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幕間 ハリー ハニー

2/5も更新しております。ご注意下さい。


「さぁ、行こうか。詩季君」

「おっけ~ハニー」

「いや、それ……うーーん」

「イヤ?」

「嫌ではないんだけど、ちょっと気恥ずかしい、かな?」

「あはは、照れてる感じ?」

「そ。でも、まぁ、ね?」


 元々細い目をさらに細めて笑顔となる針生。


「あはは。ねって?」

「うん、ね?」

「ね? あはは」

「こう、優越感?」

「それは光栄ですわぁ」


 あっめぇ。なにこれあっめぇ。


 その日の放課後は針生のデートの番であり、口から砂糖を吐き出しそうになる他三人。デートと言っても必ず護衛兼監視が付く。勿論遠くからは須藤香奈がスーパーカブに跨がりつつ監視している。


「じゃあ、行こうか。どこか行きたいとこある?」

「詩季君、それは女の言う台詞だぜ?」


 チッチッチ、と芝居のように指を振る針生。


「だぜ!? よし、やり直し! さぁ言って! カモンッ!」

「どこか行きたいとことかある?」

「ハリーとならどこへでも」

「…………いまいちだなぁ」

「外した!?」


 詩季、まさかの反応に驚愕した。もてると思って調子に乗っている自覚はあったが会話の付き合いの良い針生がそう返されるとは思いもよらないことであった。


「そこはほら、二人っきりになれる場所、とかキュンキュンさせて欲しいわけだよ」

「やっべー、それ言われたら僕がキュンキュンしちゃうよ」

「え、ちょっと待って、今言うからちょっと待って。あーあーあーんんっごほんっ」

「準備で台無しだね。超身構えるわぁ」

「本日はお日柄もよく」

「無いわぁ超無いわぁ。あはは」


 二人は独特のテンポでの会話を楽しみながら腕を組んで街中を歩く。


「いや、だってこれ緊張するってば」

「ハニーのそゆとこ可愛いよねぇ」

「詩季君ってマジ悪魔だよね」

「なぜ?」

「そんなん言われたら離れられないじゃん」

「俺に一生ついてきなっ」

「あ、ドヤ顔でサムズアップだとあんまりキュンキュンこない」

「ハニーちょっと難易度高くね? 何、ツンデレって奴?」

「基本戦略は詩季君が油断して近づいてきたところを」

「ところを?」

「ガッと行く」

「ガッと?」

「ガッと」

「つえぇ。ハニーマジつえぇ」


 周りを固めている一人、智恵子は、私との会話となんかぜんぜん違うんですけど? あれ? 私が間違ってる感じ? と悩み。

 肉山は、ハリーってなんでボケずに会話が進むの? 普通三十秒に一回はボケなきゃ間がもたなくない? パネェ……流石参謀タイプ、と驚愕。

 絵馬は、ハリー、詩季君が気を使わない話術、恐ろしい子!! と黒目を失う。


 なんだかんだで針生という少女は空気を読むことに長けていた。


「私の偏見なんだけどさ」

「ん?」


 どこに向かっているのか解らないままついていく詩季に針生は話を続ける。


「男の子って占い好きじゃん?」

「へぇ。そうなんだ」

「あ、これあかん奴や」


 あてがはずれたことに気付く。智恵子は智恵子で、ざまぁっ、という表情になるがすぐに詩季の付き合いの良さを思い出し舌打ちを堪えた。


「いやいやいや、ごめんごめん、良いよ? 占い屋さん? 興味有る有る」

「ふふ、ありがと。そこ、よく当たるって聞いてさ。詩季君好きかなぁって」

「今まで占い師に見て貰ったことないよ。面白そうだね。何占ってもらうの?」

「そりゃもちろん、詩季君との未来を」

「子供の数とか?」


 静寂が訪れる。殺気立つ周囲の護衛にハッとする詩季と針生。智恵子からは怒気が、絵馬からは冷気が、肉山からは熱気が漏れている。そして少し離れた場所からは殺気がダダ漏れであった。


