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第一章 ~『支配人の逆張り』~

 午前の勉強を終え、昼食を取り終えたニコラとアリスは首都シャノアの繁華街を歩いていた。目抜き通りには物売りと観光客が溢れて混雑している。


「今日は随分と人が多いな」

「それはきっと勇者様が来ているからですよ」

「例の女勇者か」

「はい。サイゼ王国との友好を兼ねての訪問らしいのですが、勇者様はシャノアでも人気がありますからね」

「勇者だからな。人気があるのも当然か」


 ニコラは自分を裏切ったジェイが魔法使いのメアリーと女剣士のジェシカ、二人から愛されていたことや、訪れる街々で黄色い声が尽きなかったことを思い出す。外見が人並み以上であれば、人気は止まることを知らないだろう。


「先生、賭博場が見えてきましたよ」

「やっと着いたな」


 目抜き通りを抜けた先にはシャノアで最も大きな賭博場があった。大理石でできた建物の中は赤絨毯が敷かれ、室内全体を装飾品の煌びやかな光で照らしていた。


「よう、支配人」

「これはニコラ様」


 支配人と呼ばれた老人が、蓄えた白髭に触れながら、ニコラの姿を認める。背後に隠れるように立つアリスにも気がついたのか彼は眼を細めた。


「こちらは……アリス様ですね」

「どこかでお会いしたことが……」

「いえ、アリス様は有名ですから。本日はなぜニコラ様とご一緒に?」

「俺の弟子にしたのさ」

「ほぉ……なるほど。ニコラ様のお弟子様ですか。それならさぞかしお強いのでしょうね」

「いいや。まだまだヒヨッコだ。そんなヒヨッコに俺がどれほど強いのかを見せてやろうと思ってな」

「そうでしたか。では本日の目的は――」

「賭け試合に出場させろ」


 賭博場の中で最も人気なのが、強者同士を闘わせ、どちらが勝利するかを予想する遊戯であった。動く金も莫大なため、生半可な実力では参加すら許されないが、支配人はニコラの実力を知っていた。


「ニコラ様なら大歓迎です」

「そうこなくっちゃな。ただ相手は可能な限り強い奴にしてくれよ」

「その点は心配無用です。強すぎるが故にマッチメイクできない選手がいるのです」

「それは楽しみだ。試合はハンデ戦でもいいぞ」


 ハンデ戦とは一方が強すぎるが故に賭けが成立しない場合、片腕の使用を禁じたり、闘気を制限する指輪を嵌めたりすることで、弱体化させて闘う試合のことである。この試合形式だとハンデを受ける選手に利点はないように思えるが、勝利報酬をいつも以上に貰えるため、好んでハンデ戦を望む者もいた。


「ではハンデ戦でお受けしましょう。対戦相手ですが……」

「対戦相手の情報はいらない。今日はいつもの戦い方をしないつもりだからな」


 卑怯な手段なしで勝利するのが目的の闘いで、相手の隙を付くような闘い方は使うべきでないと判断したニコラは支配人の情報提供を断った。


「では闘気量を三分の一に制限する指輪です。これを嵌めて闘ってください」

「ああ」


 ニコラは制限の指輪を嵌めると、戦いの舞台へと移動するための魔方陣に案内される。淡い光を放つ六芒星が大理石の床に刻まれていた。


「アリスも連れて行くが構わないよな」

「……手助けすれば即失格ですよ」

「アリスの手助けは足手まといになるだけだ。そんな心配は無用だ」

「……分かりました。今回は特別に許可しましょう」

「ありがとう」

「ではご武運を」


 アリスもニコラに寄り添うように魔方陣の上に乗る。淡い光に包まれて二人は別の空間へと転移した。見送った支配人は傍にいた若い従業員に声を掛ける。


「そこのあなた」

「はい、なんでしょう」

「この金貨百枚をニコラ様に賭けてきてください」

「支配人、よろしいのですか。相手はあの人ですよ」

「構いません。だからこそ大穴なのです。私はニコラ様が勝利すると確信していますから」


 若い従業員は納得しない表情のまま金貨を受け取る。対照的に支配人は口元に笑みを貼り付けていた。


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