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花の雫  作者: 深澤雅海
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プロローグ

 初めまして。よろしくお願いいたします。

 話をしようか。恋の話だ。同時に罪の話でもある。

 その罪人だけがその罪を知り、その者だけがその者を罰する。

 その罪の重さだけに、罪人は決して罪から逃げないだろう。

「なぜその話を私に?」

 簡単だ。あなたならきっと、話を聞いても何も感じない。同情も哀れみも、嫌悪すらしない。

「おっしゃる通りです女王陛下」

 だから話そう。彼女の話を。彼の話を。涙をすくえなかった話を。



 怪我をしたのは私なのに、泣いて騒ぐのはいつも彼女だった。

「ナーをこんな目に遭わす奴らなんて死んでもいいくらいなのに、お父様は釈放なさったのよ! 信じられない!」

 真っ赤になった目から滝のように涙を流し、ヒールが壊れるんじゃないかという勢いで地団駄を踏んだ彼女を尻目に、私は包帯の巻かれた右腕を見つめた。骨に異常はなかったものの、麻酔が切れたら痛みで気絶するかも知れない。そのくらい目の前でざくざく縫われた。

「聞いているの? ナー!」

「もちろん聞いております王女殿下」

「本当は私が出るはずだったのに直前になってあなたに替われってなったんだもの、お父様は襲撃のこと分かっていたのよ!」

 それに関しては同意だった。最近ルピナが私をかばうから直前まで隠していたんだろう。

 今日は「花の宴の日」だった。毎年、国花であるアウアの花が満開になると行われる花の宴。

この宴は特殊で面白い。

天候によって開花時期が変わるので毎年違う日だし、「花の宴の日」が発表されるのも一週間前だ。祝日になるわけでも祭になるわけでもなく、単に満開を祝うだけの能天気な日。そんなものでもこの国の伝統である。

 城の庭の一部にもアウアは咲いていて、「花の宴の日」にはその庭がいくつか解放される。旅行者や町の人も身分関係なく入ることができ、正午になると庭を望むテラスに王族が並び挨拶をするのも恒例だ。

 そして今回、その挨拶の時に覆面をした男に襲われたのが私である。

 私は王族ではない。王族なのは隣でヒールが折れて転んだこの人である。

 アピオス王第一子、ルピナ・レイズ。

 腰まで伸ばした金髪に琥珀色の瞳。その瞳は琥珀をそのまま埋め込んだように美しく、世界で唯一と言われている。

 世界で唯一。

 嘘である。

 私はルピナと同じ髪と瞳を持っている、彼女の影武者だ。



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