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遊ぼう ハートの8

 土曜日の朝、夏紀は少し苛ついた。というのも長姉である春姫と詩季の距離感が、姉妹の仲では一番近いからだ。冬美の場合は冬美自身がまだ詩季に慣れていないから除外としても秋子や自身と比べると三馬身ほど春姫が詩季に近いと感じている。


「詩季詩季詩季~遊ぼうぜ~」


 そこで謀略を巡らせる夏紀ではない。秋子ならば小賢しい手段を講じるのだが夏紀は良く言えば裏表無い、悪く言えば単細胞である。


「え、何して?」


 朝食後の片づけをしていた詩季は振り返り尋ねる。詩季も遊ぶのは構わなかったが姉妹で改まって遊ぶゲームか何かがあっただろうかと思考する。トランプもテーブルゲームもをこの家で見た記憶もないしテレビゲームの類は冬美の部屋にしかない。冬美は休みの日は昼前まで起きてこないので敢えて起こすという選択肢もない。眠いときの冬美は無言だが不穏な空気を纏うのだ。


「女王様ゲームが良いさ」


 居間のソファーで寝転がってテレビに集中していると思われていた秋子が混ざる。


「どうせお前変な命令するから却下。いきなり話に入ってくんな」


 なんだかんだで秋子とはノリツッコミの仲なので本当には邪険にするつもりは

ない。ただ、性的なニュアンスを帯びたときに普通の男兄弟なら引いて軽蔑されるものだから秋子の提案を即時却下した。


「つれないこと言うなさ。私も詩季君とラブラブしたいのさ」


 詩季は秋子のさらっと出てくる親愛の言葉が嬉しい。


「あはは。もし僕が王様になったら二人にお互いキスするよう命令しちゃうけど良いの?」


 朝食後の片づけを終えて居間に居る二人も飲むだろうとコーヒーを入れて持って行く。


「何、詩季君は腐男子だったのかい?」

「何だ、ふだんしって」

「レズ好きな男子さ。今多いよ?」

「え」


 秋子の説明にぎょっとする夏紀。


「あーことさら好きって訳じゃないけど男同士よりは良いね」


 男として素直な感想を述べる詩季。妹属性も保ちつつ、百合スキーでもある。転生するなら女性が良かったかも、などとふと思ってしまう位に。


「お姉ちゃんとしては可愛い弟がどこの馬の骨とも解らない女に取られるより同性愛者のが良いと思うのさ」

「性病には気をつけろよ?」

「うわぁ。僕は女の子の方が良いわぁ」


 ソファーに座って顔を引きつらせる詩季に不意打ちをする秋子。


「詩季はどんな子が良いのさ?」

「え?」


 コーヒーを口に含み、飲み込む。年頃の会話と考えれば何も変ではない。


「いや。詩季はどんな子が好きなのかなって思ってさ」


 詩季は深く考える。性的な意味合いで言えば余程年老いていたり解ったりしなければ許容出来そうな自分が居る。だが、詩季が求めるのは違う。


「見た目で判断しない子、かな」


 詩季は醜かった頃の前世を思い出す。自分が孤独だったのを容姿のせいだけだとは思っていない。ただ、醜かった故に人から避けられた事は事実である。


「外面じゃなく内面を見て欲しいってことか?」


 姉二人にとっては、詩季がこれまで如何に容姿に振り回されてきたのかを感じた。それはこの世界で


「まぁ」


 もし万が一、容姿が悪くなっても受け入れてくれるような人じゃなければ安心して愛せない、そう思う。勿論不摂生で容姿を崩すつもりもないが病気や怪我で変わる可能性だって長い人生なのだから有り得る。そして己も今後もし恋人や結婚相手を考える立場になったらその人がどんな苦境にあろうと助けたい、と思えるだけの相手を探したいと思っている。ただ、今は家族との時間の方が圧倒的に恋愛方面よりも大事であった。


「ふむ。なら私と結婚すれば良いさ。で、何で遊ぶのさ?」


 詩季の硬い雰囲気を和ませようと道化に走る秋子。


「何で遊ぼうねぇ。トランプとかある?」

「無い。でも買って来るぜ!」

「え、わざわざ買いに行くの?」


 夏紀は一個くらいトランプが有っても邪魔ではないし詩季と今後も遊べる可能性があると考えれば安いものだと考えたのだ。


「話してる内に微妙な時間になっちゃったし。もうすぐ冬美も起きてくるだろうから昼飯食ってからみんなでトランプしないか?」


 春姫は大学で勉学に励んでいるので無理だがどうせなら四人で遊びたいと詩季も同意した。


「そうさね。昼ご飯は私が作ろう」


 これまで秋子が料理をしているところを詩季は見たことがなかったので驚く。


「ホットケーキか。まぁ詩季が良いなら」

「あ、ホットケーキ? 僕好きだし良いよ。得意料理?」

「ホットケーキしか作ったことないけど、それに関してだけはなかなかの腕前だと自画自賛さ」

「ホットケーキミックスでどうやって失敗するんだか」

「袋に書いてあるレシピは最高さ」

「お好み焼きはどうなの?」


 作り方としては近いだろう。


「個々の具の火の通り具合とかレシピが読みにくいから単一素材のホットケーキミックス最高なのさ」


 秋子はマニュアルに頼りがちなのだと詩季は思い至る。昨夜も新しい携帯電話のマニュアルを一ページ目から読み始め普通は使わないであろう機能さえも実践しているのを目撃している。


「基礎能力高いけど応用が利かないんだよ、こいつ」


 夏紀はやれやれと肩を竦める。


「だから運動部には入らなかったのさ」

「あ、運動は苦手じゃないんだ?」

「飛んだり跳ねたり走ったりとかならそこそこ良い線行くと思うのさ。でも球技とか武道とかは詰まるところ肉体強化と騙しあい化かし合いの脊髄反射さ。計算しながら動くってのが苦手でね。じっと座ってるか立ってるか寝てるならじっくり考えられるから得意分野だと自負するわけさ」

「つまりトランプとか将棋とかそういうのは得意ってこと?」

「まぁ概ねその通り。体の動きと思考を同期させるのが苦手なのかもしれない」

「反射神経とかそういう方面では鈍くさいんだよ、秋子は」

「事実だけど可愛い弟の前で暴露すんなっさ」

「よっ」

 秋子の鋭い裏拳が夏紀を襲うが簡単に避ける。

「ほりゃ!」

「痛っ」


 反撃のデコピンを受ける秋子。基本的に二人は仲が良い。秋子は夏紀が当然自分の攻撃など避けられると信頼し、夏紀も秋子がこの程度の痛みで怒ることがないのを知っている。


「喧嘩禁止だよ?」

「いや、じゃれ合いって奴だ!」

「そう、コミュニケーションさ!」

 詩季のいつも通り美しい笑みに冷気を纏っているのを見て、二人は慌てて肩を組み仲良しアピールするのであった。

 ちなみにトランプは詩季が圧負で一位はやはり秋子、二位は冬美、三位は夏紀となった。


「ハートの8、止めてるの誰ぇ……うぅう」

「う」

「あ、冬ちゃん有り難う!」

「冬は優しいなぁ」

「冬君、勝負は非情なのさ」

「よ……弱い者虐めは格好悪い」


 詩季が大敗しても不機嫌にならず逆に楽しそうにしていたのを見て、冬美は安心した。


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