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桃太郎、犬と会う

むかし、あるところに小さな村があり

その村の奥の山の中に年老いた夫婦が細々と暮らしていました。

ある日、いつものようにお爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に出かけました。


お婆さんが洗濯をしていると、川上から大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきました。


お婆さんはその桃をお爺さんに食べさせてあげようと思い、家に持って帰りました。


山から帰ったお爺さんは、大きな桃に驚き早速持っていた鉈で桃を二つに割ってみました。


すると


桃の中に種は無く、かわりに小さな赤ん坊がいました。二人は大変驚きましたが、子供のいなかった老夫婦はとても喜び、この赤ん坊を育てる事にしました。


名前を桃太郎と名付けました。



赤ん坊はすくすくと大きくなりました。

十日ほどでもう歩くようになりました。

ひと月経つと、「じいさま、ばあさま」と言うようになりました。子供のいない老夫婦はそういうものかと思い、桃太郎に読み書きを教えました。


ある日の事、お爺さんが畑へ行くと桃太郎がいました。


畑の隅へ座り込み、何やらぶつぶつと呟いていました。


「これ、桃太郎何をしとるんじゃ?」


お爺さんがたずねると桃太郎は立ち上がり


「じいさまもう安心じゃ、あやつはもう悪さはせん、と約束した。」そう言って畑の向こうの藪を指差しました。


藪の方をよく見ると、一匹の狸が藪の奥へ走り去っていくところでした。


「お山に食うものがなくて、ここの芋をほったそうじゃ。畑をほじくらんかわりにお山の里芋の埋まっとる場所を教えてやった。」確かに近頃狸に畑を荒らされてお爺さんは困っていました。


「桃太郎や、お前は狸の言うことが分かるのか?」


「じいさまは分からんのか?」


(不思議な子じゃ…) 次の日から畑が荒らされる事はありませんでした。



お爺さんは薪を切っては山を降り、町へ売りに行きました。帰りに書物を買い、桃太郎へのお土産としていました。


その町で、よく聞く噂がありました。鬼ヶ島に住む鬼が町や村を襲い、食べ物や人を奪ってゆくというものでした。


お爺さんがその話をお婆さんに話していると、そばで聞いていた桃太郎は自分が鬼退治に行くと言い出しました。


老夫婦は必死に止めました。

「お前は子供じゃ、とても無理じゃ」

桃太郎は産まれてからあっという間に大きくなりましたが、背丈もお爺さんの半分くらいのまだまだ子供でした。


「じいさま、それでも儂は行く。なぜだかわからんが行かねばならんような気がするのです。なあに鬼も生き物じゃ、話せばわかるかもしれん。」


お爺さんはうーんと唸ると、囲炉裏の灰をぐさぐさと火挟みで刺しながら黙り込んでしまいました。


(思えば不思議な事だらけじゃ、桃から産まれあっという間に大きくなり、獣と話す…もしやこの子はこの為にこの世に…)


お爺さんは覚悟を決め、桃太郎を鬼退治に行かせる事にしました。お婆さんはずっと泣いていました。


次の日の朝、桃太郎は鬼ヶ島へ向かう準備をしました。お爺さんが手ぶらでは危なかろうと鉈をくれました。

お婆さんは「腹がすいたらお食べ。」と、団子を作ってくれました。


「じいさま、ばあさま、行って参ります。」


鉈と団子を腰にぶら下げ桃太郎は出発しました。




桃太郎は両脇に荒れ野の続く細い道を、とことこと歩いていました。


ふと見ると桃太郎の歩く道の先に、黒く大きなかたまりが道をふさいでいました。近くで見るとそれは獣の毛の塊でした。


「狸にしては大きいな…猪か?」


桃太郎が近づき黒いかたまりを覗きこむと、ばさばさとした毛の塊の中から小さな目玉が睨み付けてきました。灰色に濁った生気のない目玉でした。


「犬じゃな、おい、犬よ、どうかしたか?」


大きな毛の塊は犬でした。犬はとても小さな声で言いました。


「人間よ、何か、食い物は、持たぬか…」


「腹が減っておるのか、よし。」


そういうと桃太郎は腰にぶら下げていた袋の中から、団子をひとつ取りだし、犬の前に差し出しました。


「団子じゃ、ばあさまの作ってくれた団子じゃ。」

「鬼ヶ島に向かう儂のために作ってくれた団子じゃ。」

「どうじゃ犬殿お前が儂の家来になるというなら、これをやろう。」


犬は桃太郎をじろりと見ると、団子の匂いをすんすんと嗅ぎました。そして団子をぺろりとひと舐めし、かぶりつきました。

犬は夢中で食べました。


むしゃむしゃむしゃ


ごくり


すると真っ黒だった犬の毛は、鼻の先から徐々に色が変わり尻尾の先まで真っ白に、灰色に淀んでいた目は真っ黒になり、ぎらぎらと輝きだしました。

すっくと犬が立ち上がると、その大きさは桃太郎の背丈ほどもありました。


「おお、何と立派な姿じゃ。それがお前の真の姿なのじゃな。」桃太郎は犬の真っ白な艶々とした脇腹を撫でました。


「よしよし、もう大丈夫じゃな。達者で暮らせよ、儂は先を急ぐのでな。」

そう言って桃太郎はさっさと歩いて行ってしまいました。


しばらくの間、去っていく桃太郎を見ていた犬は、やがて桃太郎の後をついて行きました。


ついてくる犬に気付いた桃太郎は言いました。

「家来というのは戯言じゃ、どこなりと行かれよ。」


しかし、そう言っても犬はついてきました。


困り顔の桃太郎の先に、分かれ道が見えてきました。


「う〜ん……右か、左か……」迷っている桃太郎の横を後ろから来た犬が追い抜いて行きました。


「こっちじゃ。」


「鬼ヶ島へ案内してくれるのか?」


「鬼ヶ島などない。鬼がおるのは鬼ノ城じゃ。」


「なんと!そうなのか!しかし何故知っておる?」


「儂も鬼ノ城に用がある。案内しよう、受けた恩は返す。」


「それは助かる!儂の名は桃太郎じゃ、お前の名はなんという?」


「名などない。」


「そうか!では犬殿と呼ぼう!」


桃太郎と犬は鬼ノ城へむかい歩き出しました。








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