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#113 道すがら。(2)

 北門への道すがら、アーマスは「メルも今後は付き合いがあるかもしれないからな」と前置きをして説明を始めた。


 その内容、まずは貴族について――。


 前国王クロックス・ドラフォイの死後暫くの間、貴族達の派閥争いにより国王不在の次期があり、その争いにより少なくない数の貴族が御家取り潰しや、降爵となった。


 現在も派閥は分かれており、王家(現在はドラフォイ家)と懇意にしているのは二つの公爵家と一つの伯爵家、それに連なる子爵や男爵の家柄。


 敵対しているのは(と言っても、当然ながら表面上ではドラフォイの家とも懇意にしているのだが)一つの伯爵家と、それに連なる子爵や男爵の家柄。


 そういった背景もあってか、貴族達との時間ばかりを要する交流を過度に嫌う国王は、側近として身の回りには、大臣ではなく、直属の騎士団イーストランスや王国魔法師団を置いている。


「貴族さんは人族だけですか?」


 すれ違う人々の中には、それなりの数の獣人族やエルフも居た。

 他の種族が居たとしても、人混みを素早く避けながら歩くメルに分かるのは二つの種族だけであった、というだけなのだが。


 アーマスの話には亜人に関するものが無かった為に出た、メルの率直な質問である。


「今のところ、ベクールにいる貴族の当主は皆、人族だな」


「けど、ほとんどの屋敷には多くの亜人も雇われているらしいニャ」


「なるほどです」


「ちなみに、ベクールにはあまりないけど、北の大国ノースサフロとかだと亜人に対する差別があるって話ニャ」


「差別なんて、同じ人種族なのに馬鹿みたい。少しはメルを見習って欲しいものだわ」


「なんたって、人種族じゃない上に、あの見た目のルベルアに生まれた瞬間から付きまとわれてたって話だからニャ」


「しかも変態でしょ?あたしだったら舌を噛み切ってたわ」


 急に放り込まれたルベルアに対する悪評に動揺するメル。

 うっかり通行人にぶつかりそうになり「ごめんなさい!」と添えてヒラリと身を躱す。


「ほえ?」


 六人の小走りは一般人の全力疾走に近いものがあり、メルに謝られた当の本人は驚く間もなく、ポカンとして足を止めた。


「え、えへへ、変態でもルアさんは良い人だよ」

(ルアさん!私、ちゃんとフォローしといたよ!あっ、付きまとわれてたっていうのも誤解だけど)


「話が逸れたが、貴族についてはここらにしておくか。本来ならば、貴族同士の繋がりを強固にするのも国王の仕事なんだけどな。ぶっちゃけ、疲れて嫌になったんだろう」


「人族は面倒」


「激しく同意ニャ」


「本当にね」


 リエルが頭をわしわしと揉みながら呟くと、ミナとヤハスも大きく頷いた。


「これでも凄く簡単な説明なんですよね?」


「ああ、かなりな。正直、俺も面倒臭くて家を捨てた身だ」


「あんたの場合は家を追い出されたんでしょ?」


「まぁな。五番目の息子ともなれば、追い出すにもあっさりしたもんだったぞ。で、街についてだが――」


「待って、その前にアーマスはあたしを肩に乗せて」


「おいおい、もう体力の限界か?」


「仕方がないでしょ?あたしは女の子なんだから」


「ヤハス様とアーマス以外は女の子なんだけどニャー」


「ヒール!」


「ヤハス様ありがとうございます。では続きを――」


「お願いします!」


 次にアーマスが話し始めたのは王都内部の区域について。


 まず、王都はワプル村が五つはすっぽりと収まるくらいの広さがある。

 王城のある高台を基準にして上から眺めたとすると、街の広さは左右対称ではなく、圧倒的に東側が狭い。

 上下で見ると、左右ほどの大差はないが、南側の方が大きく広がっている。


 東西南北に一つから三つほど設けられた門のそれぞれには、近くに兵士・騎士の寮や育成舎があり、怪しい者の侵入や、外敵からの守りを固めている。


 また、王城から真っ直ぐ西には、初代ベクール王のリシテア・ベルヴェデーレの名前を由来とする【リシテア街】と呼ばれる、男爵以上の家の当主及び、その血族だけが住むことを許された専用区がある。


 その逆、城から東から北東にかけては(ベクール王都・東門より北側)にはベクール総合学園や学園寮、ローグ協会やライフ協会の建物や、ローグとライフの依頼(クエスト)を斡旋する為の【ギルド】と呼ばれる複合施設などが建ち並ぶ。


