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完全番外編 ドラゴニック冒険

※注 今話は全く本編と関わりのないIF番外編です。

既存のコンシューマーゲームは全く微塵も1ミクロンも関係御座いません。

関係ございません!



 

「フユ……私の可愛いフユ……起きなさい」

 

 声と共に石造りの部屋に招き入れられた陽光がフユの瞼を赤く照らす。

 

「今日は王様に会う日でしょう。遅れてしまうわよ」


 母の声に不満な呻き声を漏らしつつフユ、この日勇者として任命される少女は身じろぎする。

 

「フーユ」


「貧弱装備なら邪魔なだけ……」


 どうのつるぎ・ひのきのぼう・こんぼう、あとは元々着ていなければ猥褻物陳列罪になりそうな衣類といくばくかの支度金しか勇者に渡されないのがこの世界の常識である。


「100ゴールドも頂けるそうよ」

 

 それで魔王を倒せという王こそ魔王なのではないか、フユは常日頃から思っていた。

 

「お宿に10日は泊まれるじゃないの」


「絶対魔王も驚くお駄賃」

 

 現地調達しながら精進せよ、という建前があるらしいことに、フユは「そもそも少数で乗り込んで暗殺してこいとか捨て駒もいいところだ」と常々、常々考えていた。

 下手に父親が強かったことからその娘も強いだろう、ということからの人選の時点で色々終わっている、と言わざるを得ない。

 

「貴女が行かないと、この家が」


「まさに、魔王。むしろ魔王に失礼なレベル。あいつ殺した方が世界平和になる」


「もう! わがまま言わないでさっさと行ってきなさい!」


 わがままの定義を教えろと言いたいところだが、母親に言ったところで意味もなく、要は家を人質に取ってるだけではないか、と殺意だけが育っていく。

 

「……わかった」


 とは言ってもフユもこの国で生まれこの国で育った身。身内を人質に取られては寝起きの愚痴以外で抗うことも出来ない。

 

 故意に遅くなるよう散歩しながら登城することにした。

 

 

 

 

 

「よくぞ参った、勇者フユよ!」

 

 跪き、頭を垂れているフユに、恰幅の良い、というよりも肥えに肥えた王がそう声を掛ける。

 

「そなたの父の件はまことに残念であった。そして、その父の志を継いで魔王討伐の旅に出るというお主の心意気、まことに天晴れである!」


(あ、これ、無給の流れ)

 

 フユが勝手に(・・・)魔王討伐の旅に出ようとしている、という解釈しか出来ない言い方であった。


「まだ少女にも関わらず父の無念を晴らそうとするそなたを止めることなど、この王である私でも出来ぬ……だが、だが、私にも子供がいる。人の親として一度だけ、申す。今一度考えなおしてみてはどうだろうか」


 己の知らないストーリーが前半にあったが、王の言葉にフユは光明を見出した。

 

「やっぱり辞めま」


「そうか! 決心は固いか! 」

 

 当然、殺意しか芽生えない。

 

「解った! ならばわずかだが援助しよう。持っていけ! そしてダルーイの酒場で仲間を集め、見事魔王を討伐するのだ!」

 

「有難迷……ありがたく頂戴致します。カナラズヤマオウヲトウバツイタシマス」

 

 家族を人質に取られている身。口を滑らすのを我慢し、最弱装備群を背負って城を出たのであった。

 

 

 

 


 ダルーイの酒場。

 

「仲間を集めろと、ま、王様に言われた」


「え? 魔王?」


 首を傾げるダルーイの酒場の女店主:ダルーイ。グラマラスな女性である。


「王様」

 

「ああ、聞いてるわよ。貴女のお誘いはここに居る全員、断れないから大丈夫。好きなの持っていってくれて構わないわ」

 

 フユは、ドヨーーーーーンとした空気の酒場を見渡す。50人は居るだろうか。

 

「碌な報酬無しで魔王倒して来いとか馬鹿じゃねーの!」

「断ったら牢獄にぶち込まれるとか! マジ頭おかしいだろ!」

 

 と酒を呷っている戦士風の男達も居た。当然の反応である。これは「フユの自主的な旅立ちの道連れ」という建前がある「徴兵」であった

 

 フユの事は知られているらしく、憐れみをもった目もいくつかあったが、フユと目が合うとサッと目をそらした。

 

 そんな中、酒場の端の方でこそこそとしている二人を発見。幼馴染のイージマーとアオーイである。

 

「あ、イージマー、アオーイ」


 早速二人の元に歩き出すとその進路に向かって人の群れの間に道が開く。

 そしてフユの幼馴染二人は顔面を崩壊させ涙を流しながらフユに声を掛けた。


「ようこそわたしたちのまちへ」


「ここはマリアハンというまちだ」


「……おい」

 

