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#14 威厳は時に暴力とナリテ。

 ◇◆◇


 メルがひっそりと笑っていた理由は分からなかったが、一度テスタントと別れて鐘の広場って所に来た俺達。


 天使族の居住地・浮游城。ここはワプル村からドラゴンに乗って片道2時間40分くらいの場所にあるらしい。城といっても中には町も含まれており、島の端に行かない限りは空に浮いてる島という感じはしない。


 テスタントによると、島が空を動いてるわけでもなく、800年程前からずっと同じ場所で浮かび続けているとか、なんとも不思議な島だ。


 この浮島の特徴としては、見上げる空が素晴らしく綺麗である。何にも遮られずに、見渡す限り淡い青色が広がっているのは雲より高い位置にあるからであろう。


 街並みも美しく、白い石畳の道や白い石壁の建物など、白い石が多く使われており、それが空の青と非常によく合っている。


 俺の建築魂が刺激される町並みだ。


 生活環境としては高度な位置にもかかわらず、酸素も薄くなく風が強いわけでも寒いわけでもないとメルが驚いていた。

 その状態を保っているのは魔法や結界の類いなのか、それともメルの体の方が特別なのかは分からない。


 島に住む天使族は動きを見る限り大人しそうな人が多く、男は寡黙、女はおしとやかといった雰囲気であるが実際はどうなのだろう。


 到着した時にメルを問答無用で拘束したり襲撃しなかったところを見ると攻撃的な種族ではなさそうで安心だが。


 見た目は人族と同じく十人十色、けれど髪が白と黒の混合色で眼が黒目の部分が赤、白目の部分が黒――というのは皆同じらしい。ただ不思議なことにテスタント以外には一人も褐色の肌をした天使が居ないんだな。


 日当たり的にも、もっと日に焼けた天使が居ていい筈なのだが、それもまた天使族の特徴なのだろうか。


 それにテスタントは命の恩人を気持ち悪いとか言っちゃうような恩知らずな奴だしなぁ。いつかお礼を言わせてやりたいぜ!


 嫌な事を思い出し、フンフンと鼻息(っぽい息)を荒くする俺、隣に立つメルがそれに気づいたのか声をかけてきた。


「ねぇ、ルアさん、まだ怒ってるの?」


 メルは上目遣いをしながら、キュッと脇を閉めてグーにした両手に顎を乗せる“超甘えん坊(すーぱーぶりっ子)”ポーズで首を傾げた。


 頭では騙されてはいけないと否定しつつも、俺の中から負のオーラが消えてゆく。色気ひとつ無い七歳のガキんちょなのに、中身が子供じゃないだけに女の武器を知ってやがるぜ!末恐ろしい奴め。


(『怒ってないわい!』)


 くぅー、照れてしまったぁ!完全に俺の敗けだぁ!


 まぁ、それは良いとして、俺達がここで暇そうにしているのには訳がある。テスタントが先に主君の所へ報告に行き、謁見の準備が出来たらメルを呼びに来る。という事らしいのだが、行ったっきり全然帰って来ない。


 正直、景色を見渡すのにも飽きてきたんだが、まだ暫くかかるのだろうか。


(『メル、まだ時間あるだろうし、ちょっと城下町を探検に行こうか』)


「うーん、けどこの“鐘の広場”で待ってるように言われたし」


 マジメか!


(『それじゃあ、俺はちょっと見てくるわ!』)


 綺麗なお姉さんが沢山居るかもしれないしな、ククク。


「えー、待ってよ!私も行く!」


 結局ついてくるんかい!!


 それなりの数の天使達が往来している城下町、そこにはどこで仕入れてくるのかは分からないが、新鮮そうな果物を置く店や肉を置いてる店まで存在していた。


 天使でも肉とか食べるんだなぁ、なんとなくベジタリアンだと思ってたけど俺の偏見か。


(『おっ、食い物屋があるぞ、行ってみよーぜ!』)


 見つけたのは軽食屋といった感じの店。


「(なんか良い匂いがする!けど、ルアさんて食べ物食べれるの?食べてる所を見たことないけど)」


 メルの言葉に俺は固まった。


 あれ?そういえば俺ってこの7年ちょっとの間、空気だけで満足して生きてきたのか?食べ物に対する欲求は感じたことが無かったけど、そのことにすら気付かず生きてきたなんて。


(『メル、確かにそうだな。この体の所為なのか今まで食べるって事を考えたことすら無かったよ……。実際、物を喰えるのかも分からん』)


「(じゃあ何か買ってくるから試してみようよ)」


 小走りでお店に行ったメル。暫くして「買ってきたよー!」と元気いっぱいに戻ってきた。はじめてのおつかいは成功したようだ。


 何を買ってきたのかな?ん、色は薄い茶色ってところか、ふむふむ、やっぱり女の子だな。薄茶色ってことはプリンとか、完熟バナナみたいなスイーツだろう。


(『お帰り、なんだそれ?』)


