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#11 どうしてソウなルの。



 

 翌朝、半ば強引に天使族の城へ行くことになったメルだったが、不貞腐れるのではないか?と考えていた俺の予想とは逆に、まるでピクニックにでも行くかのようにウキウキと準備をしていた。


 そんな朝――――コン、コンッ!

 誰かが玄関のドアをノックしたが、モルドーとエリスの二人は教会で安全祈願をするといって出掛けており、家にはメルと俺しか居ない。


(『誰か来たぞ』)


「もうっ、面倒くさいなぁ……」


 どうせまた村長のジジイだろう。


 ――――カチャ。

「どなたですか?」


「え、と、おはよう」


 そこにいたのは村長のジジイではなく、メルより3つ年上の男の子だった。男の子の名はバース、暗い青の髪と茶色がかった黒い瞳が特徴的な村の子供の中では希少なしっかり者の少年である。


 キリッとした顔立ちがイケメンオーラを出している小生意気なクソガキだ。(※個悪魔的なイメージです)


 チッ、イケメンがうちのメルに何の用だ!帰れ帰れ!


 その後ろには付いてきただけなのだろう、メルより小さそうな男の子が突っ立っている。バースの弟であろうか、見たことの無い子だ。目の色は同じだが黒い髪をしており、間抜けそうな顔をして鼻に指を突っ込んでいる。 


「おはよう。どうしたの?」


「メル。あのさ、遠くへ旅に行くんだって?」


 バースは小さな声でボソボソとメルに聞いた。本来はこんなに引っ込み思案な子じゃない筈なんだが……まさか、な。


 この感じ。何かザワザワした甘酸っぱい感情が俺の中から込み上げてくるんだけど。


 メルは「うん」とだけ言った。


「あ……えっと……危険な旅になるの?」


 やっと出た言葉を心配そうな顔で口にするバース。


「さぁ?」


 メルは短く返すと、首を傾げ、両方の手の平をパッ見せる“分かりませんポーズ”をバースに見せる。


 なにやら俺の中で、先程までとは違う感情が湧いてくる。頑張れ、バース!


 バースの奮闘を知ってか知らずか、後ろの男の子は鼻に指を突っ込んだままだ。鼻血は出すなよ。


「あ、あのさ!僕、年上なのにメルよりすごく弱いけど……それでも役に立てる事もきっとあるから……だから僕も行くよ!」


 見直したぞバース。お前は頑張った!二回も受け流されたのに良く言った!!もしお前がついて来るなら、俺がお前も守ってやるよ!


「いや、無理でしょ……来なくて良いよ」


 はい、ムリー。バース君残念!ついてくるんじゃねぇ!


 というかメルももう少し歯に衣をというか、やんわり言ってやれば良いのに、冷たすぎるよな。それとも、実は七歳にして魔性の女なのかっ!?


 そりゃあ、メルに比べたらバースなんてポンコツのガラクタで使えないクソ団子だよ!おっと、言い過ぎた。


「けど、僕はメルが好きなんだ!!心配だからついていきたいんだよ!」


 両手の拳を固く握りしめ、今日一番の男らしさを見せたバース。


 なんと、あの状況から!?この子言ったでぇぇぇぇ!おっちゃん応援したる!


「そう、私まだそういうの要らないから。ごめんね。」


 悩む素振りも見せずに即答するメルの様子に、バースの顔が一気に暗くなる。唇を噛み締めて、泣くまいと堪えている様だ。


 あちゃー。バース、初恋ってのは焦げたゴーヤより苦いよな。

 俺も恋愛には苦い思い出しか無いよ。今でも思い出すと……ウッ、苦っ!


 しょんぼりするバースの後ろで男の子が鼻に指を突っ込んでいる。いい加減、鼻から指出せよな!


「じゃあ私、準備があるから」


 そう言ってメルは自分の部屋へ戻っていった。その場に残されたバースは見てるこっちが切なくなるくらい涙を堪えている。


 少年よ、可哀想だが恋した相手が悪い。あの娘は少年が思ってるよりずっと年上なんだ。お前からしたら立派なババアなんだよ……。


 バースは目を一度だけ擦ると、後ろの男の子に声をかけた。


「兄ちゃん、フラレちゃった。……帰ろうか、マドカ」


 男の子は返事もせずに、歩き出したバースの後ろをついていく。


 あれ?今マドカって言ったか?この世界で俺と同じ名前が居るとは珍しい。しかも鼻に魔物が潜んでいるような子供だったし。おし、切ない気持ちを切り替えて外でも見てくるか!


 ――スィーーーン!

