1. 夢見る少女と看板娘
「まず、どういう事態なのか把握する必要があるね」
触手と格闘しながら海が言う。
「いつから生えたんだろうな」
「言われるまで全然気付かなかった…くっ、この…」
触手に避けられてるところから察するに、意識して動かせるものではないらしい。
「ここに来たときから生えてた、とか?」
なんとなくそんな気がする。
「その、可能性は、あるね…痛っ!」
ぶちっという音とともに、海がのたうち回る。
自分で触手を踏んでしまったらしい。ちぎれたのか。
ちぎれた触手はすぐに動かなくなった。
「大丈夫か?痛い?」
心配して尋ねると
「いたいにきまってるだろ!」
涙目で怒られた。
「髪の毛をつかんで引っこ抜かれたような痛さだったよ…無理に抜こうとしない方がいいね」
「そりゃ痛いな…」
想像するだけで頭が痛くなるな
まあ引っこ抜かれたというか自分で踏んだんだけど。
頭痛を感じながら更に先へと進んでいく。
しばらく歩くと大きな泉が見えてきた。
「おお、綺麗だな。異世界っぽい」
「そうなのか?」
確かに水は透き通ってとても幻想的な雰囲気だ
中ではちょっといかつい魚のような生き物が泳いでいる。
「泳ぎたい気分だな、蒼!泳いでもいいかな?」
海はまたテンションがあがっているようだ
しかし、着替えもないしなぁ
なんて考えていると
「うわあ⁉なんだこれ⁉」
海の悲鳴が聞こえた。海の方を見ると―
あられもない姿の海がいた。まあ、妹だし、なんとも思わない…本当だよ
「いつの間に脱いだんだ?」
「いや、私は脱いでない!なんか触手から液体が…」
見ると触手のぬめりが増しているようにも見える。
自分で自分の服を溶かしたことになるのか。
というより
「服どうするんだこれ」
「あっ」
今さら気付いたのか
当然ながら服は着てきたものしかない、このままだとまずい
「とはいっても、服なんてその辺に落ちてるわけないしな」
辺りを見渡してみても、泉のほとりには何もない。
「フードがついてるやつがいい…人に見られたらどうなるか」
「そもそも人がいるのか怪しいけどな」
人がいたとして、触手が生えてるところ見られたら攻撃されかねない気がする。出来るだけ人目につかないようにしないと
そう思いながら羽織れそうなものがないか探していると、女の子と目があった―
いや、目があったらダメじゃね?
「あ…ああ」
赤色の髪の少女は声を震わせている。
まずい、何とかしないと―
「その魔物のような触手!あなたまさか呪いの…?」
「え?」
少女は海に近づくと手をとった。
何が何やらわからない
「…ごめんなさい、ちょっと興奮しちゃって…」
「え、あ、うん」
海は人見知りが激しい。
というか日本語を話しているように聞こえる。
どうやら言葉は通じるらしい。
「えっと…どなたですか?」
このままだと会話にならなさそうなので、助け船をだす。
少女はこちらに向き直る、着ている服はかなり汚れていて、顔も少し汚れている。俺より頭ひとつ背は低いが、145cmの妹よりは背は高い、150ちょいかな?
「そうね、名乗りもしないのは失礼だったかな。わたしはカンナ、よろしく。」
「俺は蒼、こっちの触手が生えてるのが妹の海だよ、姓はどっちも小笠原」
見た感じは海よりは年上、俺よりは年下に見える。別に胸の大きさで判断したとかそんなことは一切ない。
「オガサワラ…?なんて素敵な姓なの?うらやましい…」
そういえば姓名の順番って違ったりするんだろうか。
「そういえばカンナ…さん?」
「呼び捨てでいいよ、わたし15だし」
予想は当たっていたらしい
「カンナの姓って何なの?」
「…コよ」
「え?」
声が小さくてよく聞こえない。
「ポンコよ!カンナ・ポンコ!あんまり好きじゃないから言いたくなかったの!」
「ご、ごめん。」
「…そんなことより本題に入っていい?ほらウミはこれでも羽織って」
そういえば海がほとんど裸なの忘れてた
カンナがコートのようなものを手渡す―
なんか汗と土の匂いがする。大丈夫か?