「(えーとね、ラミスっていう鳥の肉を骨付きのままトロトロに煮込んだ物みたい)」


 そう言いながらメルは小瓶の中身を見せてくれた。


(『おお……フルーツとかスイーツ系を買ってきたのかと思ったら、なかなか渋い選択だな。見た目的にはトロトロに煮た手羽先って感じか』)


「(あっ……フルーツが良かった?私、手羽先って食べたこと無いから食べてみたかったの)」


 少し照れて頬を掻くメル。


(『あー、俺の世界だと誰でも食えるくらい普通にあったんだけどな。俺の知ってる味と似てるならきっとメルも気に入るさ!』)


「(あ、いや、うん……そう……なんだ。まぁ、とにかく先に食べてみてよ。ルアさんって私にしか見えないけど、もしルアさんが物を食べれるなら他の人からは食べた物がふわふわ浮いて見えるのかな?)」


 んー、言われてみれば……そうなのか?


(『まぁ食ってみれば分かるか、どれどれ』)


 小瓶の中から鳥肉を取り出すとトロ~っとした肉が垂れ落ちそうになったので、素早く口へと運ぶ。モグ……モグ……ふむ。舌の無い俺にも味覚はあるらしい。少し塩味の付いた肉が溶けて口いっぱいに旨味が広がる。


(『――んん、旨い!何故俺は今まで食事を忘れてたんだ、こんな楽しみを!この世界の料理も旨いじゃねぇか!メルも食べてみろよ、イケるぞ!』)


「(う、うん!私も食べる!――もぐ、もぐ。ごくっん。ぁ~っん!美味しい!もっと買ってくれば良かったぁ!お金ならお父さんに貰ってきたし、買ってこようかな)」


 メルはトロトロ手羽先をかなり気に入ったみたいだが、何かを思い出したように俺の方へ“バッ!”と振り向き、凝視した。


「(うーん、やっぱり私じゃ分かんないや!もともとルアさんが透けて見えてる訳じゃないし)」


(『ああ、そう言えば周りから見たらどうなってるんだろうな。ちょっとあの人の前をチョロチョロしてみるか』)


 あの人というのは……路地に設置されたベンチに座り本を読んでいる天使の女性のことか、色白な肌が日の光に薄く輝き、腰くらいまでありそうなツヤツヤした髪を頭の横で束ねてある美人さんだな。


 たまにそよ風がその髪を揺らすが女性は気にせず赤い瞳で本を読んでいる。その時、悪魔であるはずの俺の頭の中で悪魔が囁いた。悪魔会議の勃発である。


 ◆

 天使だ!テスなんとかってエセ天使とは違う、本物の天使だしかも、ワンピースのスカートであるぞ!ヒャッハーッ!


 俺が彼女の前をうろつく、すると彼女には俺の姿が見えないので、宙に浮かぶ手羽先もとい“手羽先の亡霊”だけが見える!え?シュールすぎる?そんなのはどうでも良いんだ。


 彼女はそれに驚き後ろへひっくり返るだろ?そこが重要なんだ!椅子に座るスカートの女性が後ろにひっくり返る、するとほら、素敵な光景が見えてくるだろう?つまり、そう言う事だ…。


 全ての神々は我が計算の前にひれ伏すが良い!

 ◆


 脳内プレゼンテーションを終え、考案企画を通す事に成功した俺は自信を持ってメルに言った。


(『じゃあ、試してくるわ!』)


 とは言え、ちょっと緊張する、スゥーハァー!スゥーハァー!


「(ちょっと!こんな空の上で何かあったらどうするの!?スゥハァ禁止だよ!速く行ってきて!)」


(『あ、了解』)


 ――女性の前まで来た俺、しかし女性に反応は無い、というか彼女は本に夢中だ。


(『全然みてくれないぞ?』)


 俺がそう言うと、メルは困った表情を作り女性に声をかけた。


「あの、鐘の広場はどちらへ行けばありますか?」


 すると女性は本を読むのを一旦止め、広場への道をメルに教え始めた。俺はその間に女性の目の前をこれでもかと、伝説の魔物“G(ジー)”の如く動き回る!


 しかし女性は一切反応すること無く、ニコやかに道を教えた後に再び本を読み始めた。


 ◇全ての計算がハズレた悪魔が、しょんぼりしながらメルの元へと戻ってゆく◇


「(食べた物も見えないみたいだね。え?ルアさん、なんでガッカリしてるの?見えない方が安心して食事できるじゃん)」


 メルはガッカリする俺を見て首を傾げると、そそくさと鐘の広場へと歩きだした。


 クッソー、女子には分からないさ!!


