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花の雫  作者: 深澤雅海
28/33

番外編1

カットした部分です。8の後に入ります。

スイユの存在感を上げるためと、ジョイとリアンを会話させるための話でした。

 自分がどんなに憂鬱でも、天気というのはそれを考慮してくれない。

 同じく、自分がどんなに憂鬱でも、他人まで憂鬱になることもないのだ。


「じゃあ、冬になると毛が全て抜けちゃうんですか?」

「抜けると言ってもつるつるになるわけじゃないですよ、生え変わるんです。人間だって髪が生え変わるでしょう」

「でも全身でしょう? すごい量ですよね?」

「全部一気に変わるのではなく、少しずつ変わっていくんですよ。ブラッシングしてあげるとごっそり抜けるんです。ああ、ごっそりと言ってもハゲませんよ、下に毛があって、浮いているというか」

「注意してハゲと言わないようにしてきたのに」

「僕の家系はフサフサなのでご心配なく」


 楽しそうに会話する二人を少し離れた所から憎らし気に見てしまっても、誰が俺を責めるだろうか。


 話をしているのはジョイとスイユだ。雨季祭で一緒に出掛けてから仲良くなったらしい。

 俺は中庭のベンチにひとり座っている。ついさっきまではひとりではなかったのだが、一緒にいた女性ふたりは今や離れた所にあるカゼボでシャボン玉で遊んでいる。


 若い女性が楽しそうに声を上げて遊んでいる姿は可愛い。

 それを見たスイユが子犬みたい、とつぶやいたところから、ジョイが故郷で飼っていた犬の話をはじめ、今や俺の視界の隅で仲良くおしゃべりしている。

 ひとり退屈なのは俺だけだった。むなしい。


 昨日王女に言われたことにダメージを受けていた。王女に誘われてこの庭に来たものの、一緒にシャボン玉で騒ぐような気持にはなれなかった。

 俺は楽しそうに笑う偽物を見る。

 今はとても楽しそうだ。

 今は。

 毎日気兼ねなく笑って過ごせるようになって欲しいという気持ちがある。

 ここじゃないどこかなら、毎日笑っていられるのではないか?

 しかし、そのチャンスをつぶしたのは誰でもない、俺だった。

 偽物を見ていると罪悪感で息苦しくなる。

 だから目をそらす。見なければいい。

 彼女のことが好きだと思ったが、どこか見えない所に逃がしてしまえばこの罪悪感から解放されるのではないか。


 ぽつり、と顔に何かが当たった。見上げたが、雨が降る様子もなく青空だ。

 不思議に思いつつ空を見ていると、もう一度顔に水が当たる。それは気のせいではなくだんだん増えていった。

 天気雨か。


 俺が判断するより先にスイユたちが動いた。

 邪魔にならないように控えていた女官たちも、王女が雨に濡れないようにカゼボに入るように声をかけていた。

 俺はもう一度空を見上げた。

 青空の下で雨を受けるというのは滅多になく、面白い体験だ。


「大丈夫ですか?」

 ジョイがすぐ横で自分の髪の水滴を払った。

「思い切り水が俺にかかったんだが」

「すでに濡れているので問題ないのでは」

「減給するぞ」

「後で全身拭いて差し上げますのでお許しください」

「やめろ」


 そんな会話をしている間に雨は本降りになってしまった。

 王女たちは今までと変わらず嬉しそうになにやら騒いでいるが、こっちに声をかけてくることもない。

 目を閉じると、瞼の向こうから明かりを感じるのに、雨に打たれている。

 やはり、面白い体験だ。


「大丈夫ですか?」

 すぐ横でもう一度ジョイはそう言った。

「ジャオラルと違ってこの国はいつでも温かい。雨に濡れたって何ともないよ」

 本当は、ジョイが何に対して大丈夫かと尋ねているのか分かっていた。

 それでも、分からないふりをした。

 現実逃避だ。

 全然、大丈夫じゃない。

 だが認めてしまうと、俺は俺を許せなくなる。

 そうすると、何もできなくなってしまう。今でも、間に合う何かがあるかもしれない。


「お前は、何も問題ないか?」

「何も問題ございません」

「スイユと仲良くおしゃべりするくらいだもんな。無口なお前が珍しい」

「別に無口なつもりはないですが、明後日はお休みをいただいていいですか?」

「明後日? 特に問題ないけど」

「ではいただきます」

「……」

「……」

「犬でも買いに行くのか?」

「犬は飼いませんが、食事に行きます」

 内心舌打ちをする。人の幸せがうらやましい。


「ご主人様に申し上げるのであれば」

 ジョイの声に目を開け、振り向く。

「あなたは悪くないと思います。私はそう思います」

 にこりとも笑わず、ただ真摯な目でそう言われた。

「そうかな」

 

 俺が俺を責めても、俺を責めない奴が隣にいる。

 それだけで、少し救われた。



続きます。

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