 基本的には、(メルも通った)中央道りや、商業・工業通りの様に人で賑わっており、立派な施設も多い。

 が、別の場所には悪どい事を生業とした者達が監視の目を盗み、品を変え、場所を変え、運営している施設などもある。

 それらは主に、南東に位置する貧民街と呼ばれる区域、南西の端に通称【クロード通り】と呼ばれる治安の悪い区域に集まっている。


「――とまぁ、ざっくりした説明だと、こんなところか」


「長ったらしい説明だけ聞いてもよく分かんないよね」


「オイ」


「このごたごた(・・・・)が済んだら一緒に色んなお店を見て回ろうか」


「はい!お願いします!」


「レイア!私も、私も一緒に見て回る!」


「オッケー。けど、何も(おご)らないからね?」


「えっ……?」


「「えっ!?」」


(リエル……奢ってもらうつもりだったんだ)


 ヤハスのヒールを頼りにしつつ、小走り気味に三十分以上は歩いただろうか。

 周囲に大きな建物は無くなり、視界には遠くの景色まで映るようになっていた。道幅も街中に比べてずっと広い。

 行き交う一般の民の数はぐっと減り、代わりに軍用馬車や馬を歩かせている兵士が列を作っている。

 軍用馬車を運用する兵士が増えたという事は、王城裏門からの道と一般道が合流したという事であり、北門までの距離が残り僅かという表れでもあった。


「(メル、ルアさんの位置は?)」


 リエルが周りの兵士に聞かれぬように注意を払いながら尋ねると、メルは「ちょっと待ってね」と答え、軽く意識を集中する。


「(えっと、謁見前に確かめたルアさんの位置がフスカだとして、まだフスカの近くに居ます。けど、多分、空を飛んでる)」


 これを聞き、他の者も考えを巡らせた。


「(空を?きっと、フスカで鉢合わせた調査隊からの追撃を避けるためだね)」


「(まさか直接王都に飛んで来たりしないよな?)」


「(シャルティって人が言ってたけど、チャロ付近に居るらしいローグの存在も気になるね。王都(ここ)に来る途中で戦闘になって死人を出すような事になったら大変だし)」


「(ベクールには行かないようにと、テスタントさんに何度も言われてたから大丈夫だと思います。それに、ルアさんは優しいから、ローグと戦闘になっても必要以上の怪我をさせる事はないかと)」

(【トランス状態】を知らなかった頃の私が無茶をした時はちゃんと叱ってくれた。

 テスタントさんと初めて会った時にはトドメを刺そうとする私を止めてくれた。

 ルアさんはいつでも他人(たにん)の気持ちを考える、世界一優しい悪魔だもんね)


「(うん。私もルアさんなら大丈夫だと思います)」

(いつか、天使の戦士達がミハエル様に呼ばれ、話を聞かされた事がある。

 メルが初めて浮遊城に来たとき、メルに流れるルアさんの魔力(マナのにおい)を感じとり、怒りに捕らわれたミハエル様はメルを殺そうとしたのだと。

 戦闘になり、結果敗れたのだが。ルアさんの存在を知った時、ミハエル様に浮かんだ大きな疑問。

 あれほど強大な力を持つものならば、余が攻撃を仕掛けた瞬間に返り討ちにすることが出来たのではないか?という疑問が。

 けれど、戦闘に参加した戦士に死者が出なかったこと、負傷した天使族を律儀に医療班の元へ運んだルアさんの行動を思い返す内に、ミハエル様は気が付いた。

 強大な魔力を持つルアさんが即座に反撃をしたならば、戦士ではない天使族や、浮遊城そのものが甚大な被害を受ける。

 ルベルアはそれを避けたのだ、と。

 そんな()が、むやみに罪のない人の命を奪うとは考えられないもん)


「(自分も異論はないよ。ええと、そう、マオーサマはともかく、黒ノ……はマズイか。ユクス様も一緒だからね)」


 口では素直に言わないヤハスだが、フスカで見たルベルアの暴走を念頭に置いたとしても、メルやリエル同様に、心の中ではルベルアの人格を信じていた。

 フスカで暴走したルベルアが本気で全てを破壊しようとしていたならば、とうに自分達は死んでいたと理解しているからだ。

 ヤハスだけではなく、他の三人も同じ考えである。


「(ヤハス様、ユクスだけじゃなく、ルベルアも名前で呼んだ方が何かと不都合が無くなるニャ)」


「(それもそうだね。外側と中身がちょっと変な人族だと思って諦めるか)」


「(何を諦めるニャ?)」


「(認めるあげるってこと。さて、そろそろ北門だよ」


 ◇◆◇


 ほどなく北門へと到着したメル一行。

 門の外側にはベクール王都とアクンを結ぶ幅の広い道が一本だけあったが、先に北門に到着していた騎士や兵士達はその左側、どこまでも続く草原の一角に集まっていた。


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