プロレス 速報
「さて、友田さん、行こうか?」
「ははははい!」
警察か自衛官のようにビシッと敬礼する友田。直立不動でなかなか動こうとしない。
「しっかし本当に詩季は物好きだな」
「柔道良いじゃん。一本背負いとか見てみたい」
「せっかくだから友田には地獄車とかやってもらったら?」
「出来ないよ! あれ自分も痛いし相手が協力してくれないと絶対転がらないって!」
「それだとスト弐はプロレスなのか。軽くショック」
「暦君はゲームもするの?」
「冬ちゃんとやるよ。あのね」
また妹トークが始まってしまう、と熊田と川原木が身構えた瞬間、クラス中どころか学校中でありとあらゆる電子音が鳴り響いた。
「災害速報!?」
全員が全員、あまりの事態に一瞬混乱したが己の携帯を見て納得する。それは一通のメールであった。
『送信者:KILL タイトル:緊急連絡 本文:本日関係者以外道場の半径五十メートル以内に近寄るべからず。柔道部は通常通り。剣道部、校庭で基礎トレ。反逆者には死を』
同じ内容が詩季以外の全校生徒に配信されていた。
「あれ、僕のは鳴ってない。何だった?」
着信音はそれぞれだったがあまりにタイミングがそろった着信がそこかしこで起こったため自治体などが配信する緊急速報だと勘違いしている詩季。
「ある意味……避難指示だな」
「いやこれは脅迫だよ」
そしてまた着信音が先ほどの規模ではないもののほぼ同時にそこかしこで鳴り響いた。智恵子の携帯にも新たなメールが届いており、それを見て顔を青くする。
「こ、暦君、飲み物買いに行こ?」
「え? 飲み物?」
「そう! 柔道と言えば飲み物だから!」
今日は意味が解らないことばかりだなぁ、と暢気に詩季は考えつつひとまず了承するのであった。
秋子の元に詩季が柔道部を見学するという情報が入ったのは詩季が発言してから二十三秒後であった。そしてその六秒後には夏紀の携帯にメールが転送されている。
基本的に次女と三女は仲が良く、特に詩季に関してはお互いの運動部系と文化部系の情報網を駆使し情報共有を行っているのだ。だがそれはあくまで表向きの形で実際には夏紀はその辺りのネットワークに疎いため秋子が姉をトップに据え情報を集約し内容を選定した上で夏紀に転送していた。
夏紀と秋子がなし崩し、時に意図的に作り上げたもので元々有った情報網ではある。学内での地位の維持・拡大をしていく上で現在の形にまでなった。
が、最近では「KOYOMI INFORMATIVE LOVE LINE」と呼称され通称「KILL」である。
「なんて物騒な」
とはその話を現在妹弟達が通う高校の三年生に居る仲の良い後輩から聞いた春姫の言である。
かくして詩季達は悠々と購買部を経由し道場に向かい、別途指令を受けた者達は奔走するのであった。




