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変態 変態


 紋女たちの会議が紛糾していた頃。

 詩季は護衛付きで買い物をしていた。護衛はもちろん、智恵子ら4人である。

 

「ふふふ~んふふ~」


 美男子とされる少年の鼻歌は、四人だけでなくすれ違う人々さえも幸せをもたらす福音である。

 

「詩季君、ご機嫌だね~」


 智恵子は詩季の鞄を持ちながら詩季に声をかけた。何故詩季の鞄を持っているかと言えば、パシリみたいで嫌だ、と固辞する詩季に、彼氏の鞄を持つ彼女をやってみたいの!と気迫で押し切ったからである。


 他の三人にはそういった感覚が薄い、というよりも無かったため微妙な表情をしていたが。


 智恵子に被虐趣味の疑いがところどころで生まれては融合し肥大化していることは本人以外にとっては極々自然なことであった。


 そんな智恵子を詩季は『馬鹿可愛い』と思っている。凄く可愛い、という意味ではなく、馬鹿なところが可愛い、という意味である。疲れている時だと大分ウザいが、それはそれでウザ可愛い? と疑問符が付く程度だが可愛いとは思っていた。

 

「まぁね~。今日は夏姉さんの作った角煮とカレーがフュージョンする予定だからね~」


「角煮カレー、絶対美味い奴じゃん。良いなぁ」


 基本的に運動量が多くそれに比して摂取カロリーも相応な智恵子はごくりと唾を飲んだ。


「角煮だけでも美味い奴だね。角煮だけでチキン南蛮が食べられるよ」


 詩季教肉愛派のの肉山がリアルによだれを口の端から数ミリ垂らす。だらしない姿なはずだが、愛嬌の塊のような彼女だと、某世界的アニメの黄色い熊のような光景に見えてしまい汚さが感じられない。言っている事も通常なら冗談だが、冗談ではないのが彼女の良さだと詩季は認識している。

 

 全体的に太いが胸と尻は胴よりさらに太く、その巨大な胸と尻で腹との格差を生んでいるそのプロポーションは詩季は素晴らしいものと認識していた。まだ触ったことはないが。

 

「なら詩季君のカレーは私が頂くよ」


 基本的に肉より魚介類、野菜を好む針生はニヒルに肩を竦め宣言する。彼女のスレンダーボディも良い、とても良い。手首や足首を強引に掴んで色々といたしたい所存である。

 

「しまった! そっちが本命だった! 何で夏妃先輩が角煮作るんだよ!」


「夏姉さん、煮込むの好きだからねぇ」


「詩季君になら煮込まれても良いのに!」


 明らかに冗談ではあるが、詩季は一瞬、サウナか熱い風呂で全身真っ赤に湯だった肉山を想像し、ホカホカもちもちになるであろうに全身の脂肪を揉みしだく想像をした。少し滾ったのは詩季本人だけの秘密である。


「いや、なに催促みたいなことしてるの」


 わめく肉山に唯一の常識を備えた人物、絵馬がツッコミを入れる。

 

「えー。エマッチだって食べたいでしょ?」

 

「私は詩季君が味見する時に口付けるお玉が貰えればそれでもう」


 恍惚とした表情で内心を吐露してしまった。常識を備えていても活用しきれていない様子である。


「蟻だーーーーー!」


 突如叫ぶ詩季に全員がギョッとする。

 

「あ、あり!?」


「ど、どうしたの?」


「火蟻でも居た?」


「間違えた。変態だーーーー!」


 詩季に指さされながら絵馬は後ろを振り向くと呆れた顔の八百屋のおっさんしかいない。おっさんは強面ではあったが変態と指摘するには材料が足りないのでは? と思ったが、

 

「絵馬ちゃん絵馬ちゃん、なに自分じゃないみたいな顔しとんねん」


 詩季にツッコミを入れられてやっと気づく。

 

「じょ、冗談だよ~あはっ」


 そのセリフこそ冗談だよなぁ、と詩季は苦笑する。

 

 

 

 このハーレム状態は楽しくは有るが、気を使うのも事実であった。

 詩季はまだ、紋女と恋人関係になったことを家族以外では敏郎にしか明かして居なかったからである。

 

 今でも馬鹿4人組、姉妹4人、ストーカー、敏郎女バージョン、そして紋女。

 11人である。いくら詩季が絶倫と言えど、彼女たちに不満を持たせずに付き合うことなど不可能だと考えた。

 だが、男の本能が”けっぱれ!(頑張れ!)”と叫んでいる。ならばやらねばならぬ。

 

 しかし、どうやって……

 

 と、そこで外注(あやめ)の出番であった。

 

