BEGINS STORY 《未知(みち)のNew Stage(ニュー・ステージ)》 Part3
―前回のあらすじ―
―隣にいた女の子は、なんと頭部と体が分離していた。
そして尊と名付けられた少年は、自分の記憶のを失っている事を知る。
余りにも非現実的な状況下で、彼らは何を思うのか―。
「―それにしても、ここはどこなんだろう?」
頭を抱えている両腕を左右に振りながら、
おもむろにそんな独り言を呟く琴音。
「…」
正直な話、俺には一つの心当たりがあった。
常識の範囲内では、とても考えられない様な心当たりが。
頭部と体が分離しているというのに、
今もこうして何事もなく生きている琴音の姿。
心臓ごと抉られた左胸から、確かに鼓動を感じる俺の今の状態。
そして、俺が『夢』の中で見た、あの死の瞬間…。
これだけ確かな証拠が揃っている今、『答え』は自ずと導き出せた。
…いや、『導き出せてしまった』、の方が正しいだろうか。
「…とにかく、此処にいても仕方がない。
この周辺を捜索してみるとしよう」
「うん、そだね」
琴音の相槌を聞いた俺は、ドアの方へと振り返り慎重にドアノブを回す。
「どしたの?」
「…いや、あまり乱暴に回すと、ドアノブが外れてしまうからな…」
「…へぇー、そうなんだー…」
俺の言葉を聞いた琴音の反応は、思っていたよりも淡白だった。
ドアを開け再び廊下へと出た俺は、きょろきょろと辺りを見回す。
二、三部屋分ほど離れた場所に、
一階に続いている小綺麗な階段を見つけた。
どうやら俺と琴音がいるこの二階は、
ホテルや旅館でいう『客室』に当たる場所、の様だ。
(…という事は…俺達以外にも、誰かが―。)
「おーい!二階に誰かいるのかー!?」
俺の思考を遮る様な絶妙なタイミングで、
一階から逞しさを感じる男性の声が響いてきた。
廊下を仕切る柵から身を乗り出すと、
顔や腕に火傷の痕が散らばっている、
マッシブな体型をした二十代後半ぐらいの男性の姿が見えた。
「お前は誰だ?」
「俺か!?俺は城戸一真!
そんな所でボーっとしていても、ドーにもなんないだろ!
一端こっちに降りてきてくれないかー!」
城戸一真だと名乗る男性は、
「降りてこい」という意味であろうジェスチャーを力一杯俺に見せてきた。
こんなに早いタイミングで俺と琴音以外の第三者の存在に気付き、
その上コンタクトを取れたというのは、正に好機だった。
「と、いう事だ。行くぞ琴音」
「え、でもボクこんな姿なんだけど…。大丈夫かな?」
琴音が不安気な表情と声色で、俺にそう尋ねてきた。
確かに、余程肝が据わってでもいない限り、
今の琴音の姿を見た殆どの人間は、
彼女に恐怖心を抱いてしまう事だろう。
俺はそれを重々(じゅうじゅう)承知した上で、
琴音を励ます為の言葉を彼女に贈る。
「…此処がホテルなのか、旅館なのかは知らないが…。
この場所にいるという事は、
恐らくあの人も『そういう事』…なんじゃあないか?
…心配するな。もし何かあっても、俺がお前の事を守ってやる」
「えっ…?」
何故か顔が紅潮し、面食らった様に固まってしまっている琴音に、
取り敢えず言いたい事を言い終えた俺は、
素早い足取りで階段に向かって歩き始めた。
「…えっ、あっ!まっ、待ってよ尊くーん!」
俺の名を呼びながら、慌てて追いかけてくる琴音を流し目で確認した俺は、
ヒールの心地よい足音を立てながら階段を降りる。
俺が階段を降りているのを感知したのか、
城戸が階段前で俺を笑顔で出迎えようとするが、
二人の距離が縮まるにつれて、彼の表情は段々(だんだん)と困惑している様な物へと変わっていく。
「…えっと…。君、もしかして男の子?」
「…何だ、いきなり。どう見ても男だろう」
階段を降り切った俺の耳に、いの一番に入って来た言葉がそれだった。
「初対面なのに失礼な奴だな」と、
半ばブーメラン紛いの発言を心の中で呟く俺。
「いや、でもその顔でヒールとか履かれると、
どう見ても中性的な女の子にしか見えないなぁ。
そのコートとジーンズだって、モデルさんとかが着ていてもおかしくない奴だし。
声は…まあまあ結構かっこいい方だけど、
そういう声の女性もいるしなぁ、舞台の人とか特に」
「…しつこいな。そんな些細な事をいちいち指摘していたら、
世界中の人口の八割が、女性になってしまう事になるぞ」
納得がいかないのか、要領を得ない文句をぶつぶつと呟いている城戸に、
俺は髪を撫でながら、誇張表現を少し含んだ無理のある返答をした。
―登場人物―
尊
・自分の現状がどういう物なのか、勘付き始めている。
琴音の部屋を出た時に、一真の存在を知る。
詳しい理由は不明だが、琴音に目を掛ている節がある。
逢坂琴音
・尊と同じタイミングで、一階に一真がいる事を知る。
今の自分の姿で、
人に会う事を恐れている様子。
尊に意味深な言葉を掛けられた時、何故か顔を赤くしていた。
城戸一真
・マッシブな体型をした特撮オタク。
尊と琴音に、一階に来る様に呼び掛けた。
正義感溢れる熱血漢だが、頭はそこまでよくない。