「うっ…くさい…」
海の顔が歪む
「しょうがないでしょ洗ってないんだから!」
しょうがないのかそれは
海がいやいやながらコートを羽織ったところでカンナがしゃべり始める
「わたしは、ここからちょっと離れた村のマキシモって村から来たの。二人はどこから来たの?」
いきなり困った質問が来た。どう答えたものか…
「ふっ…ここではないどこか。世界の果てから来たのさ。」
海がノリノリで答える、あながち間違ってもないが
カンナはやっぱり、という顔
今ので納得できるのか…?
「やっぱりね、そんな気がしたの、ウミのその呪いはどこで受けたの?」
「呪い…?」
「呪い⁉」
海はちょっと嬉しそうだ
そういうワードにはすぐ反応するな。
「…誰から受けた呪いなのかは分からないの?」
「いや、気付いたらって感じだった、誰からとかは分かんない」
「そう…もしかしたらと思ったけど…」
カンナは表情を曇らせる。
「何か知ってることがあるのか?」
「…わたしの村でね、呪いを受けた人がいるの。体の一部が魔物になっちゃったのよ」
「それを何とかするために旅をしてるのか」
まさかそんな事情があるとは
「いや、ただ冒険してみたかっただけ、アオも知らない?リナレスの冒険譚とかバルデス旅団の話とか」
「全く」
この世界にも本はあるらしい。
「そういう冒険にずっと憧れてたの、いい機会だなと思ってね」
それでここまで来た、っていうことか
「それで…その…仲間になってくれない?ずっと一人で…」
おずおずとカンナが聞いてくる
こちらとしては願ってもない話だ。現地の協力者は絶対に必要だと思うし、海のことも何とかできるかもしれない
「こちらこそ、仲間にしてくれないかな?心細かったんだ」
答えるとカンナの表情が一気に明るくなった。
「一ヶ月以上ずっと歩きっぱなしだったの、本当に辛かったんだから」
「一ヶ月…そりゃ大変だな」
カンナとともに三人で歩く。
正直すごく安心してるし、何とかなりそうな気もようやくしてきた。
「もしかしてこの服、一ヶ月以上洗濯してないなんてことは流石に―」
「もちろんしてないわ」
カンナはそういって遠い目をする
そりゃ匂うわ。
海が泣きそうな顔で
「蒼、まず服だ、何よりも服を何とかしないとダメになる」
必死に訴えてくる。ぜひそうしよう。
「ところで俺たちはどこに向かってるんだ?」
ずっと気になっていたことを聞いてみる。カンナは迷いなく道なりに進んでいるから、目的地があるんじゃないかと思っていた
「ああ、今向かってるのはこのハイレット王国の副都、タイロンよ。」
副都、大阪か京都みたいなものだと思えばいいのか?
「人は多いのか?」
「多いっていうか、この国で一番栄えてる都市だから。商業の中心みたいよ。」
「人が多いのか…」
想像したのか、海はちょっと顔色を悪くしている。
「じゃあ必要なものは大体揃いそうだな」
シャツに短パンの格好は心もとなさ過ぎる。
「うん、冒険者はたいていタイロンで冒険の準備をするらしいわ」
なんだろう、ちょっとワクワクするな。海ほどこういうことには興味はなかったけど、なんだかとても楽しい。
どんな都市か考えつつ歩を進めていく。
日も暮れてきた頃、森をようやく抜けると、ひらけた場所に出た。そして、副都タイロンの全貌を見ることができた。
「はー、すごいな。思ってたよりでかい」
大きく、美しい城が堂々とそびえ、城下町もかなりの広さだ。間近で見たらもっと大きそうだ。
「ふわぁ…城だ…♪」
海のお気に召したらしい。
「な、なんとか日が暮れる前に着けた…」
カンナも胸を撫で下ろしている。ひとまず目的地には着けそうだ。
「お金はあるのか?なんか物価が高そうなんだけど」
「一応1000ルナ持ってきてるけど…一番安いところでどうにかならないかな」
そのルナという通貨の価値も分からないけど、日本円で考えない方がいいみたいだ。
しばらく平原を歩くと大きな門の前に着いた、警備をしているような兵士が何人かいる。
…頼むから入国審査とかがありませんように
何知らぬ顔で門の中へ入ると一人の甲冑を着た兵士に呼び止められた。
「お急ぎのところ申し訳ないが、手荷物だけ見せてもらってもよろしいか?」
凛とした声の兵士だ。どうやらリーダーらしい。青色の鎧を着ている。
…一瞬ヒヤリとしたが、手荷物検査だけのようだ。
