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#12 カンドウの瞬間。

 ―――誰にも聞こえぬ俺の叫びとは違い、小鳥の可愛らしい鳴き声だけが木々の揺らめきの中に響いていた。そんな喉かな風景にポツリと存在している悲しきトカゲの亡骸。


 おい、どうすんだコレ。結構ヤバい事しちゃったんじゃないの?


「ああ、テスタントさん、貴方は結局よく分からない人のまま逝ってしまいましたね……」


 メルはキョロキョロと周りを見渡した後、立て膝をついて手を組むと静かに黙祷を捧げた。そして、際に落ちていた大きめの木葉を一枚だけ拾うと、そっとトカゲの上に乗せた。


(『いやいや待て待て!まだ助かるはず!というか助かれ!』)


 しかし“テスタントドラゴン”は辛うじて息をしているものの、今にも命の灯火が消えそうだ。可愛らしく囀ずる小鳥の餌になるのも時間の問題である。


(『おいおいー!どうするよ!?ミルザも来てないし、俺はメル以外の奴に回復系魔法が使えないし』)


 そう言いながら一応周りを見渡すも、やはりミルザは来ていない。相談するにも村長のジジイも見当たらないし、どこいったアイツ。


 メルは無惨な姿となったトカ……テスタントから葉を退かすと、マジマジと眺めながら言った。


「ルアさん、私がヒールするからルアさんの魔力を一緒に重ねられないかな?」


 確かに俺の魔力量をメルの魔法に重ねて使えるなら、メルのヒールでも強力な効果を出せるかもしれないな。


(『よし、やってみるか!』)


 メルの体と俺の魂は繋がっている。って事はヒールを使うときのメルの魔力の流れを見つけて、そこに俺の魔力を重ねてやれば良いんだな。


 でも魔法を使うときにメルが必要とする魔素はエレメントで俺はエレメントとマナの両方、メルの体にマナが混じっても体は大丈夫なのか?


 いや、考えても仕方ない。今は集中しなきゃ!


 俺が集中が集中するのを確認し、詠唱を始めたメル――。


「癒しの女神よ、我に奇跡の力を授けたまえ!」


 あれ?前の時と詠唱の言葉違くねーか?っとと、もっと集中しなくちゃ!


 メルは渾身の魔力をトカゲに向ける、その手の平からは緑の光が滲み出している。俺の集中力も最高まで高められ、メルの体の中にある魔力の流れの中にある本流を探す。


「ヒーーーーーーール!!」


 その瞬間、俺の感覚はメルの魔力の流れのひとつが一気に太い光の線となるのを感じ取った。透かさずそこに魔力を流し込むと、目には見えぬメルの魔力の流れが爆発的に大きくなった。辺り一面が緑の閃光に包まれる。


 ―――――――!


 眩しい程の光が消えた後、皆の目に映り込んだのはペタンと座り込んだテスタント、傷はどこにも見当たらない。どうやら、トカゲの墓を作る必要は無くなったようだ。


 周りで見ていた村人も「腰痛が取れたー!」とか「ずっと痛かった肩が治った!」等と騒いでいる。


(『メル、大成功だな!』)


 俺の言葉にメルからの返事が無い。


(『メル!?』)


 横を見ると、メルが頭を押さえて踞っていた。テスタントも未だ動けないでいるが、今の俺にはそれを気にする余裕は無い。


(『メル!?どうした!大丈夫かっ!!』)


 俺は焦った!とにかく焦った!


「う、うん……。ルアさん……頭が、痛くて……」


 メルの意識はあるようだが、辛そうに両手で頭を押さえている。焦る俺は他の手立ても思い付かず、無我夢中でメルへと両手をかざした。


(『効果が有るかは分からないが一か八かだ、痛覚麻痺(アドレオール)再生強化(リジェネイション)!』)


 “祈るような気持ち”――俺は大量の魔力を使い、魔法を唱えた。


 数秒の時が流れ―――。メルは起き上がった。


「あ……治ってきたかも」


(『おお!心配したぞ!おあっ?』)


 立ち上がるメルを見ていた俺は、メルの眼がいつもと違う事に気付いた。一目で分かるくらい明確なオッドアイになっていたのだ。元々、両眼とも綺麗な青だったメルの眼が、右眼だけ淡い紫色に変わっている。


 メルの魔力の流れの中に俺の大量の魔力を直接入れたのが原因なのかもしれない。


(『メル!お前の眼、右眼だけ薄紫色になってるぞ!体の調子は大丈夫か?眼は見えてるか?』)


「(うん、ありがとう。もう大丈夫みたい。右眼だけ?すごい、オッドアイじゃん!青い眼も好きだったんだけど、とにかく見えてるし視力は大丈夫みたい)」


 メルはそう言いながら“パンパンッ”と膝元に付いた埃と草を払った。


 見た感じフラフラしてないし、もう大丈夫かな?はぁ、良かったぁ。眼についてはしばらく様子を見るとするか。さて、テスタントは?


