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#112 道すがら。(1)

 謁見の間を後にしたメル達は、兵士に預けてあった装備を受け取ると、そのままの足でベクール王都・北門を目指した。


「お城の中、さすがに慌ただしかったですね」


「そりゃあね。幻魔族が再誕しただけでも大事(おおごと)なのに、それが此処を目指しているなんて聞いたらジッとしてなんかいられないよ」


 メルのふとした呟きに答えるヤハス。二人のやり取りに、リエルは不安を抱いた。


「作戦が終わった時、本当にメルとルアさんは受け入れてもらえる?」


「リエル、心配してくれてるの?きっと大丈夫だよ。ルアさん、明るい性格だから、あんなに怖い見た目なのに、ワプルや天使の皆とも仲良くしてたもん」


「天使族がルアさんを受け入れてたのはミハエル様が認めたからってだけだし、ワプルの人も……ルアさんと仲良く、とは違う気がする」


「ううん、そんな事ないよ。もしも私とルアさんの見た目が逆だったら、私と仲良くしてくれる人なんて居なかったと思う」


「私は仲良くするもん!」


「えへへ、ありがとう、リエル!」


「ねぇ、メル、見て。ここも結構綺麗だね」


 西向きに城門を構えるベクール城。


 城門には、正門と裏門の二つがあるが、裏門は基本的には国王に従属している騎士や兵士の為のものであり、通常の道よりも多くの馬や馬車が通ることを想定し、門も道幅も広く作られている。


 今、メル一行が居るのは城の正門を抜けたところ。


 街から高台にある城へ来るには、水の流れる堀に上り勾配で架けられた橋と、五十段程の階段(一部スロープ)を登る必要がある。

 その為、城から出た時には広い景色を見渡すことが出来るのだ。


「うん。来るときはお城ばかり見てたから気付かなかったけど、すごく華やか。奥にも大きな建物があるけど、あれも全部お店かな?」


「奥に見えてるのはリシテア街だから、店じゃないニャ」


「人族は贅沢。あの小さめのでも、ミハエル様の城より大きい」


「貴族の家ニャ。色んな家の貴族が一つの都に集まるなんて他の国じゃあり得ないから、ある意味ベクールの名物ニャ」


「わはぁ」


 喋りながらも黙々と足を運ぶメル達は、高台からの橋をあっという間に下り、都の中を進む。

 メルとリエル以外はベクールでの知名度が高い為、念のためにと薄いフードで顔を隠していたのが幸いし、四人のローグに気付く者は居なかったが、周囲には多くの民が駆け回っていた。

 幻魔族の襲来に先駆け、少しでも食料や飲み水を確保しようとする者、少しでも早く詳細な情報を仕入れようと王城へと向かう者、残り僅かな命になるかもしれないと考え、愛する人の元を目指す者。


 避難をするために、長持ちのしない調理済みの食料の叩き売りをしている店もあり、通るついでにと、アーマスは大きな葉に包まれた幾つかのサンドイッチや串焼きの肉を購入した。


「ウハハハハハッ!良いぞ良いぞ!富があろうが、権力があろうが、死は誰にも平等だ!」


「なんでお前みたいな奴がここに居るんだ!?誰か、衛兵を呼んでこい!」


「ウァハハッ!好きにしろ!牢屋の方が安全かもしれねぇからな!」


 騒然とする中で、何処かの誰かが叫んでいた。

 真っ白で手入れのされていない髪、痩せこけた頬。

 不遇の中で暮らしている者なのだろう。そう映った。少なくとも、メルの目には。

 そして気付いた。いつか、日々の生活に苦しむ人の助けになりたい、辛い環境を変えてあげたいと強く感じている事に。


(自分の事だけで精一杯だった私が、こんな風に思う日が来るなんて。これもきっと、ううん、絶対に!皆が居てくれたおかげだよ!)