「…特に問題はないようだな…迷惑をかけてしまった、申し訳ない。ギルドに登録されてない者には検査をする必要があるんだ」
「あ、ありがとうございます。」
ひとまず助かった、触手が見られたらどうなるかわかったもんじゃない。
「ふぅ、緊張した。触手もなんだか縮こまっていたな」
海もだいぶ冷や汗をかいたらしい
「まあ、入っちゃえば関係ないだろ。とりあえず宿を探そう、もうクタクタだよ」
帰宅部にはなかなか応える一日だった。出来るだけ早く休みたい
「そうね、さがそう、出来るだけ安いところを」
お金の問題は早めに何とかしないとな
と、いうわけで探しに探して見つけた格安の宿は一泊飯なしで100ルナだった。ちなみに相場は一泊飯付きで800ルナほどだそう。
なんとなく察してはいたけど、相当古い。
「ベッドはなしか、ま、しょうがないわね」
粗末な布団が二枚部屋の隅に置かれているだけ、家具も何もない
「あー臭かった」
海はようやくコートを脱ぎ捨てた。
これ同じ部屋にあったらダメなヤツだ、部屋中が雑巾の匂いになる。
後で井戸水で洗っとくか
「で、これからどうするんだ?」
金の心配は無くもないが、宿の値段を考えればそんなに困っているわけでもない
「う~ん、最低限の装備が手に入ればいいんだけどね、あとは冒険者ギルドへの登録もしないとダメだし」
先ほど買ってきたモヤというコロッケのようなもの(10個10ルナ)を食べながら話を進める。意外と美味しいな
「まずは情報収集じゃない?」
モヤにかじりつきながら海が提案する。
「私たちは物知らず過ぎるよ、このままだとカモにされるだけじゃないかな」
海の発言はもっともだろう
商業の盛んな町、たくさんの店が立ち並んでいる。商人からすれば田舎者の俺たちは格好のカモだろう。
「じゃあ明日することは…ギルドへの登録と情報収集ってことで。今日はひとまず休みましょう」
話がまとまり、各々寝る準備をする。
…俺は床かな。
「蒼、一緒に寝よ」
海が体を寄せてくる。
自分が今上裸なの忘れてるんじゃないか?
「海がいいならいいけど」
海が寝てるところに潜り込む、暗くてあまりよく見えなかったけど、海が少しだけ笑った気がした。
「じゃあ確認するわ、わたしがギルドへの登録」
「俺が情報収集で」
「私はここの警備だね!」
次の日の朝、それぞれの役割を確認。
海はちょっと外に出れないから留守番してもらうことにした。
もともと人と話すのも得意じゃないし、ちょうど良かったんじゃないかな?
「じゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃい蒼、カンナ」
俺とカンナは海に手を振りつつ、別行動になった。
昨日も思ったことだけど
もとの世界の格好がほとんど目立たない、それほど多種多様な人たちがいる。服装も、そして人種も。時おり角が生えた人や獣耳が生えている人たちがいた。
「こう見ると異世界に来たって感じがするなぁ」
しかし、情報収集って何をすればいいんだろうか
「とりあえず物の値段の相場だけでも確認しにいくか」
ひとまず市場を回ってみることにした
この国は四つの市場が存在し様々な物が売られている。
今は100ルナほどしか持っていないが、見たことのない食べ物を見ると、つい目移りしてしまう。
誘惑に耐えながら市場を歩いていると―
「はいはい、そこのカッコイイお兄さん!ちょっとウチの商品見ていかない?」
小柄な女の子に声をかけられた。多分海とそう変わらないぐらいの子だろう。
ついつい足を止めると、女の子は人懐っこい笑顔で近付いてきた
「おっとお兄さんウチの武器が似合いそうな顔してるね~、ね、どうかな、時間は取らせないからちょっとだけでも見ていかない?」
…武器、武器か
ちょっと面白そうだし見ていこうかな
「じゃあ少しだけ」
「おっ、ほんと!いやー、優しそうなお兄さんに声かけて良かったよ~」
そんなわけで、女の子についていってみることにした
声をかけられた場所からすぐ近く、他の店と比べてもかなり大きめの店に案内された
「さ、ここだよ~。ずずいっと奥までどうぞ~」
促されるまま入ると―
「うわ…すごいなこれ」
中に並んでいたのは武器に防具、そして小道具。並び方も圧巻だ
ちょっと圧倒されてしまう
「ぜーんぶウチの工房で作った道具だよ!ウチが作った道具もあるよ~」
女の子は誇らしげに手を広げた
