさい。あの、私はどうなっても良いので、どうかあの男性にだけは悪いことをしないで下さい)


 《ふん、俺が其奴(そやつ)をどうしたかなど、行けば分かるわ。我が最後の魔力よ、存分に世界を乱すが良いぞ!》


(そんな……。また周りを不幸にするなんて嫌です!)


 《知ったことか!クハハハ、フッハハハハ…!ハーハッハッハッハ…ハー…ッ……ハ…ッ……ッ》


 やがて笑い声が聞こえなくなると、かかっていた白い霧が晴れた。すると朧気だった意識が途端に現実味を帯びた。


 グイッ!

 誰かに抱き上げられた感覚が体から伝わる。


「おめでとうございます!元気そうな女の子ですよ!」


 先程までの変な声とはガラッと違う女性の声が響いた。ここが何処で女性が誰なのかも分からないけど、近くに居ることは間違いなさそうだし、状況を聞かなくちゃ。


「あふ、えああ、ああ」


(えっ!?喋れない!?)


 混乱とボンヤリした視界の中で私は誰かに抱かれ、別の誰かに見せられている。ふと、怪しい声の主が言った事を思い出した。



 “転生”



(転生だ!私は別の人間として生まれ変わったに違いない!)


 状況を理解するとボンヤリしていた視界が少しづつ見えるようになった。少しずつ……視界が……。


 ――ッ!?「あきゃっん!」


 (ビックリしたぁ!!生まれた瞬間に心臓が止まるかと思った!)


 転生した私の目の前で、眼だけを黄色く不気味に光らせた真っ黒のおぞましい影がふわふわと浮遊していたのだ。生まれて始めて見る光景がこれだなんて。そう思うと、つくづく自分の不運が嫌になった。


 (悪魔だ……!いや……呪いだ……。そうか、私が巻き込んだ所為であの男の人が呪いの悪魔にされてしまったんだ……!)


 謎の声の主が言っていた、私に付ける為の呪いとして。


 男の人がどんな話を聞かされて呪いの悪魔にされたのかは分からないけど、私の事を相当恨んでいるに違いない……。


 生まれ変わっても呪われたままなんて……私1人しか居ない世界なら良かったのに、また周りの人まで不幸にするのは嫌だよ。


 隣で横になっている女性は新しいお母さんなのだろう。


 とても優しい目で私を見つめている。きっと私はこの優しそうな新しいお母さんまで不幸にするのだろう。


 悪魔さん、どうか今この瞬間に殺したりはしないで下さい。きっとこのお母さんが悲しみます。そうしたら私はまた……私が周りに事情を喋れるようになるまで待って下さい。


 それに、やっぱり死ぬのは怖い……。今ここで生き延びるには、なるべく目を合わせないように、私が“気付いた事”を悪魔に気付かれないように慎重に振る舞う必要がある。


 あっ、助かっ……た?あの変な声の人みたいに、私の考えてることが分かるのかな?私の思いが通じたのか、それともたまたま(・・・・)なのかは分からないけれど、呪いの悪魔はフワフワと浮かんだまま私の目の前から離れ、天井まで飛んで行った。


 ありがとうございます。心の準備が出来るまでは痛くしないで下さい。新しい家族に事情を説明出来るようになるまでは待って下さい。


 ふわふわ、ふわふわ、と。


 私の視界にはなんとも落ち着かぬ悪魔が浮かぶ景色がある。このまま何処かへ行ってくれればと、無駄と分かっていても願わずにはいられなかった。が、お母さんの優しさが溢れる視線とは違う、感情の分からない黄色い眼で私を見つめ続けている呪いの悪魔。


 しばらく私を見つめていた呪いの悪魔だったが、突然ギラリと目を細め、勢いよく私に迫った。


「きゃ!」


 口からは出すまいと心に決めていたのに、思わず出る声。


「あうぅあぁ」


 どうしたらいいのか分からない。呻き声にも似た声が私から出た。赤ん坊の可愛らしい声から一転、まるでゾンビだ。なんとかもう一度離れてもらおうと思った私は一か八かの賭けに出た。その名も――


「んにぃ」


 笑ってごまかす作戦!少しまぬけかもしれないけれど、赤ん坊の私に出来るのはこんなことくらいなのだから仕方がない。


 ダメ元だったけど――悪魔は、止まった。黄色い眼でジッと見つめてくるだけ。なんとか助かっ……た?


 ◇◆◇


 生まれた時の記憶……本来ならば赤子に残るはずのない記憶なのに、昨日の出来事みたいに思い出せるよ。それから怯える日々が続くと思ったけれど、予想に反して呪いの悪魔は何もしてこなかった。


 それどころか悪魔の姿に見慣れると、まるで見守ってくれているかのような暖かみさえ感じた。私が授乳してもらっている時には特に熱い視線を。そして、両親もとても優しく私を育ててくれている。


 もしかして“いつかこの日々が急に壊れて絶望に落ちる”とかいう呪いなのだろうか?どうか、そうなりませんように。


 ◇目を閉じ、三年前からの日々を思い返していたメルの頭には多くの辛いことも鮮明に浮かんでいたというのに、胸には不思議な暖かさがあった◇


 ああ、生まれ変わった時はこんなに素敵な日々が続くなんて思って無かったなぁ。結局呪いがなんなのかは分からないけど、信じられないくらい平和な日々だよ。


 神様、仏様、悪魔様(・・・)。どうかこの日々がずっと続きますように。



 ◇◆◇時は更に進み――7歳になった私◇◆◇



 私はワプル村のメル!華麗に剣を振り、光魔法を操る才色兼備の乙女!なんて、自分では言えないけど。そんな私には誰にも言えない秘密がある。


 7歳だけど、前世も合わせると親より年上かもしれない……もう立派なお姉さんなの!そして私には大きな秘密がもう1つ。それは誰にも見えない黒い彼。その実力と安全性は私の保証付き……いや、安全性は保証しないでおこうかな。


 自由自在に宙を舞い、大木も大岩も一撃の下に粉砕しちゃう。それなのに見た目と裏腹にとても優しい、“呪いの悪魔”にして私の相棒ルベルア。私と双子のようにお母さんから一緒に生まれた悪魔さん。本当は彼に言わなくちゃいけないのに言えていない秘密もあるのだけど……。


 本当の名前(・・・・・)は分からないんだけど、同じ“転生者”であるルアさんと過ごすうちに、名前が無いのはお互い困るじゃない?っていう話から私が3歳の時に夜更かしして二人で考えた名前なんだ。今思うと深夜のテンションで考えたせいか、由来はちょっとルアさんの“アレ”が出ちゃってるけどね。生まれ変わった私は呪いの悪魔(ルアさん)ともお友達になれて、今のところ不安になるくらい恵まれた生活をしています。


(『メル、さっきから空を見上げて。何考えてるんだ?』)


「(ううん、ルアさん。何でもないよ!10才までにもっと色々覚えておきたいなぁと思って!)」

 

(『そっか、そうだな!頑張れ!』)


「(うん!)」


 今、私は広い世界を見てみたい。こんな風に素敵な思いを持てたこの世界を旅してみたい。きっと楽しいに違いない!今はただの強がりな私も、いつかきっと本当に“強くなれる”筈。もう、一人じゃないのだから!


 そのためにも、色々な準備は必要だよね。まずは元・学生らしく、勉強かな?だって私は……私達はこの世界の事をまだまだ分かってないんだもん!


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