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#15 理不尽は罪無き者をナカセル。

 迫力たっぷりの割に天使族の王は頭が少し“アレ”だったってことかよ、ビックリさせやがって。


(『焦ったー!』 )


 俺の言葉にメルが無言でコクコクと頷いている。


「我が主、この者は私の恩人でもあります。 謁見が終わったのちには城下町を案内しようと思います」


 一歩前に出たテスタントが王に頭を下げて述べた。つまり謁見は終わりということだろう。一時はどうなるかと思ったが、何事も無くて良かったぜ。


 テスタントの言葉にゆっくりと頷くと、徐に立ち上がりメルの前に歩み寄った王、小さなメルが余計に小さく見える。


「ふぅむ、人族の少女よ。お前は珍しい眼をしておるな」


「はっ、はい!」


 背筋をこれでもかとピーンと伸ばして返事をしたメル。そんなメルの顔に、王は大きな体を小さく屈めながら自分の顔を近づけた。


 口元を緩めるわけでもなく、眼光も鋭いまま、メルが普通の七歳児だったなら訳も分からずに号泣して、王の横っ面を引っ叩いたかもしれない。


 えっ?もしかしてキスすんの?スキンシップの挨拶か!?


 口をキュッと縛り少し顔を引くメル、露骨に嫌そうな反応だ。王は顔が付かないギリギリの所で動きを止めると―――。


「すん……すん……。ふむ、やはり(にお)うな」


「あっ……す、すみません」


 いきなり匂いを嗅がれ、失礼極まりない言葉を呟いた王の行いに、俯き体を萎縮させてしまったメルの顔にはぐんと赤みが増した。


 確かにメルは色々あって汗をかいたりもし……ていたが、旅に出たのは今日なのだから、まだそこまで臭くないだろ。というか、初対面で匂いを嗅いで(くさ)いは無いだろ、無礼な王様め。


 常識外れな行いに苛立っていると、今度はなにを思ったのか王が腰に備えてある大きな剣に手をかけた。


 一体なんだと……はっ!?


 ヒュッ!!―――――ギャリィィン!!

 俺は咄嗟に体を硬化させ、メルを固く抱きしめたが、不意打ちとして放たれた剣撃のあまりに強い衝撃に踏ん張ることが出来ず、メルもろとも謁見の間の扉を突き破り城の入口まで吹き飛ばされた。


「きゃぁあっ!何っ!?」


(『王の奴が剣に手をかけたと思ったら、いきなり抜いて 振り切ってきやがった!!なんだか分からんが今の一撃、完全にメルを殺す気だったぞ!』)


 ガードが間に合っていなかったら、と考えるとゾッとする。


「我が主よ!一体何を!?」


 遠くでテスタントの声が聞こえる。つまり、テスタントも予期してなかったって事で、元から仕組まれてたって訳じゃ無いんだな。全く、何がなんだか分からんぞ。


 ヒュッン!!

『うおっ!?』


 間違いなく、寸秒前まで謁見の間でテスタントとやり取りしていた筈の王が、気づけば目先に迫っており容赦のない剣擊を繰り出した。


 ギィィッン!!

「むうっ、さきからどうやって余の剣を防いでおるのだ!?」


 一瞬で目の前に来た王の一撃をなんとか受け流し、メルを抱いたまま横へ跳んだが、このまま追い詰められればいつかメルに攻撃が届いてしまうかもしれない。


(『理由は分からんがやるしかないみたいだ!メル、魔法詠唱する少しの間任せて良いか!?』)


「ごっごめんルアさんっ!王様の動きが速すぎて私じゃついていけなさそう!」


 ヒュンヒュンと風切り音を立てながら王の追撃は続いた。


(『くっ、分かった!ならもう少しキツめに包むぞ!我慢してくれ!』)


「うん!お願い!」


 風圧だけで斬れてしまいそうな王の斬擊がメルに当たらぬようにギリギリではあるが避けていると、メルも動きに耐えようと体にグッと力を入れた。


 王が本気で向かってくる限り、俺の存在がバレないようになんて気にしてたんじゃいつか殺られる!