 “鐘の広場”へ戻ってくると既にテスタントが待っており、俺達を見つけるなり足早に近づいてきた。


「メルさん!何処へ行ってたんですか?我が主はもうお待ちですよ」


「ごめんなさい。少し街を見物してたら迷ってしまって」


 メルは咄嗟の嘘を自然に言える子に育ったようだ。


「そうでしたか、貴方は私の恩人です。あとでたっぷりとご案内しますよ。ですが、今は謁見の間へ向かいましょう」


 三度も殺されかけた相手を恩人と呼ぶテスタント。


 後ろに続き城へ入ると、謁見の間への道は入り口から真っ直ぐに続いている事がすぐに分かった。数人の天使族兵士が警護しているとはいえ簡単な造りであり、外敵の侵入などがあった場合の守備が心配になる構造だ。


 通路脇に他の部屋が幾つかあるみたいだけど、その中に沢山の兵士が待機しているのだろうか。そんな事を考えているうちに謁見の間の入口へ到着した。


 メルは少し緊張しているようだ。それが伝染し、俺にも緊張が走る。


(『スゥー、ハァー、スゥ、痛ッ!』)


 メルが俺の尻(的な位置)をつねり、キッ!と睨みつけてくる。


(『あっ、ああスマン。スゥハァ禁止だったな』)


 深呼吸さえ出来ないなんて、俺にとって世知辛い世界だぜ。


「我が主!客人をお連れしました!」


 ――ギィィ。

 テスタントが叫ぶと、謁見の間の扉が勝手に開いた。


 部屋の中はシンプルな白い石壁に囲まれており、真ん中に走る赤い絨毯や壁掛けの装飾品は目立つものの、化粧柱や大きな石像、ステンドグラス等があるわけではない。


 だというのに、息を呑むほどの美しさと重厚感を感じずにはいられなかった。


 赤い絨毯の脇には兵士がそれぞれ五人が反対にいる兵士と見合わせて整列している。


 その先の巨大な椅子に座るのは背丈がテスタントの倍はあろう大きな天使だ。


 荒々しく立ち上がる髪と顔の周りに蓄えられた髭が雄ライオンの鬣を思わせる。


 その風貌と紅く鋭い眼光が異様なまでに荘厳な雰囲気を作り出している。


 ひと目でそれがテスタントの主なのだと分かる程に。


「入るが良い」


 ただならぬ威圧感を放つ天使族の王だが、見た目とは裏腹に優しい感じが伝わってくる声だ。


 おじいちゃんッ子でもあった俺からすると、なんとも懐かしい声だこと。


「はっ!」


 テスタントは“さぁどうぞ”と、一度メルの肩をポンと叩いた後で部屋へ入った。


「お邪魔します!!」


 ガチガチに緊張しながらテスタントに続くメル、俺はその背中にピッタリとくっついて行くことにした。


 “失礼します!”ではなく“お邪魔します!”と言っちゃうところが可愛いんだよなぁ。まぁ、俺も結構緊張してるんだが。


 近付くと王の威圧感は更に増した。


 かなり長い刻を生きているのだと見た目で分かるが、その気配は現役バリバリの戦士だと言われても疑うこと無く信じるだろう。


 天使族の王は眼前まで来た人族の女の子であるメルを珍しい物でも見るかの様にまじまじと眺め言った。


「ふぅむ。テスタントの報告は聞いたが、余は其方が生まれた日に同じ方角から不吉な力を感じてな。テスタントを倒す実力からも只者とは思っておらぬが、一体何者なのだ?」


 うぇぇぇ怖えぇぇぇ!優しそうな声なのに、なんちゅう迫力だよ。


「あ、あううあわわ、わ、わだすは村の子、あっワルプ村の子供ですだ!」


 あまりの迫力に泣きそうなメルが緊張のあまり田舎っぺみたいな話し方になっている。ただ、元の世界で田舎に住んでいた時にもこんな喋り方の子は見たこと無いけどね。


(『メル、落ち着け。お前はテスタントの恩人って事になってんだからドンと構えとけ』)


 俺の声に、メルは一瞬“ビクッ”としたが小さく頷く。


「緊張してしまい、すいません。私はワルプ村で育てられた普通の子供です。村には剣や魔法を教えてくれる人が居て、小さな時から色々教えてもらいました」


 メルはうっすらと汗を滲ませ手をギュッと握りしめている。唇もうっすらと紫色になり、右目とお揃いになっている。


 負けるなメル!お前はきっと大丈夫だ!


 王の表情は変わらず、その心中を読むことは難しい。固まるメルを見つめていた天使の王だが、顎に手を当てながら再び尋ねた。


「ふぅむ、では其方は何者であるか?」


 ――――!!!


 ま、まさか!?どうせ姿が見えないからとお気楽にしていたが、俺の事が見えてるのか?


 横を見るとメルも急激に汗をかいている。そうだよな、今まで何度も試したけど、誰かに俺の声が聞こえたり、姿が見えたことなど無いのだから。


 どうする!どうしたらいい!?


「むぅ?聞こえなかったか?其方は一体何者なのだ?」


 くっ、諦めて答えるしかないか……。


  (『俺は――』)


「我が主よ、私はテスタントです」


 (『みょっ!?』)


 驚いてうっかり変な声を出しちまったが、メルも“アイアイ”みたいな目をして、テスタントを見ている。そんな驚く俺達をよそに、表情を変えない王が答え返した。


「ん?ああ、テスタントか。」


『……。』

「……。」


 (コイツ)、許すまじ!ついでにテスタントも許さん!


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