BEGINS STORY 《未知(みち)のNew Stage(ニュー・ステージ)》 Part5
―前回のあらすじ―
・尊に対して顔を赤くする琴音。
琴音に怒られ(?)反省する尊。
そんな彼らは一真に連れていかれた場所で、一組の男女に出会った―。
※普段より少し長いです。
「―さて、これで全員揃ったな!」
「…揃った?一体、どういう事だ?」
意味深な発言をした城戸に、俺は疑問を投げかける。
「俺がこのフロアに来た時、丁度今俺らがいるこの辺りに、こんな手紙が落ちていたんだ」
城戸がポケットから取り出した一枚の紙を受け取り、俺はそれを広げる。
琴音の視線に合わせてしゃがみ、手紙の内容をゆっくりと音読する。
「『この家には今、三人の男と二人の女、総勢六人いる。
そいつらを全員、この手紙が落ちていた場所に集めろ。
制限時間は特にはねぇが…。
まっ、一秒でも早く集まれる常識のある奴らだと信じて、気長に待っていてやるよ』…。
…何だ、この妙に上から目線な手紙は」
俺は心の中で浮かび上がった率直な言葉を、自然と口にしていた。
隣の琴音の反応を見る限り、彼女も俺と同じ様な感想を抱いた様だ。
「…はあ…。一体誰だ、こんな手紙を書いたのは」
呆れた感情が満ちた溜息を付きながら、
俺は手に持っている手紙を、これ見よがしに上下に振る。
《さあ?案外、すぐ近くにいたりするんじゃねぇか?ククククククッ》
すると、何処からともかく聞こえてきた不気味な笑い声が、フロア中に響いた。
何故かエコーがかかっているその声は、
このフロアにいる五人から発せられた物ではないのは、火を見るより明らかだ。
「な、何か怖いよ尊君…!」
怯えた様子の琴音が、力無く俺の左腕に自らの体を重ねてきた。
「大丈夫だ琴音。俺が傍にいる。
だから、そんな弱弱しい顔をするな」
俺は琴音を安心させる為に、
頭の中に浮かんだ精一杯励ましの言葉を、彼女の耳元で力強く囁いた。
「み、尊君…!」
琴音の反応から察するに、どうやら俺の言葉はしっかりと届いた様だ。
「おいおい、何だよ何だよ…!」
俺達は慌てふためきながらも周りを見渡すが、
それらしい人影は、欠片すらも見つからない。
「おい!お前は一体誰なんだ!
隠れてないで、正体を表せ!」
《クククッ、隠れてなんかいねぇよ。
たまには、上にも気を遣ったらどうだ?》
少し感情的になっている城戸に話しかけてきた声の指示通りに、
俺達は恐る恐る、ゆっくりと顔上げ天井を見上げた。
すると俺達の視界に、天使の翼と悪魔の尻尾が生え、
魔法陣の様な奇妙な模様が刻まれている、
ソフトボールぐらいの大きさをした謎の球体が映った。
この数十分だけで、色んな奇想天外な光景を幾つも目にしてきた俺ですら、
流石にこの状況は想定外の出来事だった。
《クククッ、『灯台下暗し』って奴だな、こりゃ。
いや、『灯台上暗し』か?今回の場合は。クククッ》
驚きを隠せない俺達を馬鹿にするかの様に、
空中を飛びながらケラケラと笑う球体。
「…あ、あんた、誰」
《あんたとは失礼な女だな。
まっ、寛大で心優しい俺様に免じて、今回は許してやるよ。
感謝しろよなー、こんな事滅多にないんだからな。クククッ》
ようやく口を開いた雪村の言葉に、傲岸不遜な口調で答える球体。
何だか勝手に『これにて一件落着』、というオーラ満開な話し方をしているが、
肝心の雪村の質問には、何一つ答えていない。
「おい、今はそんな事を話しているんじゃない!
彼女の質問に答えろ!お前は何者なんだ!」
《だあーっもう、これだから察しの悪い筋肉馬鹿は嫌ぇなんだよ。
てめぇらに俺様の名前を知る権利はねぇって事ぐらい、
今までの話の流れを追えば容易に分かるだろうが。
無駄に筋肉を鍛えている暇があんなら、
脳も鍛えた方がいいんじゃないか?ククククククッ》
「お、お前…!」
これでもかと煽り立ててくる球体に、
流石の城戸も堪忍袋の緒が切れたのか、
振りかざした拳を球体目掛けて真っすぐ突き出した。
(…!あの球体に殴りかかるのは不味い!)
閃光の如く一つの言葉が浮かんだその時、
俺は瞬く間に城戸の目の前に立ち、彼の全身全霊を籠めたパンチを受け止めていた。
《おっ、懸命だな。あと数秒遅かったら、
てめぇら全員星屑にしてたとこだぜ。クククッ》
余裕の笑みを浮かべている球体を除いた、フロアの反応がざわつく。
だが、この中で一番驚きを隠せなかったのは、実は当事者であるこの俺だった。
俺は城戸の握り拳に触れていた左手を、疑問を抱きながら凝視する。
城戸の腕の筋肉は、誰がどう見ても屈強その物だった。
そんな彼の全身全霊のストレートを、俺は容易に受け止めてしまったのだ。
俺を含めた皆が驚ろくのも、無理はないだろう。
「…さ、流石、凄いね、尊君…。
いつの間に、城戸さんの前にいたの?」
琴音が声を震わせながらも、ほんのりと笑みを顔に浮かべて俺にそう尋ねてきた。
俺自身、思考が『理解』に到達出来ていない地点にいるので、
「いや…」と曖昧な言葉でしか返す事が出来なかったが。
「…城戸。お前の気持ちも分かるが…。
あの球体の正体が分からない以上、迂闊な行動は慎むべきだ」
気を取り直した俺は、目の前の城戸に向けてそう言い放つ。
俺の言葉に納得してくれたのか、城戸は口を閉じたまま小さく頷いた。
―登場人物―
尊
・琴音を安心させる優しさ、
一真の拳を受け止める力技を見せた。
だが、実は尊自身が一番驚愕している事態となった。
逢坂琴音
・SORAの笑い声に怯え、無意識に尊に抱き着いた後、
彼から励ましの言葉を貰い喜んでいた。
尊が一真のパンチを受け止めた時には、
驚きながらも尊を称賛した。
城戸一真
・球体に煽り倒されたり、尊に自慢のパンチを簡単に受け止められたりと、いいとこ無し。
球体に対しては感情的な一面を、
尊に制された時には素直な一面を見せた。
葛城健斗
・球体の笑い声が響いた時、
実は一番怯えていたのは健斗。
雪村七海
・球体に「あんた誰」と質問した時に、
初めて口を開いたが、あっさりとスルーされてしまった。
???
・天使の翼と悪魔の尻尾を生やし、
魔法陣が刻まれた謎の球体。
性格は生意気で傲岸不遜。
相手の気持ちなど考慮しない。