「し、詩季君! ちょっと五歩ほど巻き戻そうか!?」

「だ、だね!」


 いち に さん し ご 

 五歩戻る。


「さん、はい」

「ごほんっ……あ~。今まで占い師に見て貰ったことないよ。面白そうだね。何占ってもらうの?」

「将来についてとか?」

「良いね、超良いね! 未来のことってやっぱり気になるもんね!」


 占いってそういうもんだろ! とのツッコミは智恵子ら三人とも飲み込む。他者のデートを邪魔しない、それが自分たちのデートを守るためでもあるから。


「さて、ここだよ」

「へぇ。この中なんだ」


 訪れたのは某ショッピングセンターの一画。隣が歯医者とマッサージ屋。


「うーん、いい感じで怪しいねぇ」

「あの入り口にあるドクロの水晶とかやばくない? 狙い過ぎ感があって詩季君好きかなぁって」

「割と好きかも。このやっちまった感が」


 占いの館、というよりも黒魔術とかカルト教団とかそういった怪しい空間にしか見えない。


「私とどっちが好き?」

「ドク、ハニーの方が好きだよ? なに言ってんの?」

「うわぁドクロって言い掛けたよこの子。もう全く全然キュンキュン来ないわぁ。嘘でももうちょっと気を使って欲しいわぁ」

「あ~、ちょっと五歩くらい戻ろうか?」

「はは、冗談冗談。私は詩季君のこと凄い好きだから一緒に居られるだけで幸せだよ」


 ふふっ、と流し目と口元に微かな笑みを浮かべて詩季に告白する針生詠美。


「あ、ありが、と……あ、あはは」

「照れてる? ねぇ照れてる? 照れちゃったりしちゃってる? ねぇねぇねぇ?」

「て、照れてねぇし?」

「ねぇしって、ふふ……かーわーいーいー詩季君ちょーかーわーいーいー」


 挙動不審になった詩季の頬を悪戯っぽい表情でツンツンと突く針生。もう恋人にしか見えない。他三人は愕然とする。ここまでの芸当が自分たちに出来る想像が出来ないのだ。


「もう、あんまからかわないで頂けますこと?」

「ごめんごめん。でも本音だよ。詩季君のこと凄く好きだから。さ、入ろうか」


 顔を赤くし息を呑む詩季の腕を引っ張り占いの館に入った。


「何あれ、詩季君がキュンキュンしちゃってるよ!? ハリー、やばくね!?」

「う、巧いっ ハリー、詩季君とのやりとり巧すぎる! 詩季君、カウンターに弱いっ」

「普段Sっぽいけど実はMとか!? ハリーが手玉に取って詩季君がときめいてる感じが凄い不安になってくる!」


 思わぬダークホースに戦慄を隠せない三人+αであった。





「ひぃっひっひっひ。ようこそ、占いの館へ」


 占いの館は暗幕で仕切られ様々な動物の剥製やよく分からない魔法陣の描かれたタペストリーがそこかしこに飾られていた。

 そして極めつけは魔女のような三角帽子を被ったふくよかな老女。

 ひぃっひっひっひ、とほぼ絶え間なく不気味な笑い声を響かせ手元の壷の中身をかき混ぜている。


 普通こんな場所デートで来ねぇだろ! というツッコミを護衛兼監視の三人+αは辛うじて飲み込む。


「やっべぇね」

「でしょ?」


 そして目を輝かせる詩季とその反応に満足げな針生。詩季の趣味嗜好を研究した結果、よく解らない物に興味を持つ傾向が強い、と針生は見抜いた成果であった。


「お姉さんお姉さん」

「ほひぃ? あたしのことかいぃ?」

「はい」

「ひっひっひ、嬉しいねぇ。こんな婆なのに、こんな美男子さんがねぇ……今日はサービスしてあげるよぉ」


 詩季は自分より年上の他人に対しては基本的におばさんとかおばあさんなどとは呼ばず、お姉さんと呼ぶようにしていた。何故なら相手が喜ぶから、というあざとい計算でしかない。