(『飛ぶぞ!!』)


 俺は一気に浮遊城から二百メートル程上空まで飛び上がった。


(『ふぅ、なんだってんだ一体、またボケてるのかな?』)


「うーん、どうなんだろう。人族が嫌いなのかな?」


(『とりあえず、今のうちに強化魔法かけとくぞ。相手が王様だからって黙って殺られるくらいならこっちも本気で行ってやろうぜ』)


「王様………私が良い子じゃないから怒ってるのかな」


(『あぁ?何言ってんだ?良い子、悪い子なんて人によって基準が違うもんなんだって!そんなのいちいち気にしてたら人生損するぞ!』)


「けど、私のお父さんは……人を刺したから。周りの皆から悪い人って言われてたよ……。だから私も悪い子だって……」


 俺の影に包まれているメルの体が突然小刻みに震え出す。


 何故急にそんな事を言い出したのかは分からないけど、俺は昔から人を励ますのが苦手だ!考えたって俺の頭じゃ相手に合わせた言葉なんか浮かぶ訳もないしな。


(『そっか、メルも前世は中々ディープな人生だったみたいだな、お前の父さんは人を刺したのか。でもお父さんが犯罪者だからってお前が悪い子だってのは間違いだぞ。そしてな、悪くないお前を悪者扱いした奴等が本当の悪い子なんだ!覚えとけ!!』


 あれ?俺ちょっと調子に乗っちゃった!?

 いや、俺は異世界人なんだから、これくらい言わないとノリが悪いと思われるだろ?異世界人は調子にのるものなんだから!


 ◇独自の理論を作り出すルベルア◇


(『それにな、今の俺達は王様に反撃しても良いだろ』)


「うぅ……うっ……ふ……ぐぅ……。なん……で……?正当防衛だから……?」


 いつの間にか完全に泣いていたメル、何かが切っ掛けでトラウマが引き出されたみたいだな。


(『違げーよ!俺が悪魔だからだ!!』)


 嫌な気配を感じ下を向く――と、見えるのは王とテスタント、数人の兵士の姿、すぐにでも何かしてきそうだが今のメルを戦わせるのは気乗りしないし、仕方ない……アレを使うか!


 いや、ここだとまだ城下町の人に被害が出るか。“アレ”は人里付近で使うには不安要素が大きすぎるんだよなぁ……。


 ◇◆◇約四年前◇◆◇


 俺は自分の能力の凄さに酔っていた。この世界の魔法は、自分のイメージとそれに見合う魔力さえあれば自由に作ることが出来る。


 それに気付いたとき、中二心に火がついた俺は、メルと考えた名前“ルベルア”の由来とした悪魔をモチーフにして強力な魔法を作り出そうとしたのだ。


 特質の能力で魔力が有り余っていた俺はそれら三つの魔法を作ることに成功し、作った魔法はぶっ放したくなるのが脳筋の性。


 その安易な考えが原因となり、村からずっと東側へ行った所の草原に新たな湖を作ってしまった。


 幸いにも村人からは星降り、つまり隕石が落ちたという事で落ち着いたが、その時の罪悪感で自ら封印していた魔法があるのだ。


 ◇◆◇


 アレを使わないとなると、俺に大した魔法は使えないし。ここが地上だったならメルを安全な所に置いて自分強化で戦えたんだけど、メルを包んだまま自分強化するのはちょっと不安なんだよな。


 さて、どうしたもんか。あの王は頭のネジが数本抜け落ちてるが、強さは本物だ。


 メルが本調子じゃない今、俺の実体化だけじゃ戦闘が長引くだけ、自分強化はできない。となれば、やっぱりアレを使うしか……それともこのまま逃げるか……。


 ――ッ!!下から何か飛んでくる!竜だ……それも一体じゃない、十体以上の竜!