 まずは【兄妹演技作戦】を無事に終わらせなければ。そう思うと、メルの足には一段と力がこもった。


 王城を背にしてから暫く――。


「ヤハス様、国王にシャルティって呼ばれてた人は何者?あの人から凄い魔力を感じたけど」


「私も気になりました!隠しきれないくらい魔力に溢れてましたね」


 足早に歩く中でふと思い付いたように切り出したレイア。それを聞き、メルも即座に興味を示す。

 すると、ヤハスは「んー」と唸った後、杖を手にしたままの腕を組み、言葉を続けた。


「多分だけど、十年以上前にトーラスが作った王国魔法師団の団長だと思う。自分も見るのは初めてだけどね」


(腕を組んだまま早歩きをするヤハス様、ちょっと可愛いニャ)


「魔法師団……」


「ヤハス様でも見たことないんだ。なら、あたしが知ってるわけないや」


「国王お抱えの魔法師団の団長ともなれば、ローグで言うところの上位魔法師(ソーサラー)と同等の力はありそうだな。魔法勝負をしたとすると、勝てそうか?」


アーマス(あんた)の、なんでも比べたがるのは悪い癖だよ」


「まぁ、そう言うな」


「どうだろう。魔力勝負は相性にもよって優劣がかなり変わるから、相手の属性が分からない以上確かな事は言えないけど、単純な魔力量なら向こうが上」


「なるほど。レイアがそう言うなら、上級騎士が出払っていてもベクールの守りは心配なさそうだ」


「ルベルアが本当に攻めてくる訳じゃないんだから、そもそも心配する必要はないでしょ」


「そんな事ないぞ。モンスターは空気を読まずに発生するもんだろ?大切な俺のファン達に何かあれば大変だからな、心配もするさ」


「はぁ……ばか」


 アーマスの無邪気な笑顔に、レイアは呆れるしかなかった。

 そんな二人の話に区切りがついたことを見計らって、メルも「ちょっと良いですか?」と切り出した。


「どうしたの?」


「イーストランスや、この国について教えてほしいんです!私、知らない事の方が多いから……」


「仕方がないよ。浮遊城には歴史に関する本が少ないもん」


 レイアは顎に指を添え、一呼吸考えた後、メルの疑問に答えた。


「なるほどね。イーストランスはベクール最強とされる国王直属の騎士団のこと。トーラス様の祖父が王位に就いてから作られたらしいよ。紋章として描かれているのは星降りと槍を構えたライネルホースの騎士。それが鎧に刻まれていればイーストランスの証だよ」


(そう言えば、リエルが掴まれた時、冷静になれなかった私はハーリッドさんを突き飛ばそうとした。けど、ハーリッドさんは私が触れる前に後ろに跳んで躱していた。速さだけならルアさんにも負けない自信があったのに)


「ハーリッドさんが凄く強いのは、私にも分かりました」


 レイアからの答えに謁見の間での出来事を思い返したメル。と、今度はヤハスが口を開いた。


「イーストランス団長ハーリッド・ドラフォイ。彼とは一度モンスター討伐に出た事があるけど、お世辞抜きで優秀な騎士だよ。多分、特別な力を持っていると思う。確か、トーラスの一人息子だったね」


「はい。トーラス様が王位を継承して間もなく、王妃であったリビア様が病にてお亡くなりになったので、ハーリッド殿下が唯一のご息子の筈です」


 アーマスのした補足に、ヤハスは小さく溜め息をつき、メルはギュッと胸を押さえた。


「そう……トーラスも色々あったんだね。次期国王もドラフォイが継ぐ!なんて固執してるクセに、側室を持ってハーリッド以外の世継ぎを作らないのが何故なのか不思議に思ってたけど、少し納得したよ」

(謁見の間で見せた心境の変化も、そこら辺が理由かな?)


「トーラス様、きっと今でも奥様を愛しているんですね」


「だからって側室を作らないのは、変わり者の国王としか思えないニャ」


 まだ今回の謁見で後払い分の報酬を貰えなかったことを根に持っているミナ。ベクール王への仕返しとばかりに、感傷的になっている二人の言葉をぶった切る。


「せっかくだし、この国の内情について簡単に話そうか?出来るだけ簡単に」


「あっ、お願いします!」


 北門への道すがら、アーマスは「メルも今後は付き合いがあるかもしれないからな」と前置きをして説明を始めた。


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