「ところでお兄さん、自己紹介が遅れちゃったね、ウチはアズワール・アンデルシア、この工房アンデルシアの一人娘だよ~」
「丁寧にどうも、俺は蒼、よろしく」
「ぜひとも~」
お調子ものっぽいしゃべり方、商売上手なんだろうな
「アオさんは冒険者とか目指してる感じのひと?」
「ああ、まあね」
多分そうなるだろう。
答えを聞くとアズワールは満足そうにうなずく
「やっぱりね~、そんな感じがしたんだよ~。ならイロイロおすすめ紹介するからこっちこっち座って座って~」
手招きされた方へ行くとカウンターがあった
とりあえず腰をおろす。
「まあひとまず、適性検査だよね~」
そういうと水晶のようなものを取り出す
「これは魔力がどんな感じなのかわかる便利な道具だよ!」
やっぱり魔法もあるんだな
「それで何がわかるんだ?」
「えっとねー、まずは魔力の量!多ければ魔法使いがオススメ、少なければ剣とか盾とかの方がいいね。」
ふんふん
「次に魔力の属性!魔力の属性は火、風、水、土、雷、光、闇の七種類!属性によって武器との相性とか防具の選び方の指標にもなるよ~」
「なるほど…で、いくらするんだその検査は」
「ふふふ…よくぞ聞いてくれました。こちらの検査のお値段はなんと…」
何と…?
「初めてのお客様はタダでーす!」
「え、本当に?」
「まあお客さんがいないと商売にならないからねー、まずはウチの良さを知ってもらわないと」
アズワールは真剣な目つきで話す
そんなことがタダで出来るんならやってみたい。
「じゃあやってみようかな」
「かしこまりました~、じゃあ水晶に手を置いてね」
手を水晶にのせる
すると水晶は光り出した
「ほぉ、ほおほお、なるほどー」
アズワールは興味深そうに経過を見ている。
「これで分かったのか?」
「うん!もう結果が出たよー」
ワクワクするけどもし才能なかったら嫌だな
「大体10段階の評価なんだけどね、まずは魔力の量だけど、6から7って感じ。アオさん結構魔力あるんだねー」
おお…!なんかうれしい、俺にも魔法が使えるかもしれないってことか!
「んで、属性が…アオさんスゴいね!闇以外は全部あるよ~、火が4、水が3、土が3、風が5、雷が5で…光が10!?」
「それって何かすごいことなの?」
イマイチ実感がない
「えっとねー、属性は七種類の内三つもあれば一流の魔法使いになれるって言われてるんだ。それに、光属性持ちの人自体珍しいんだけど―」
アズワールは一旦言葉をきって向き直る
「10なんて初めて見たよ!スゴいよ!これはもう魔法使いがピッタリだね!」
自分のことのように喜ぶアズワール、見ているこちらも嬉しくなってくる。
「じゃあ早速紹介させてもらおうかな!大丈夫!紹介するだけだから~」
そういうと店のなかを駆け回り、商品をいくつか運んできた。
「魔法使いになるなら杖はオススメだね、魔力の消費も抑えられるし、威力は増すしのいいことづくめだよ!」
「宝玉なんかもいいかもね~、ちょっとお高めだけど初心者にも使いやすいよ!」
「ローブがいいかな、魔力耐性が上がるからいろんな相手に応用がきくよ!」
「これは内側に着る服なんだけど、かなり丈夫なんだ~、鎧がなくてもこれで十分!」
「盾もあると心強いよ!魔力が多い人なら相当強力な防御壁ができると思うよー」
「これね、水筒なんだけど特殊な魔力で覆われてるから水がずっと冷たいまんまなんだ!スゴくない?」
「この魔法の袋なんてどう?素材集めには必需品だよ!特殊な魔法でたくさんのものを収納できるようになってるんだ~」
………
「…ひとまずこんなところかなぁ、流石に疲れちゃったよ」
顔を見ると大粒の汗が浮かんでいた。
アズワールの巧みな商品紹介を聞いているといろいろと欲しくなってくる。けど、お金のことを考えるとちょっと厳しい。
そのことを察したのか
「もしかして、お金がないから買うのは無理かな~とか思ってる?」
「う、うん。お金がないし、今はちょっと」
今回は遠慮しようとすると
「嫌だなーアオさん、新人のお客さんにはたっぷりサービスするよ!ごほーしかかくだよ!」
服の裾を引っ張って食い止めてくる。
…これは何がなんでも買わせる気だな
「じゃあ例えばこの杖なら?」
近くの杖をひょいと手に取る
見ると100ルナと書いてある。今の全所持金ぴったりた。
「う~ん、九割引でどうかな?」
「きゅ、きゅうわり⁉」
ということは10ルナ⁉やっす!