「有り難う御座います。で、お姉さん、そのさっきからずっと練ってるものってなんですか?」

「ああ、これかいぃ? 見てみなぁ」


 詩季に見えるよう壷を傾け、木の匙で少し掬った。


「うぉ。ハニー、見て見て! なんかすっごい明るい緑だよ!」

「……泡だってて、なんか白とかピンクの粒々が怖いんだけど。何これ」

「お姉さん、これ何ですか?」

「ひぃっひっひ……これはねぇ」


 怪しい笑い声。怪しく光る占い師の目。

 もしやとてつもない毒物なのではないか? と詩季達に緊張が走る。


「るねるねるねるだよぉ」

「知育菓子かよ!」

「あっははっはは! やっぱり! 絶対この匂いはるねるねだと思った!」


 思わず秒でツッコむ針生と大爆笑の詩季。


「食べるかいぃ?」

「絶対要らないよ!」

「あ、一口良いですか?」

「食べるの!?」

「はい、どうぞぉ」

「有り難う御座います! はい、ハニー、あーーん?」

「うわぁ……うわぁあーーーん」


 詩季からのアーンを断れる訳がない針生の口に詩季は無情にも木の匙をツッコんだ。


「どう?」

「ん……どうって、るねるねるねるだよ」

「へぇ」


 ぺろっと針生が嘗めたあとの木の匙を嘗める。

 か、間接キッス! 針生は胸を高鳴らせ、他は嫉妬の視線をぶつける。


「うん、それっぽいね。毒味ありがとう」

「詩季君、今ちょっとキュンと来たのにそれは無いよ」


 恨みがましい視線を向けてくる針生に詩季は笑いながら提案する。


「五歩戻る?」

「じゃあ今度は逆バージョンで私がアーンしてあげる」

「二人とも、そろそろ」


 それはそれで色々腹立たしい、と思った絵馬が二人に時間を思い出させ針生によるシキニュウム分の接種を邪魔する。


「あ、そうだね。じゃ、占って貰おうか?」

「だね。あんまり時間かけてると詩季君の門限がやばいしね」

「ふぇっふぇっふぇ。どちらから占うかねぇ?」

「詩季君からどうぞ? おごるから」

「え、いいよ、自分の分くらいは払うって」

「いやいやいや、そこは女の甲斐性って奴でさ。ここ一回五百円だしそのくらい大丈夫だから」


 また長引きそうになるのを絵馬が咳払いをして止める。


「えっと、じゃあ、僕が先で」

「ふぇっふぇっふぇ…………む」


 手に持ったベタな水晶越しに詩季を見る占い師が笑い声を止めたかと思えば眉間にただでさえ多い皺をさらに寄せた。


「こりゃぁ…………こりゃ……たまげたぁ」

「え、そういうタメ止めて欲しいんですけど」


 勿体ぶるかのような占い師に詩季は苦笑する。詩季はそもそも占いというものを信じてはおらず、単なる余興としか考えていない。だが、勿体ぶられると変なストレスがかかるのでこの間はあまり好みではなかった。


「……お主、罪な男じゃなぁ」


 自覚は有る。そして、針生も他の面子(めんつ)も言葉通りの意味で言えば非常に納得してしまう。


「このまま()くと、お主は、多くの人間を不幸にする、と出たのぅ」


 詩季は息を飲んだ。自分が不幸をまき散らす。そう言われれば、たかが占いといえど心穏やかではない。

 そして、連れてきた針生もまた、そんな空気を味わわせたかった訳ではないだけに、占い師の続けられる言葉を止めようとしたがその前に詩季が問いかけた。


「それは……家族や友人とか……あと、恋人になる人とかの、僕に近しい人たちのことですか?」


 詩季の問いかけに、占い師はじっと水晶を見据える。


「…………そっちは、まぁ……大丈夫じゃないかのぅ? 凶悪なまでに強き者達ばかりみたいじゃし……むしろそやつらのせいで、多くの人々が不幸になるの、かも?」


 はっきりしない物言いなのに妙に具体性が感じられる内容に後ろで聞いていた絵馬は頭を抱えた。


 詩季が多くの人々を不幸にする、というがそもそも人の禍福は主観的なもので、詩季が原因だとすれば詩季の手の届かない範囲の人々が詩季を見て、憧れて、近づけずに不幸だと思うからなのではないか、と。


 ただ、凶悪、というキーワードに心当たりが有りすぎるだけにこの占い師には本当に不思議パワーがあるのではないか、と思えてきてしまう。


「まぁ、しょうがないね!」


 そして開き直る詩季。占いを真に受けていないというのもあるが、少なくとも詩季は博愛主義ではない。自分の周囲が幸せならばそれ以上は贅沢というもの、というほどには小市民、器の小さな男なのである。


「ふむ…………お主は、これまで通り、大事なものとそうでないものを、きっちりと区別して生くしかないと出たのぅ」

「了解しましたっ」


 笑顔で敬礼する詩季に、どこか苦笑いを浮かべる占い師。この、有る意味での開き直りようからすると、そもそも占うこと自体、それほど意味はなかったのだと表しているのだから仕方がないといえば仕方がない。


「さて、お主じゃが」

「はぁ」


 胡乱(うろん)げな眼差しの針生を前に、占い師は哀れみたっぷりの視線を針生の胸部に向けて、断言した。


「乳に関しては諦めるが吉じゃ」

「あ”?」


 ぶふぁッ


 詩季含む、その場に居た全員が吹き出したのも、仕方がないことである。針生の胸部装甲は、三ミリほどとほぼノーガードであり、痩せ形なのもあり、完全に真っ平らなのだから。


「うらないの癖に喧嘩は売るたぁとんだ商売上手だ」


 針生のこめかみどころか顔全体に血管が浮き出ているかのように見えるほど、その表情は修羅であった。


 人間触れてはいけないものというのが有る。むしろ無いからこそ触れてはいけないものが有る。無乳の乳。人はそういった部分を逆鱗と呼ぶ。


 この世界でも好みは分かれども女性の乳房は解りやすい女性らしさ、セックスアピールの一つであり、針生は詩季に恋するようになってから、特に気にしていた。

 ただ、無乳をからかわれるだけならばまだしも、好きな男の前で馬鹿にするようなことを言われれば我慢もならないのはまだ十代の乙女としては仕方がないことと言えなくもない。


 故に。


 振り下ろさんとばかりにガッとドクロ水晶を掴み、持ち上げ、告げる。


「冥土の土産にあなたの寿命を占ってあげよう。あと1秒」

「あわわわわ! やめ、止めとくれ!」

「ハニー落ち着いて! 流石に暴力はマズいって!」

「ハリー待て待て待て!」


 暴れだしそうな針生を抱きしめ押さえる詩季。心の中では、冬ちゃんよりも無い!? と一瞬驚愕したがそれは個体差なのだから仕方ないことであった。


 こうして、殺害を止められ半泣きとなった針生をみんなで慰める、という本人にとっては拷問のような展開となり、あまりのダメージに再起不能となりそうだったところを詩季が元気づけるのだが、それはまた、別なお話。







別なお話、のあたりは18禁になりそうなので、そちらでその内投稿したいと思います(まだ書いてはいない)

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