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俺がツイてる(プロット版)  作者: 非公開(ごろごろ)
序章 終わりと始まり
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#3 ツタエタイ想い。

 驚いたが、これが確かなら凄いこと。俺は半信半疑で話しかけた。


(『あぅ?あうあぅ?あぅ』)


 あ、いや違うんだ。決して赤ちゃんプレイをしたいとか、ヘイ!ベイビー!俺の彼女にならないか?とか言いたい訳では無いのだよ!


 そう、今まで俺はこんな存在であるからして、他人と話す事すら出来ないまま過ごす事になるのでは?と、覚悟というか諦めを持っていた。


 しかし、これは俺の覚悟を無駄にさせるような嬉しい裏切り。興奮するのも仕方がないだろ?


 まさかとは思ったが、メルには俺の声が、声なのか思念なのかテレパシーなのか。とにかく、意思を込めて伝えようとした時の言葉が聞こえている。という事はだ、会話も出来るということになる筈。


 だがしかし、相手はまだ生まれて半年の赤ん坊。下等種族の青二才(あおにさい)でしかない。


 おっと、すまん言い過ぎた!


 意思が伝わる事が分かったのは良いが、しっかりとした会話が成立するようになるのは、早くてもあと半年くらいは先になるだろう。とはいえ半年後の楽しみが増えたと思えば儲けものだ。


 エリスはウトウトとし始めたメルを抱き上げて寝かしつけている。


 やがて寝ついたメルを子供用のベッドに優しく置くと、そのまま部屋を出ていき、パタパタと動き始めた。


 家事を開始するらしい、大体決まったいつもの行動パターンである。


 家事をしているエリスも可愛く、床に張り付いて眺めると、とても素敵な景色が広がるんだ!


 モルドーには勿体ないくらいに可愛いんだから!モルドーめ!!!まぁ、優しい俺はそんなことで妬んだりはしないのだが……。


 うん、優しい俺は昨日モルドーが隠していた銀貨を別の場所に隠しといてあげよう。誰か(・・)に見つかったら可哀想だからね。


 さて、結局普段の日常ならば、ここからは俺の自由時間(ターン)だ。


 ぶっちゃけ何時でも自由なのだが、自分ルールの決め事だ。メルもしばらく眠るだろうし、俺はまた村長のジジイに悪戯でもしながらフラフラと飛び回ってくるとしようかな。


 俺はいつものように壁をすり抜けて外へ出た。が、壁をすり抜けたつもりが、まだ部屋の中に居る。


 あたし、こんなの初めて!なんて、可愛い子ぶりっ子の定番セリフを想像してる場合じゃない。しかも言われたこと無かったわ!!


 壁抜けを失敗するのは初めてだ。しっかりしろよ俺。よし、気を取り直して!


(『うおっふぅ!?』)


 急に引っ張られ、何事かと見回してみると、メルが俺の下半身をグイグイと引っ張っているじゃあないの。


 おっと、下ネタでは無いよ?メルが赤ん坊とは思えない握力で下半身、というか。影を切ったときの尻尾みたいにチョロンと伸びた部分を握りしめて引っ張っているんだもの。


 全く、可愛い奴め。寝ぼけて変なモノを引っ張っちゃうなんて。って、誰が変なモノやねん!!


 さっきの引き戻しに続き、今度は壁抜け妨害でちゅか?早くも自立神経が育ってきて悪戯(いたずら)をするようになったのかな?


 赤ちゃんの成長は早いんだなぁ。


「きょおは行かないで、はなしをきぃて」


 は――ッ!?突然の謎の声に一瞬呆然となったが。この状況、声の主は一人しか居ない。だが、そんなまさか……。俺は恐る恐る返事をした。


(『メル?』)


 俺はメルをジッと見つめ、メルも俺を見つめる。


「そぉだょ、驚かせてごめんなさぃ。ずっと前から話しかけようと思ってたんだけど、心の準備ができなくて」


 ヒィー!ビックリした!怖えぇー!赤ちゃん怖えー!