「ちょっと待って!準備終わったから私も行くー!」


 そう言いながらメルがドタドタと走ってきた。思ったより荷物は少ないようだ。


(『おう、しかしバースはあれで良かったのか?まぁ、俺が口出すことじゃ無いんだがな』)


 メルの荷物を軽く浮かせながら野暮な事を聞いてみる。


「うん。私、前世から男性不信だからあれで良いの」


 メルは少し俯き、口を尖らせた。


 男性不信になった理由は……聞かない方が良さそうか。メルは以前から前世の事をあまり話したがらないが、それも何か関係してるのかな。


(『そうか、なら仕方ねぇな!』)


 俺は自分の手をひとつ増やすと、その手でメルの頭をワシワシと撫でた。それを少し鬱陶しがりながら苦笑するメル。


 二人でちょっかいを掛け合いながら歩いていると、いつの間にか村長のジジイの家の前に着いていた。テスタントとの待ち合わせ場所だ。


「おお、来たのぅメル。待っておったぞ!」


 村長のジジイは今日も声がデカい。


 その場に居たのは、事の発端であるテスタント、モルドーとエリスの二人はもちろん、村の命運を背負った状況であるメルの旅立ちを見ようと集まった村人達。


 モルドーとエリスはメルへ近づき、お守りと服の上から羽織るローブをメルへと手渡した。ローブは赤と黒を基調としており、テスタントの服の色合いと少し似ている。


 メルへ手渡す際にモルドーとエリスは―――


「これは朝、教会でお祈りをして頂いてきたお守りだよ」


「こっちのローブはね、その時にミルザから頂いたのよ、昔ミルザが使っていたんですって」


 ―――と言いながらメルのことをギュッと抱きしめた。


「わぁ!ありがとう!!私、お守りもローブも大切にするね!」


 メルは眩しいくらいの笑顔で二人にお礼を言った。バースに見せた氷の表情とはまるで別人である。


 それに騙されるチョロいモルドーは愛娘に抱きつき、鼻の頭がひん曲がる勢いで頬擦りした。


「絶対に無事に帰ってくるんだよ!メルが無事なら村なんて何回滅んだって良いんだからね!」


 いや、それはダメだろ。エリスは他の村人と笑いながら話しているし。全く、どれだけメルを信頼してんだか。


「準備は宜しいでしょうか?宜しければ出発するとしましょう」


 待ちくたびれたのかテスタントが出発を促す。


(『そういやどうやって行くんだろうな?歩いてくのか?聞いてみてくれよ』)


「テスタントさん、テスタントさんはお空から飛んで来たけど。またお空を飛んでお城まで行くんですか?」


 俺のお願いにひとつ頷き、メルはここぞとばかりに子供っぽく聞く。その可愛らしい質問者を見て、テスタントの口角は少し緩んだ。


「ええ、そんなところですね。村はずれの広い場所まで行けば分かりますので、そろそろ出発しましょう」


 そう答え、村の北側へと歩き出した。村の南にはウラド山脈がそびえるが、北側にもツナウという山脈があり、陸路での道は直接北側へは通じていない筈。


 それを気にする素振りも見せないでまっすぐ北に向かうってことは、やっぱり浮遊魔法とかがあるのか?空からやって来たしな。歩きじゃなくて良かったぜ。


 集まっていた村人を含めた集団が、北側の村はずれ目指してぞろぞろと練り歩いて行く。三十分は歩いただろう、周りにもう家などは無い。


「ここらならば良さそうですね。皆様、私から離れていて下さい」


 おもむろに場所を決めたテスタントが歩みを止め、村人達に言った。


 なんだなんだ、何をするんだ?なんか俺まで緊張してきたぞ!


 テスタントが大きく息を吸い、集中を始める。


 ただならぬ雰囲気に、期待と不安で緊張し始めた俺も、緊張を解くべく大きく深呼吸。と同時に、テスタントが魔力を解き放った!


「ドラゴフォーム!」


 テスタントが魔法を唱えると共に辺りは閃光に包まれる。その場の空気は振動し、軽く砂埃が舞った。


 コイツは砂埃をたてないと気が済まないのだろうか。


「ピェー!」


 砂埃の中から聞こえた何かの高い鳴き声。


 メルや離れた村人達もゴクリと息を飲む。そして、それは砂埃の中から姿を現した!その姿を近くで見ていた俺とメルに衝撃が走った―――。


 これは……!ドラゴン!!?ドラゴンなのか!?ドラゴンにしては……小さすぎる!ミドリ亀の赤ちゃんくらいの大きさだ。


 東京ドーム五千分の一個位だ。つっても、もちろん適当だ!何でもかんでも東京ドームの数で言いやがって!都会の悪魔共がぁ!あっつ、今はそんな話じゃなかった。申し訳ない。


 小さすぎないかコレ、「ピェー!」とか言われても何言ってんのか分かんねぇな。一応、羽はあるみたいだけど。


 目の前に現れたちょっと可愛い生物に困惑する二人―――。近くへ見に来た村人達も残念な面持ちでトカゲを眺めている。


「多分、乗れっていうことだよね?じゃあ皆、行ってきます!」


 メルはそう言うと、三センチ位しかない“テスタントドラゴン”に飛び乗った!


 ―――ズシッ!

「プギィーーー!!……ピィ…」


 血反吐を吐いて動かなくなったテスタントドラゴン。


 ―――えっ?死んでる!?て、天(使族)さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!

 俺の心の叫びは空虚(くうきょ)に響いたのであった。


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