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第二章 ~『襲撃犯のボス』~


 旧校舎の最上階、教員用の個室とは比べ物にならない広さを持つ学園長室の椅子から外の景色を見つめる者がいた。窓から覗く景色は絶景で、黒い海と黒い空を、さんさんと輝く星が照らしていた。


「……エルフの姫を連れてきました」


 学園長室に姿を現したのは、気を失ったイーリスと人質のアリスを連れた長髪の男だった。


「ニコラに勝利したようね」


 椅子から立ち上がった人影は月影に照らされて正体を現す。その正体は漆黒のドレスを身に纏った麗人、サテラであった。


「ではイーリスをこちらに。彼女は良く働いてくれましたから、少し休ませてあげましょう」

「どうぞ……」


 長髪の男がイーリスの身柄を引き渡す。その時、サテラはイーリスの身体から少女とは思えない重さを感じ違和感を覚える。その違和感の正体が、イーリスの身体を覆う魔法の光が解放されることで明らかになる。光が晴れて、姿を現したのは、ニコラの変身魔法により姿を変えられていた長髪の男だった。


 こうなると次の手は決まっている。ニコラは長髪の男に偽装する変身魔法を解除し、呆気に取られているサテラに奇襲を加える。闘気を集中した蹴りが、彼女の身体を吹き飛ばした。


「あばらにヒビが入ったわね。だが折れてはいないわ」


 戦闘に支障はないと、サテラは毅然とした態度を見せる。


「それにしてもあなたの卑怯は変わらないわね、ニコラ」

「まさかあんたが黒幕だったんだな。姉さん」

「私が襲撃犯のボスだと気づいていたの?」

「もちろんさ。オークスの叫び声は資料館にいる俺にも聞こえたんだ。なら同じ旧校舎にいる姉さんも必ず声を聞いているはず。それなのに助けに行かないのはおかしいだろ」

「私が敗れたとは考えなかったのかしら?」

「俺が今まで闘った奴らは、姉さんより実力は下だ。奇襲を受けたならともかく、どちらも正面からぶつかるタイプだったし、万が一にも遅れを取ることはないだろ」

「さすがね。さすがは私の弟」


 サテラは口元から笑みを零すと、何かを決意したような表情へと変わる。


「なぜこんなことをしたんだ?」

「国王戦のために必要なことだからよ」

「国王戦か。そういえば単語だけは聞いたな」

「当初はダークエルフによる革命が計画されていたの。血で血を洗うハイエルフとダークエルフの国内紛争が始まるはずだった。けれどね、エルフ領の国王は代替案を出したわ。自分が王座を退く代わりに、平和的に解決しようってね」

「そんなことが……なら次の国王には誰がなるんだ?」

「それを決めるための闘いが国王戦よ。エルフ領の市民権を持つ者なら誰もが参加できるトーナメントで、ハイエルフやダークエルフの種族的な参加制限はないし、市民権さえあるのなら、エルフでなくても良い。最後まで勝ち残った優勝者が次の国王になるの」

「その国王戦とアリスを誘拐することがどう繋がるんだ?」

「それはあなたが私に勝てたのなら教えてあげる」


 サテラは全身から刺すような闘気を放つ。応えるようにニコラも闘気を放ち、戦闘態勢を取る。


「随分と弱々しい闘気ね。いつもの油断をさせる作戦かしら? なら無駄だから止めなさい。私は油断しないわ」

「そんな陳腐な策が通じるとは思っていないよ」

「なら今までの戦いで闘気を使い過ぎたのかしら」

「……闘気が少なくなっても、格闘術の技量は変わらない。どんな状況でも俺は勝つよ」

「それでこそ私の弟よ」


 サテラはそう口にすると、一歩前へと踏み出した。そしてそれが終わりへの第一歩となった。


 ニコラは口元に大きな笑みを浮かべる。その笑みは次第に大きくなり、ニコラの顔が崩れていく。


「まさか! 変身魔法!」


 サテラは眼前のニコラが擬態だと気づく。変身魔法は解除され、アリスが姿を現した。その瞬間、サテラはすべてを悟る。


「ならニコラは――」


 サテラの背後で人質として戦いを見守っていたアリス、いや、アリスの姿をしたニコラが、サテラの背後を襲う。


「遅いな、姉さん!」


 内臓を抉るような拳が、サテラの脇腹に突き刺さる。彼女の油断した闘気では守りきれず、一撃で骨と内臓を粉砕した。彼女の口からは血があふれ、片膝を付く。


「ひ、卑怯者!」

「卑怯なことは知っているさ。だから勇者パーティから追い出されたのだからな」


 あらゆる手段を使って勝利する。変わり身や背後からの攻撃、なんでも使うからこそニコラは絶対の勝利を手にするのだ。


「化かし合いで遅れを取って、敗れるなんて……」


 もう立つことができないのか、サテラは口から血を漏らしながら、何とか言葉を紡ぐ。


「本質はそこじゃないさ」

「なら一体?」

「弟子の有無さ」

「…………」

「もし素人を変身魔法で俺の姿に変えたとしても、姉さんはすぐに気づいただろう」

「でしょうね。アリス様の構えがあなたそっくりだったからこそ騙されたの」

「闘気は体調により増減するし、意図的に抑えることだってできる。だが体に身に付いた構えだけは簡単に偽装できない」


 武闘家は構えにすべてが現れる。ニコラの技を習得したアリスがいたからこそ、この作戦が成功したのだ。


「アリスを俺だと信じたからこそ、姉さんの注意は偽物へと向いた。だからこそ背後からの奇襲が成功したんだ」

「弟子の差ね……あはははっ、だからこそ武道は面白いわね」


 サテラは笑う。口から血を流しながらも、その表情はどこか楽し気だった。その笑い声はまるで弟であるニコラの成長を喜んでいるかのような声だった。


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