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第三章 ~『ダークエルフと挑戦状』~

「父親が無事で良かったな」

「はい」

 元国王との再会を果たしたニコラたちは、次の目的を果たすため都市の中央にある特設闘技場へと向かう。特設闘技場は闘う舞台を紐で仕切っただけの簡易なものだ。その闘技場を大勢のエルフたちが囲い、二人のエルフが闘う様子を観戦している。


 対戦相手の一人はダークエルフの青年だ。小麦色の肌と墨で塗ったような黒い瞳に黒い髪。耳はエルフ族らしくピンと尖った形をしていた。もう一人は白い肌のハイエルフの青年で、手には剣が握られている。


「素手のダークエルフと剣士のハイエルフか」

「どちらが勝つと思いますか?」

「決まっている。ダークエルフだ」


 ニコラの予想はすぐに結果へと変わる。ダークエルフの青年は消えたかと思うと、ハイエルフの整った顔に拳をねじ込んでいた。ハイエルフの青年は鼻を折られ、血を吹き出しながら倒れる。まだ意識はあるのか、何とか立ち上がろうと、震える身体を動かしていた。


「皆、目撃したな。こいつはハイエルフでも腕の立つ剣士だ。だが私と比較すれば子供と変わらない。ダークエルフはハイエルフよりも優れているのだ」


 観客のダークエルフはウンウンと頷き、ハイエルフたちは納得できない表情を浮かべる。ハイエルフたちが反論を口にしないのは、敗れた青年が顔を苦痛で歪ませる姿を見て、自分もこうはなりたくないと恐怖したからだ。


だが中には勇気を示す者もいた。子供のハイエルフが震える青年を庇うようにダークエルフの前に立つ。


「お兄ちゃんをいじめたなぁ!」

「お前、こいつの弟か?」

「そうだ」

「なら教えておいてやる。ダークエルフは今までハイエルフたちに敗北者と馬鹿にされ続けてきたがそれは間違いだ。真に優れたエルフはダークエルフなのだ。その証拠を見せてやろう」


 ダークエルフは子供を掴んで観客に放り投げると、倒れるハイエルフの青年の顔を踏みつける。そのあまりの屈辱にハイエルフの青年は悔し涙を浮かべた。


「それくらいにしてください!」


 アリスの声に反応し、ダークエルフは踏みつけた足を退かす。ニコラとアリスの二人は仕切りの紐をくぐり、闘技場の中へと入る。観客から「姫様」という声が漏れ始め、それがざわめきへと変わる。


「誰かと思えば、ハイエルフの姫か」

「お久しぶりですね、ケルンさん」

「何をしにエルフ領へ戻ってきた。お前の居場所はもうない。我らダークエルフこそが、エルフ領の支配者になるのだ」

「つまりダークエルフの長であるあなたが、次の王になると?」

「その通りだ」

「しかしそれは絵に描いた餅です。あなたはまだ国王戦で優勝したわけではありませんから」

「そうだな。だが私は国王戦ランキング一位だ。つまり最も次期国王に近いエルフだ」


 次期国王を決める国王戦はランキングの上位八名のトーナメントで決定する。国王戦ランキングは決闘の勝敗で順位が入れ替わるため、順位が高ければ高いほど強い戦士だともいえる。つまり一位の座に位置するケルンは、現状優勝を得る可能性が最も高い候補であった。


「あなたはエルフ領の王になり、何をするつもりですか?」

「決まっている。まずはハイエルフをダークエルフの奴隷とする法律を制定してやる。我らダークエルフが味わった屈辱を、お前たちにも味合わせてやろう」

「そうですか……」


 アリスの顔つきが変化する。国王戦で勝利する決意の炎が瞳の奥に灯った瞬間だった。


「確かにあなたは強い。最も優勝に近い存在の一人でしょう。しかしあなたは優勝できませんよ」

「なら誰が優勝する?」

「私です。私が優勝し、ハイエルフとダークエルフが仲良く暮らせる国を作ってみせます」


 アリスの宣言にケルンは嘲笑を浮かべる。最弱ともいえる貧弱な闘気を放つハイエルフの姫が、猛者集まる国王戦で優勝する。できるはずがないと、ケルンだけでなく、観客のエルフたちまでもがそう思った。


「アリスは優勝するさ。俺が保証する」

「お前は?」

「アリスの師匠のニコラだ」

「お前……強いな」


 ケルンは嘲笑を消して息を吞む。彼の本能がニコラには勝てないと告げていた。


「お前がエルフ族なら私は優勝を逃していたかもな」

「当たり前だ。俺が出場すれば、全員指一本で倒してやる」

「凄い自信だ。だが肥大した自信だけを弟子は受け継いだようだな。ハイエルフの姫ではランキング上位八名に残ることすらできない」

「本当にアリスが弱いか、いまここで戦って試してみろよ?」


 ニコラが挑発すると、アリスは戦闘体勢を取る。控えめにした闘気を放ちながら、ケルンの動きを見逃さないように注視する。


「……残念だが、私は既にランキング一位だ。ハイエルフの姫とは闘わない」

「臆したのか?」

「いいや、闘う価値がないのさ。もし私と闘いたいのならランキングを昇ってこい。お前が私の前に立て!」


 ケルンはそう言い残し、特設闘技場を後にする。その背中をアリスは悔しげに眺めることしかできなかった。


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