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俺がツイてる(プロット版)  作者: 非公開(ごろごろ)
序章 終わりと始まり
3/116

#2 君からハナレラレナイ。

 ◇◆◇


 ―――歌が聞こえる。

 赤ん坊のお昼寝の時間らしい。



 海と大地を守る 八の神獣


 大空からは四の神竜の唄が聴こえる


 我らは祈り 奇跡の光を見るだろう


 命を授かりし小さき者よ


 その瞳は何を見る


 神獣様が踊るとき 神竜様が唄うとき


 あなたは何を捧げましょう


 あなたは何を捧げましょう



 ♢◆♢



 ごぎげんよう、ここはワプル村だよ。オイラかい?オイラは生まれたての小さなデビルさ!


 ここは、RPG(ロールプレイングゲーム)NPC(ノンプレイヤーキャラクター)みたいなセリフを言いたくなるほど、のどかな村。


 子守唄を歌っていたのはエリスという女性で、俺の双子?と呼んで良いのかは分からないけれど、半年前に俺と同じタイミングでこの世界に誕生した赤ん坊の母親。


 誰にも見えず、声も聞こえない影の悪魔になってから半年、この体にも慣れてきた。

 この自分の適応力というか、単純さには呆れるが、それが俺の良いところ、という事にしておいてくれ。


 ちなみに、色々試してはみたがステータスオープン!と叫んでみてもステータス画面は出てこないし、女神やーい!と叫んでみても俺をこの世界に召喚した女神様は出てこなかった。


 チュートリアル無しとは、不親切な世界め!!


 そんな訳で、この世界や俺についての詳しいことは分からないままだけど、別に良いやと諦めることにする。


 で、赤ん坊の話に戻るが、少しだけ成長した赤ん坊は明るい茶色の髪に透き通るような青の瞳、時折見せる笑顔がめちゃくちゃ可愛い!文句のつけようの無い美人。今から将来が楽しみだ。


 エリスの夫の名前はモルドー。モルドーは馬糞みたいに黄色がかった茶色の髪と、青カビみたいなブルーの眼をしたぽっちゃり体型の農夫。幸せそうな顔しやがってこの野郎!と、言いたくなるような顔をしている。


 俺より若いくせにこんな可愛い嫁さん貰いやがって!ガッデェェム!!


 なんて思ってはいない、本当さ。本当に本当だよ?


 その二人の愛娘として生まれた赤ん坊はメルと名付けられた。


 メルは両親と同じ明るい茶色の髪がすでにふさふさしており、真ん丸く大きな瞳は綺麗な青い色。とても可愛いらしい顔立ちである。


 今はその可愛らしい小さな口をポカンと開けてよだれを垂らしながら寝ている。爆睡だ。


 メルは気持ち良さそうに寝ているのだけど、生まれた時から意識のある俺からすると子守唄の内容が気になってしょうがない。


 世界に点在する化け物の話なのか!?生け贄の話なのか!?出来るなら何も捧げたくないよ! こえーよ!脅すなよ!—―とか思いながら聴いている。


 魔法がある世界だからと言って化け物が存在するのかは分からない。でも、俺みたいなのが居るのだから化け物も居るのだろう。


 まぁ、とにかく変な唄だ。


 メルは赤ん坊としては、ましてや悪魔と体の一部が繋がっているとは思えないくらい大人しい。


 この可愛い赤ん坊を見ていると、迷惑をかけるのはかわいそう、俺は一人で遠くの地へ行った方が良いかな?と強く考えてしまう。


 というのも、とある珍事件がきっかけでそう思うようになったのだけれど。


 ◆


 通常時、俺の体は物体をすり抜けられる状態になっている。簡単に言うと幽霊みたいなもんだ。まぁ、幽霊が実際に壁だとかをすり抜けられるのかは知らんけども。


 けれど、少し集中すればすり抜けずに物を触り、動かすことができる。


 それに気付いた時、俺は試しにテーブルに置いてあった花瓶を持ち上げてみた。


 “そういう時に限って”というやつなのか、タイミングよく部屋に入ってきてそれを目撃したエリス。


 いつもはおっとりした優しいお母さんであるエリスの口から


「は……!?なにこれ……!!」


 といつもより4オクターブくらい低い声でドン引きされたのだ。


 エリスは慌てて教会からビショップのミルザを連れてきたのだが、そのミルザも取り乱し、およそ知っている魔法は全て出しきったのでは?と思ってしまうくらい、あらゆる呪文を半狂乱で唱え続けた。


 俺の中の“ビショップ”のイメージが簡単に崩れ去ったことは言うまでもない。


 呪文の詠唱を終えたミルザは――


「キエェェェエイィィ!!」


 と昔テレビで見た剣道の達人みたいに叫びながら、この家で長く愛用されていただろう花瓶を、持っていた杖で盛大に叩き割った。


 ◆


 というのが珍事件の一連の流れ。


 俺からすれば珍事件だが、この家始まって以来と言える大騒ぎに、家主モルドーは魔除け人形を買い寄せてメルの部屋の片隅へと設置した。


 魔除け人形の見た目は、日本人形とフランス人形を強引に足して、仕上げに硫酸(りゅうさん)をぶっかけてみました!というような、悪魔(オレ)に恐怖を与えるに十分な作り。