 

 たまたま言葉に聞こえたって訳じゃあ無さそうだ。メルはくりんとした瞳で俺を見つめ、その様子からは伝えたい言葉を的確に話しているのが分かる。しかし赤ん坊としての限界なのか言葉使いはたどたどしい。


  逆に言えば言葉使いがたどたどしいだけであり、生後半年の赤ん坊ではあり得ないレベルの言葉を喋っている。


(『おどど!どぅ、どうしたんだい?しゃしゃべっしゃ喋ることができるのかメル!?ずつと前から!??』)


 あまりの驚きに33年と半年生きてるおっさん(オレ)も気持ち悪いほど挙動不審に。赤ん坊の成長がここまで早いとは思えないが、これも異世界だからということか。


 とにかく、テンパりながらでも天才赤ちゃんに質問をしてみよう。


「ぅん、喋れた……の。わたしも同じだから……。あなたは、あの人の話、覚えてないの?」


 天才赤ちゃんはこっちの顔色を伺いながら、主旨のよく分からない質問を返してきた。以前から喋ることは出来た。という事だけは俺でも理解できたけどね。


(『同じ?あの人?すまないけど、何の事を言ってるのか全然分からないよ』)


 俺は意味が分からない様子を隠す事なく正直に返答、こういう時に知ったフリをして答えるのは良くないのだ!

(そうだ!その通りだ!※心の声)


「私達が生まれ変わった時に、現れて色々話してた人。あなたの所には現れなかったの?」


 メルは一瞬、その人の事を話して良いのか迷った様子だったけど、真ん丸な目を、更に真ん丸にして聞いてきた。


(『すまない、俺は気付いた時にはこの世界に居て、メルの肩にさ………く、くっついてたんだからね!』)


 そんな粒羅な瞳に、これでもか!と見つめられたら、おっさんも照れちゃうよ!


(『ん?というか“私達”が生まれ変わった時?ってことは、メルも前世の記憶があるのか?』)


 俺としても聞くのが怖い質問だが、聞かない訳にもいかないでしょ。


「そう……だね。私も前世の記憶があるの。私……良い子じゃ無かったから、生まれ変わるときに神様みたいな人にね、罰として……生まれかわる魂に呪いをかけてやろう。って言われたの……」


 “良い子じゃ無かったから”そう言った時のメルは、いつもの可愛いらしい赤ん坊の顔からは想像出来ない程に、悲しそうな表情を見せた。


「だからね。生まれた時に悪魔さんを見て、これが私の呪いなのか……きっと沢山酷い事……されるんだろうなって、そう思ったの」


 塞き止められていたダムを解放したように、小さな口をフル稼働し思いを語るメル。


(『ふむ、俺は君の呪いだったのか』)


「ううん!それは違ったの!と思う……の!私の呪いは昔の私から続いているもの……だと思うから。それにね、あのとき悪魔さんが居なくなったら、と思うととても寂しくなったの。だから……その……思いきって話かけ……たの」


 ゴニョゴニョと歯切れ悪く呟くメル、途切れ途切れの言葉からは様々な感情が読み取れる。


 とはいえ、まだメルには歯が生えていないのだ、歯切れが悪いのは仕方のない事、正直言うと所々何と発音してるのかよく分からない。


 滑舌の悪さで言うなら90才のジジイと話してるのと大して変わらず“悪魔さん”と言ってる所など“ひゃくみゃひゃん”と聞こえそうなくらいだ。多分現状だと“悪魔さん”と“佐久間(さくま)さん”を聞き分けることは不可能だと思う。


 まぁ、どうでもいいか。


 90歳のジジイとメルじゃ可愛いさの数値が桁違いなんだから!!