 すっかり後回しにしていたテスタントの方を見ると、既に村人達に取り囲まれ、介抱されているではないか。


「テスタント殿、大丈夫ですかの!?」


 村長のジジイがテスタントの耳元で大声を出している。あんな耳元で……なんて迷惑極まりないジジイだ。


「は、はい……。一体私に何が起きたのか、こんな事は今まで無かったのですが……。詠唱を終えてからの記憶が無いので、すみませんが何が起こったのか説明して頂けますか?」


 そう言いながらテスタントは立ち上がったが、少しふらついている。


「ふぅむ!そうじゃのう。テスタント殿に離れてろと言われたでな、ワシは五百メートル程離れていたでの。だから良く見えていた訳ではないのじゃが、光に包まれてからお主は消えてしまったんじゃ。その後、何故かメルがお辞儀をして地面に座ったんじゃ」


 村長のジジイは自分から見えた光景をありのまま話す。しかし、先程の出来事の殆どが見えても聞こえてもいなかった様でテスタントを理解させるのは無理な内容であった。


 ある意味五百メートルも離れた場所からテスタントが消えるところと、メルのお辞儀が見えたのは快挙とも言える。もちろん、村長が何故500メートルも離れていたのかは誰にも分からないが。


「光ったということは魔法は……。いや、魔法自体を………ううむ……しかし……」


 テスタントは話を聞きながらブツブツ言っている。その呟きを気にすること無く村長のジジイは話を続けた。


「気になったワシも走って来たんじゃが、突然メルが慌てはじめてのぅ、なにやらブツブツ言った後に地面に向かって魔法を使ったんじゃ。それは大きい範囲のヒールじゃった、するとお主がまた出てきたという事じゃ!それ以外の事はワシには分からんよ」


 村長のジジイは身振り手振りを混ぜながら自らが分かる全ての事を話した。そこにメルが加わり話を付け足す。


「えーとね、テスタントさんはすっごく小さなドラゴンになっちゃったんです。それに乗るのかと思って跨がったら潰れちゃったんです、ごめんなさい」


 プギィーー!とか言ってたもんな、よく復活したもんだ。


 それを聞いたテスタントは、またブツブツと考え始める。まぁ、小さいトカゲになるなんて命に関わる案件だからな、原因を探るのは当然か。


「なるほど、やはりドラゴフォームに失敗したようですね。私に残った最後の記憶だと、詠唱の時に一気に私と周囲の魔力が枯渇したようで、その原因は不明ですが魔法発動の瞬間の魔力切れでドラゴンになりきれず、小さな姿になってしまったと考えられます。しかし何故……。ともかくドラゴフォームが使えない状態で浮遊城へ向かうには……」


 あれ?詠唱の瞬間の魔力切れ…………?そう言えば、何か心当たりがあるような。あっ!!緊張して超大量に空気を吸ったような……。俺が空気を吸うと……。いや、吸ってない。俺は決して空気を吸ってなどいない!チガウ!オレジャナイ!!


「(ルアさん?急に慌て出したみたいだけどどうしたの?テスタントさんが魔法失敗したのって、あの瞬間にテスタントさんと辺り一面の魔力が無くなったからなんだってさ。ルアさん……、何か知ってるじゃ?)」


 オッドアイへと進化した七歳女児は小声だというのに迫力も以前の1.2倍(当社比)だ。メルに問い詰められた俺は笑って“誤魔化そうぜ作戦”を発動した。


(『いや~、ハハハ。わざとじゃ無かったんだよ』)


 何があったかは言わずに、少しの間この場所から離れておくとしよう…。事件は時が解決してくれるだろう。


 ◇◆◇


 ◇悲しそうに一言だけ残し、離れた場所へと飛んでいくルベルア。その後ろ姿を確認するように眼で追ったメルは、遠くへ行ったのを確認し、混乱しているテスタントへ声をかけた◇


「えっと、テスタントさん!もう一度魔法を使ってみて貰えませんか?きっと次は大丈夫だと思うんです。私、先程ヒールを使う際に魔力を使いすぎちゃって。その時に余分に溢れた魔力はまだ周りにあると思うので」


 ◇身近に居た犯人は隠し事が下手くそだったお陰で、メルにはもう、テスタントの失敗の理由が分かっていた◇


「むう、メルや!その眼はどうしたんじゃ!?」


「わっ!本当だ!メル、その眼はどうしたんだい!?ちゃんと見えてるのかい?痛くないかい?」


「あらぁ!メルちゃんその眼、とっても素敵じゃない!凄く綺麗!」


 村長とモルドーとエリスが、グイグイとメルに近寄り、話に横槍を入れる。


「うん!見えてるし、痛くないし大丈夫だよ!皆、テスタントさんがまた魔法を唱えるから離れて!」


 ◇そろそろ出発したいメルは半ば強引に三人をあしらうと、いまいち乗り気でないテスタントを、初めと同じ開けた場所まで背を押し連れていった◇


(無駄な時間をかけたらルアさんが戻って来るかもしれないし。そうなったら、またテスタントさんがピクピクする事になるかもしれない、それだけは避けなきゃ!)