 魔除けというよりは、この人形そのものが呪いのアイテムなんじゃね?と思わせる。本当に怖い。いや、マジで。


 その人形と目が合ったならば、その日は一人でトイレに行けない、お風呂に入れない。という状態になるに違いない。


 もし俺が思春期のガールだったなら、こんな人形を買ってくるような父親は“キモい臭いこっち来んなの刑”に(しょ)すところだ。


 俺がただのちっさい悪魔っ子だったことをモルドーは感謝するべきだろう。


 異世界でも、イレギュラーな存在が人々に恐怖を与えるという事は変わらない、と。そう知った珍事件の後から俺は旅立ちを考え始めていた。


 正直な話、食事も睡眠も必要の無い俺にとって、メルの可愛い寝顔が見れなくなること以外は一人になることに大したデメリットは無い。


 メルの体と繋がっている部分の影は、俺の意思次第で簡単に切り離せることは実験済であり、その実験の時にビクつきながら村をぐるりと一周したことは、この体に生まれ変わった俺の中で最初の“新鮮なスリル”を覚えた体験だった。


 まぁ、いつまでもここに居たって仕方がない。迷惑をかける前に行くとしよう、お別れだね俺の相棒、可愛いメル。


(『さようなら、元気に育てよ!』)


 俺からの一方的な相棒だったけど、お前との生活は癒しの日々だったよ。夜泣きもぐずりも少ない珍しいタイプの赤ん坊だったということもあり、余計に可愛いさだけが思い出に残るであろう。


 俺は“スッ”と影を切り離し、村の南西に目をやった。


 そこに見えるのは“ウラド”と呼ばれている山脈。


 メルの両親や村人の会話から聞き得た情報によると、ウラド山脈を越えると少し大きな街“ベクール”が在るとか無いとか。


 折角、別の世界に来たのだから色々な街でも見に行こう。というわけで、俺は溜めた魔力を解放し、一直線に飛び始めた、


 目指すはベクール!


 息を吸う、というか空気を吸収する度に勢いは加速した、スピードを上げても疲れ知らずで、エネルギーも必要無し!なんて便利なんだ悪魔ボディ!!


 普通の人間が徒歩でワプル村からベクールの街まで旅をした場合、旅慣れた人でも7日程は必要らしいが、それよりもずっと早くに着けそうだ。


 天気は快晴!旅立ちの日には申し分無し!快適な空の旅をお楽しみ下さい!


 若い頃、急な下り坂を自転車で駆け下りた時とは比べ物にならない程のスピードだ。


 あの時は途中でペダルを踏み外した所為(せい)(すね)を強打し、下り坂の後半は激痛との戦いで悶絶(もんぜつ)となったが、今回はその心配も無い。


 いい機会だ、どのくらい速く飛べるのか試してみよう。速さの加え方は伸び(・・)に似ている。実際に体が伸びている訳じゃあないが、長い時間椅子に座った後、背筋をググゥッと伸ばす感じに。


 大した事はしていないのに、面白いくらい簡単に加速していく。ぐんぐん、ぐんぐんと。


(『ぉぉぉおおっ!この速さなら、1日とかからっ!?カハッハ!!』)


 急にガツンと意識が何かに引っ張られた。


 時速三百キロの早さで自転車を走らせている時、着ていたパーカーの帽子部分を急に引っ張られた感じだ。


 勿論、そんな状況を体験した事はないけどね。


 何とか体勢を保っているが、これ以上先に進むことが出来ない。


 むぐぐ、どうして……ムキュッ!!?


 俺を引き寄せる謎の力に抗っていると、謎の力が一気に強くなった。


 抵抗することも出来ずに、俺は飛んできたスピードと同等のスピードでワプル村の方へと引き戻されていく。



 これは――ッ!!怖い!!



 高速で引き戻された俺の体は、モルドーの家をすり抜けたところでピタリと動きを止めた。あれほどのスピードからの急停止、俺に内臓があったのなら、尻から飛び出した内臓が世界を一周し、口から入って体の中に収まるところだった。


 言葉の上ではコミカルだが、想像するにはモザイクが必要だ。気を付けたまえ。


(『今のは何だったんだ?』)


「ああぅぅ!ちゃい!」


 訳も分からず舞い戻ってきた俺を無邪気な女の子がくりんくりんのお目々でお出迎えしてくれた。


(『ん?ハハ……ただいま、メル』)


 他の人には見えていないらしき俺の体なのだが、どうやらメルにだけは俺の姿が見えているらしい。


 もしかして、俺はこの可愛いらしい相棒と一定以上の距離を離れることが出来ないようになっているとか?


 それとも、実はメルが自分の意思で俺を引き寄せたとか。


 万が一そうだとしたら、影の繋がりが切れていても意思の力だけで引っ張る事ができるという事になる。


 えっ?うちの子、天才なんじゃないかしら!?


 離れることが出来ない存在!それすなわち運命共同体!!うん、そういう事にしておこう。


 可愛い瞳は俺の事をじっと見つめている。こんな眼で見つめられたら“貴様の事はこの我輩(わがはい)が守護してやろう!グハハハハ!”という気分になってしまう。


 ほんの数分の別れだったけど――


(『改めて宜しくな、メル!』)


「あぅ!」


 メルは真剣な顔をして声を出した。


 は?返事?な訳無いか。俺の声が聞こえる事は無いのだから。



 ―――。



(『メル?』)


「あぅ」


 ゴロンと寝返りをうち、少しそっぽを向いたままのメル。


(『あぅ、あぅ?』)


「あぅ、あぅ」


 とても面倒くさそうな顔でしぶしぶ声を出すメル。って、えええええぇえ!?


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