「なんならこのローブをつけて15ルナでどうかな?」
ローブの本来の価格は90ルナ、こ、これは買った方がいいのでは…?
よし買おう
言おうとしたその瞬間、一人の男が店に飛び込んできた
「た、大変だお嬢!」
お嬢⁉
「どしたのデラロサ?」
デラロサという男はなおも焦った表情で続けた
「大将が魔物にやられた‼」
「父ちゃんが⁉そんなバカな⁉」
アズワールの表情が一変する。
「ごめんねアオさん、ちょっと待って、えっと、どうすれば…」
さすがのアズワールも混乱しているらしい
「俺のことはいいよ、お父さんのところへ行ったら?」
「…そうだね、デラロサ!父ちゃんは今どこ?」
「母屋だ!すまんがそこの兄ちゃんもついてってくれるか?このままだと店番がいなくなっちまうし」
いやいや、俺が行ってもどうにも―
「アオさんいこ?ほらこっちこっち」
アズワールに手を引っ張られ店の裏手に連れられていった。
アズワールのお父さんの容態は思ったよりひどく、体に大きな傷跡が残っていた。
何かの爪かな?
「…アズ坊か」
おそらく190くらいはある筋骨隆々の男性、まだ若々しい。
「父ちゃん大丈夫なの?」
「こんなもん三日もありゃ治る、余計な心配すんじゃねえよ」
煩わしそうに答える。
その隣で壁に寄りかかっていた女性が口を開く
「ところでアズ坊、この可愛い坊やは誰だい?」
170以上はある、スラッとした体型、ちょっとやんちゃっぽい髪型。
どことなくヤンキーっぽい。
「母ちゃん、この人はお客さんだよ!冒険者を目指してるんだって!」
お母さん、お若いですね
パッと見20代に見える。
「そうかい、坊や、アズ坊についてもらってありがとうね」
「いや、俺は別に何も…」
アズワールのお母さんはこちらに近づいてくると
「しかし、可愛い顔してるねぇ…食べちまいたいくらいだ」
顎を持ち上げられる。この人カッコいいんですけど!
「か、母ちゃんやめてよ!お客さんが困ってるよ!」
「おっと、悪いね。つい癖でね」
危なかった、もう少しで食べられていたかもしれない。
ひとまず部屋を後にすることにした。
「父ちゃんはあんなこと言ってたけどね」
部屋を出たあと、アズワールが語りかけてくる。
「ここの洞窟ってあんまり強い魔物っていないんだ。父ちゃんはまあまあ強いから冒険者じゃないけど、素材を集めにいってるんだけど」
「そのお父さんがやられたってことは―」
「相当な強さの魔物だと思うよ」
傷跡も何かに抉られたようになっていた。おそらくかなり大きな魔物のはずだ。
「でも、あの洞窟は珍しい鉱石がたくさん採れるんだ~、だからウチの工房に関しちゃ死活問題なんだけど―」
アズワールの大きな目に真っ直ぐと見つめられる。
「何とかしたいんだ。アオさん、力を貸してくれないかな?もちろん装備だって揃えるし…お願いします。」
そういうと、頭を深々と下げる。
「俺に協力できるとこなら。どこまで役に立てるか分からないけど、手伝うよ。」
魔物との戦いも、多分これから避けきれない問題になる。遅かれ早かれ戦闘の経験はした方がいいだろう。
「ホント⁉ありがとう!」
「いやいや、せっかくいろいろやってもらったしね」
断る理由も特にはない。
そういえばカンナと海のことを説明した方がいいかな?
「アズワール、俺には二人仲間がいるんだけど―」
「へぇ~、いいな~。なんか冒険団っぽい!それならその二人もウチに来て装備揃えちゃおっか」
アズワールはさらっと話し、考え込む。
「今日は時間がないし、明日でいいか?」
とりあえずこのことを報告しておこう。二人がこの事に賛成してくれるか分からないし。
「そうだね~。明日の朝、ここに来てね!待ってるから!」
元気よく手を振るアズワールと別れ、ひとまず海の着るものだけ買って宿に戻ることにした―。
読んでいただいてありがとうございました。
これからもこのくらいのペースで続けていこうと思います。