「むぅ、人族の娘が踞ってるだと?どんな手段を使って宙に浮いておるのだ。空を飛ぶような魔法を使えるほどの魔力は感じられんが」


 テスタントドラゴンに乗ってやって来た王、周りのドラゴンは城に居た兵士で間違いないだろう。王の言葉を聞くに、俺が完全に包み込んだ状態でも、他人からはメルの姿しか見えていないのが明白である。


 そんな王達にとって、空中でポツンと泣いている女の子はそりゃあ不思議な光景だろうな。テスタントドラゴンは黙っているが、無理をしているようにも見え、恩人と戦いたくはないが王に逆らうことも出来ない……といった所であろうか。


「…………グスッ」


 メルは俺が思うよりも重症らしく膝を抱えたまま震え続けている。


(『王様!まずは理由を言ってくれ!』)と言ってみたものの、俺の声は聞こえないんだよな。


「ふぅむ、見えぬ力で我が剣を防ぎ、空をも飛ぶ。魔力も感じられんのになぁ、ふっふふ。本当に何者なのだ!貴様から奴の臭いがするのは何故だ!!」


「……何の事か分からないよ……分かる訳無いじゃん」


「我が主、メルさんには戦う意思が感じられません、なぜ主はそれほどまでに怒っておられるのですか?」


 王を鎮めるように語りかけるテスタント。


「テスタントよ!若輩の貴様では知らぬだろうがな、1200年前に我ら天使族と戦争し、その果てに我らが大陸の多くを落とした魔王、忘れはせん!魔王ハールバドム!奴の臭いがこの少女の右眼からするのだ!邪魔立てするなら貴様も死ぬか?テスタントよ」


 王から放たれる殺気が膨れ上がると、テスタントは悔しそうにメルの方ををじっと見た後、顔を伏せ沈黙を選んだ。


 王とテスタント、二人の会話から怒ってる理由をなんとなくだが、俺でも理解する事ができた、但し、それを聞いた事で先ほどまでは無かった筈の怒りの感情が湧きあがった。


  今でも大きく感じた浮遊城は昔はさぞデカい大陸だったんだろうよ。もしかしたら、ここ以外にも沢山存在してたのかも知れねぇ。


 それを落とした魔王ってのと同じ臭いがしたのはきっと、俺の所為でメルの右眼に魔族と同じ魔力回路が宿ったからだろうな。だからって千年以上前から生きてる奴が、千年以上前の事でたかが七歳児相手にここまで怒るこたないだろ!


 ◇ルベルアの瞳が黄色から赤へと変わってゆく◇


(『これだから年寄りは昔のことばかり引きずりやがって!城下町で平和に暮らしてる天使が沢山いるのに平気で暴れるしよ、相手してやるからかかってこいよ!』)


 ―――シュンッ!!


 ◇ルベルアは聞こえぬ声で挑発をし、三百メートル程西へ移動し、王を待った。自らの攻撃により城下町の住人に被害が及ぶのを嫌がったからだ◇


(『視覚強化(エンティシペイション)!』)


 おー、探してる探してる。必死だなぁ。


 メルはまだ俺の中で膝を抱えたまま震え、顔も埋めている。ふぅ、どうしたもんか。


(『メル。お前は生まれた時から“呪いの悪魔()”に憑かれてたな、それは今更どうしようも無ぇ。けどな、その代わり何があってもお前を一人にはさせねぇ!だから今は安心してそこで泣いとけ!』)


 ……うはぁーっ!クッサイセリフを惜しげもなく言ってやった!

 クッサー!!恥ずかしー!!帰りてー!けど……これは俺の本心だ!!


 おっと、王に場所が気づかれたか。


 王と天使族の一団は浮かんで見えているメルの元に、凄いスピードで向かってくる。とは言っても魔法で視覚強化済みの俺からすれば、まるでスロー再生だけどさ。


 おし、やるか!


「小娘が、またも逃げおって!次は逃げる間もなく首を飛ばしてやるわ!!」


 メルを殺すだと?ふざけるな。


 殺る気に満ち溢れて王が剣に魔力を込める。何を狙ってるかは知らないが、俺の怒りと集中力も最高潮なんだよ。


(『泣いて謝るなら今のうちだぞ天使族の王よ!目覚めし悪魔伯爵(アウォーク・アモン)!!』)


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