 テスタントは少し不安気な顔をしながらも、メルの提案に頷いた。


「やってみましょう、村人も離れてくれたようですし。ただ、メルさんには言っておきましょう。今から使う魔法は私の体をドラゴンに変化させる魔法なのですが、通常だと翼を合わせ約十メートル程の大きさになります」


(あ、そうですよね。ちょっとおかしいなぁとは思ったんですけど……。さっきは踏み潰してごめんね、テスタントさん)


「はい!分かりました!」


「では行きます、ドラゴフォーム!!」


 閃光が辺りを包む。と――バサッ!!

 空を叩く轟音と共に砂埃と草が舞い、周囲からの視界を塞いだ。やがて視界が開けると大きな白い竜がそこに居た。


「成功です」


 ◇謎の声が響く。その声は特徴的だがテスタントより低い声、そう“テスタントドラゴン”の声である◇


「わぁ!凄い!ドラゴン!初めて見ました!!」


 ◇メルは本当に感動していた、自らの目の前に架空の生物であり、多くの物語で登場するドラゴンが居る“現実”に◇


(あっ、小さいドラゴンならさっき見たけど、あのトカゲはノーカンだし!大きなドラゴンはもう、本当にすごいっ!!)


 ◇眼をキラキラさせて興奮するメル。感動しているのは村人達も同じで、大歓声を上げて騒いでいる。すると、ドラゴン化が成功したことに気付き、ルベルアが大慌てで戻ってきた。もちろん、テスタントドラゴンの姿を間近で見るなり大興奮である◇


(『ふぅおおおおおおお!スゲェェェェェ!カッケェェェ!ドラゴンだぞ!これがドラゴンだぞメル!!!すげーよ!練習すれば俺もなれるのかな!?ハァ、ハァ!ムハー!』)


 ああーっ!俺はこの世界に転生できて良かった!マジで、ガチのマジで、マジのガチで心からそう思えるほど感動してんのが自分でも分かる!!


「(ちょちょ、ちょっとルアさん、あんまりハァハァしないでね!気持ちは分かるけど、ね!?)」


 メルが慌て小声で制止をし、俺の体の一部をつまんだ。そのお陰で“ハッ”とした俺は慌てて息を鎮め、落ち着きを取り戻した。確かに、またテスタントがドラゴンから小鳥の餌に降格するのはマズイな、気を付けなければ。


 テスタントが出発を促すかのように翼を羽ばたかせ、その羽ばたきでまたも砂埃が舞う。


 いい加減にしろよコイツ!何回うちの可愛いメルを砂まみれにすれば気が済むんだ!もう一度トカゲにシテヤロウカッ!!まぁ、今はドラゴンのカッコ良さに免じて許してあげよう。


「行きましょう、さぁ乗って」


 テスタントドラゴンはメルが乗りやすいように気遣い、片翼を地面につくまで下ろした。


「はいっ!失礼します!」


 ダンッ!―――スタッ!

 返事と共に勢いよく地面を蹴り、テスタントドラゴンの背中に飛び乗ったメル。テスタントドラゴンの気遣いは無駄に終わってしまった。


 すまん!うちの子、そういう所あるから!!


「フフ、元気が良いですね。ではしっかりとお掴まり下さい!」


 やや長めの首で振り向き、赤と黒の瞳でメルが乗ったのを確認し、羽ばたき始めたテスタントドラゴン。


 バサッ!!バサッ!!と大きな音を立て浮き上がッていく。

 巨体を浮かせる程の羽ばたきにしては少ない気がするが、それもきっと魔法の効果の賜物なのだろう。


「皆ぁーー!行ってきまーーす!!」


 メルは集まっていた村人達に大きく手を振る。それに返すように村長のジジイ、モルドー、エリス、そして村の皆が盛大に拍手をして手を振った!


 段々と皆が小さくなっていく。おや、あそこに居るのはバースじゃないか!見送りに来ていたのか、一途ないい子だ。と、弟も居るなぁ。むむむ……。


(『視力強化(サードアイ)!』)


 自身に強化を使って見てみると………!やっぱり鼻に指突っ込んでる!!誰か抜いてやれよなぁ。初めての旅への出発なのに、あの間抜け面は雰囲気がぶち壊しだよ全く!!


 とにかく!色々あったがこうして俺とメルは天使族の住む場所“浮遊城”へと向かい飛び立つのであった。


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