 おっと、危ない。俺は勝手に脱線した心を戻し、話の内容を考えてみた。あの時とはいつのことだろう、半年以内のどれかと言えばやはりアノ事(・・・)か。


(『ああ、確かにミルザがアンチデーモン!ホーリーショック!キル!キル!ゴーホーム!とか叫んでるとき少し体がピリピリしたからなぁ。消えててもおかしくなかったかもな、ハハ』)


 メルの言いたいあの時ってのは、現時点での忘れられない出来事ランキング断トツ1位、ミルザ狂乱の件で間違いないだろう。


「クススッ、それじゃなくて……あの時のミルザさんは怖かったけど、とにかく悪魔さんは私に嫌なことをする気がないってことはもう分かったの……。だから……これからも見守って下さい!ってことでひとつお願いします」


 ひゅとちゅおねがいひましゅ!――だと!?キュンとしたーっ!!


 なんだろう、俺的には話の展開が早くて助かるけど、初めての会話でここまで言ってもらえるなんて嬉しいじゃない!


 この半年間、メルは一生懸命に話の内容とか考えていたのかな?だとすれば健気で可愛い奴めっ!グフフフフ。


 メルは自分の言葉に照れて部屋の隅の方を向いたが、唐突に肩をビクッ震わせる。どうやら不意に魔除けのスプラッター人形と目があったようで、小さく「ヒッ……」と洩らし目線を部屋の中央に戻した。


(『つまり、仲良くしようって事だよな?もちろん!こちらこそ、宜しくな!俺達は切っても切れない縁で結ばれてるみたいだしさ!』)


 ◇自分の見た目が悪魔なのも忘れてニコやかに微笑みかける(マドカ)。目は鋭く吊り上がり、口は裂け赤く広がった◇


 メルが泣きそうな顔をしたけど……俺の言葉に感動したのかな?


 しかし、そこで足音が近づいてきた。トントントン、とテンポ良く近づいた足音は、半開きにしてあるドアの前で一旦止まり、ギィという音を立ててエリスが姿を見せた。


 ノックも無く(当たり前だけどさ)部屋へ入ってきたエリスは、“会話できる事”がバレそうになった事で放心状態のメルと目を合わせる。


 くりくりの瞳をキョトンとさせて座るメル。それを見たエリスの顔は瞬く間に緩み――


「まぁー!メルちゃん、起きてたの?起きてたのに泣かないなんて、お利口さんですねぇ~!お母さんびっくりしちゃいました~!」


 ――と幸せそうに頬擦りした。されるがままのメルは、エリスに揉みくちゃにされながらチラリと俺を見た。


(『返事は要らない、聞いてくれ。俺達はまだこの世界のことを全然知らないし、目立たず普通の生活をしてた方が良いだろ?赤ん坊のフリも大変だと思うけど、バレない様に宜しく頼むよ』)


「あぅ?」


 メルは少し後ろめたい表情を作る。騙すの?と言いたげだ。


(『なぁに、可愛い赤ん坊のメルでいればエリスもモルドーも幸せなハズさ。周りに俺しか居ないときは気を使わなくて良いから、一緒にこの世界の事、知っていこうぜ』)


「うきゅ!」


 分かった!という意味だろう、怪しまれない程度に頷くメル。


「うきゅ~ですねー!メルちゃんふふふふふふ」


 見てるこっちまで笑顔になっちゃうくらい、現在進行形でエリスは幸せそうだ。


 可愛い赤ちゃんのメルは、実は俺と同じように前世の記憶を持った転生者だった。それに、メルは初めから俺が転生者だったことを知っていたらしい。


 よく今まで俺にバレずに赤ん坊をやり通したものだ。


 彼女の前世は女優かスパイだったりして!?呪いがどうとか言ってたけど、呪いとかが当たり前に存在するような世界から転生したのかな。


 とにかく、俺と彼女がこの世界に同時に転生したという事実は変わらない。


 これぞ運命の出会い!俺の目標は定まった!


 呪い付きだろうがなんだろうが構わない。俺が全ての災いをハネ退ける悪魔になれば良いだけだ。メルと共にこの世界をどこまでも歩んで行こう!


 そう、心に誓った。


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