 どこまでも他力本願な男であるが、大奥のシステムを思い出した結果である。

 一人に権力を持たせ、調整させ、自分は可能な限り省エネで楽しむ。

 女たちの手綱は紋女に取らせて楽をする、素敵システムである。

 

 紋女の手腕によっては簡単に刃傷沙汰になりそうではあるが、詩季に不安は無かった。

 

『そやつらを全員、高待遇で逆らえなくすれば良かろ。詩季君の愛人になれるチャンスをむざむざ逃す奴らではなかろうて。不満を正妻の我に集め、同時に首輪を付け餌を与えれば、どんな駄犬でも従順になるものぞ』

 

 金とシキ

 

 世の女性が望んでもほぼチャンスの無い男女交際が多対一と言えど成立する上に、その大奥のトップに経済面でも首根っこを捕まれていれば逆らう気にならない、という理屈であった。

 

 詩季も納得、了承し、紋女に全てを委ねたのである。

 ただ、紋女との面識がこの四人と宮子にはなく、自然と集めてまずは知己を得る、というのが今回の買い物デートの目的でもあった。

 

 本当ならば宮子も連れてきたかったのだが、部活で忙しい宮子を連れ出すのは忍びなく、詩季は敏郎には理解を得ているため今回は紋女と宮子の邂逅は見送った形である。

 

「あ。そうだ。”僕の大事な人”とこれから会う予定なんだけど、一緒に来る?」

 

 さあ難題をぶん投げるぞ! と詩季は可能なかぎりのスマイルを四人に暴投した。

 

「だ……だいじ?」


 震える声で問う智恵子。振ってしまったためワンストライクである。


 

「うん。めっちゃ大事な人」


 再度の暴投。


「か、家族とか?」


「いずれはね?」


 ツーストライク。

 

「え、ど、どんな関係? 男の人? あ、解った! 敏郎先輩だ!」


「彼女だよ。皆に紹介しようと思って」

 

 スリーストライク、バッターアウト!

 

 ――はぅあぁああぁあぁぁぁぁぁぁあぁあああ……

 

 声にならない絶望の何かが辺りを支配する。

 家族をカウントしなければ最も詩季に近い異性は自分たちであり、もはや友達以上恋人未満までは進んでいると思っていた四人にとってはスクイズ失敗どころか世界の終わり、女として終わった、というほどの衝撃であった。

 

 そして、四つん這いとなる四匹の雌の彫像を心から、なんか楽しい、と感じてしまう詩季は存外酷い男である。

 もちろんこの後のフォローをするつもりだからこその悪戯心ではあるが。

 

 しばらくその彫像を眺めていたが、徐々に嗚咽が漏れ始め、周囲の通行人が何事かといぶかしげな視線を向け始めたため、詩季は慌てて付け加える。

 

「みんなが望めばだけど、その人もみんなと仲良くしてやっても良いってさ……意味はよく考えて?」


「それって! 行く! 行きます! 行かせてください!」


 絵馬が真っ先に再起動し、詩季に詰め寄った。上から目線の伝言に、一抹の不安は感じるものの、ボールが相手にあるのであればそれも甘受すべきことだと絵馬は理解した。

 

「え? え? どゆこと?」


「あっ」


「そういうことかっ」


「え? なに? なにがそういうことなの?」

 

 智恵子だけが付いていけず、困惑していた。

 

「多分だけど、その人の靴舐めれば、詩季君と」

 

 ゴニョゴニョゴニョ、と絵馬が智恵子の耳元で囁くと、

 

 ――バファッサーッ


「うぉっ!?」


「今どうやった!? 何やった!?」


 智恵子の体から見えない何かが放出され、周囲の空気が震えた。耳元で囁いていた絵馬を一瞬宙に浮かせるほどの闘気(なにか)であった。()のせいとも言う。

 

「詩季君!」


「あ、はい、なんでしょうか、友田女史」


 家族で慣れているはずの詩季だが、智恵子の血走った目が怖くて思わず物理的にも心理的にも距離を取る。

 

「靴舐めるよ! ピカピカにするから! 裏も中も任せて! 原子レベルでキレイにするから!」


「蟻だーーーーーーー!! じゃない、変態だーーーーーーーーー!!」


 商店街の中心で変態と変態が叫んだのであった。

 

 

 

 周囲の通行人や店員達からは、

 

「うわ、変態が居る」


 と思われたすぐ後に、幸か不幸か、

 

「ああ、またあの子達か」


 と納得され、通報されずに済むのであった。

 普段の行いの賜物なのか報いなのか、元凶の友人達は無関係を装うべく十歩ほど間合いを取るのであった。









次回予告 紋女と馬鹿4人組の邂逅編。




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