「ようこそわたしたちのまちへ」

 

「ここはマリアハンというまちだ」

 

「殴るぞ」

 

「ようこそわたしたちのまちへ」


「ここはマリアハンというまちだ」

 

 親友だとしても、死しか見えない旅路について行くほど二人はお人よしでも命知らずでもなかった。いたって普通の精神構造である。

 

「……はぁ。解った…………誰か、ボクと一緒に」

 

 と、言いつつ振り返るとやはり、ザっと音を立てて全員から顔を背けられた。

 

 なんというアウェイ、これで魔王を退治してこいとか頭おかしい、フユは元々やる気もマイナスな状態だったので早々に諦める。

 

 そして、キレた。

 

「……選べ。全員ボクに指名されるか」

 

「え、勇者のパーティーって4人だけじゃ」


 自分は選考外だからと傍観していたダルーイの酒場の店主はフユに疑問を呈する。


「王様にはそんなこと言われてない」


「でも伝統的に4人と決まっているわ」


 そうだそうだ、と無言で首を縦に振る生贄候補たち。


「馬車を買う。必ずしも一台である必要はない」

 

 フユの言葉に生贄候補たちは首を傾げるも、

 

「あ、それなら大丈夫ね」

 

「ん」

 

 恐怖・絶望などなど、あらゆる負の感情と叫びが、嘆きが、嗚咽が酒場を満たす。

 

「俺、俺、まだ童貞なのに死にたくない!」


「俺なんか来月くらいには子供が生まれるんだぞ!?」


「私だってまだ結婚どころか彼氏だってできたことないのにぃいいい!」

 

 エトセトラエトセトラ。

 それだけ魔王退治は危険で割に合わないのである。

 誰が好き好んで、無茶ぶりするデブ王に言われて死地に赴くのか、という話でもあった。

 

「黙れ!」

 

 そんな阿鼻叫喚の中、勇者フユは彼らを一喝。

 静寂が訪れた。

 

 そして、厳かに、しかし、どこか親しみを込めて語りかけた。

 

「……皆には、選択肢がある」

 

 フユの言葉に耳を傾けざるを得ない生贄候補たち。

 

「まず一つ目の選択肢は、ボクと一緒に魔王討伐の旅に出る。全員で。この中にはどうしても行きたくないという人も居ると思う。でも、ボクは全員を選べる。道連れ心中コース」

 

 行きたくない人間しか居ない中で、フユは死刑執行のボタンを撫でるかのように彼らに語り掛けた。

 

 ごくり、とそこかしこで喉を鳴らす音が響いた。


 全員が全員、まばたき一つ出来ないほどに緊張していた。

 

「そして、もう一つの選択肢」

 

 フユは、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 エピローグ

 

 とある日。とある魔王城。

 

「魔王シキ様! マリアハンに勇者が現れ魔王様討伐に出るとの情報が入りました!」

 

「だから『魔王』なんて名乗りたくなかったんだよ! アホなの馬鹿なの既知の(そと)なの!? 伝統だかなんだか知らないけど『俺実は結構ワルなんだぜ?』ってほざくレベルで恥ずかしいわ! そりゃあ国の王が『俺って悪だぜ?』とか名前で宣言してればこれ幸いと殺そうとしてくるわ!」


 とある世界には『原爆ドームなんて名前付けるから原爆落とされるんだよ』という頭がおかしいとしか思えない発想を冗談でも言える人間も存在するのだが、同レベルどころかそれ以上に頭の悪い伝統『魔王』であった。

 

 魔王シキは膝から崩れ落ちる。解っていた展開だが、いざそうなってしまうと脱力せざるを得ない。

 

「続報です! 勇者が王城を襲撃! 王位を簒奪致しました!」


「ふぇ?」


「続報です! 王となった勇者が魔王様との和平を申し込むと宣言!」

 

「ほへ? マジで?」


「本当のようです!」


 魔王シキは降ってわいた幸運に全力で乗っかることを決意。


「勇者に贈り物と礼状をすぐに! 全力で和平するよ!」

 

 魔王シキは、能力は平凡だが、人望と顔だけで神輿にされた哀れな男なのであった。

 

 

 

 かくして、勇者の国と魔王の国は和平を結び、永い永い平和な時代が始まるのであった。

 

 

 

 

「魔王マジ好み。王位も婿も手に入ってついでに平和になったとか、ボク、マジ有能」

 

 フユはどんな世界でも天才なのであった。

 

 

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