第一話!
「…よっしゃ」
俺は目を覚ますと同時に、棺の中から飛び起きて周りを見回す。
誰もいないことを確認すると急いで部屋から出た。
なぜ最初の仕事の時とは違い、こんなにも急いで出てきたのか…
その理由は今すぐにでも分かるだろう。
俺は部屋の外からチラリと様子を窺うように顔を覗かせた。
その瞬間、鈍い光が一斉に部屋中で現れ始める。
「イテッ!おい、早くどけよ!!」
「うるさいなぁ、こっちも混んでて動けないんだよ」
一緒に戻ってきて、上に上に同胞たちが積み上がっている棺。
「ぐはっ…お、まっ…」
「あ!ご、ごめっ…」
「はやくどけぇ…!」
今まさに棺から出て行こうとしたがタイミング悪く上から降ってくるようにここへ戻って来た同胞に潰される同胞。
「カオスとはまさにこれだな」
俺は肩をすくめて呟いた。
一気に死んだってことは、狭い+数少ない棺しかないこの部屋が一気に埋まるってことだ。
ここの魔王城の棺室は、まだ同胞が残っているにも関わらず容赦なく次の同胞が戻ってくる。
先に戻ってきてしまったやつは当然潰される。
なんとも、非常にたちが悪い部屋になっているわけだ。
しかも今回の上司は相当頭がぶっ飛んでいらっしゃるから、5000くらいの同胞を引き連れて行ってたし。
ここの収容人数は知らないけど、たぶん1000が限界じゃね?てか棺の数なんてそんなにないと思うし。
もう少しこの部屋の拡大と棺の数の増加をした方がいいと思うが、きっとそんな費用はないのだろう。
というか一気に死ななければ問題ないとか思っちゃってるんだろうね、上の方々は。
まぁ、確かにそうすれば問題はないが、仕事を早く上がりたいばっかりに自ら早急に死を選ぶ同胞もいる(寧ろそ、れしかいない)から無理な話である。
「さて、帰るか」
幸いにも今回の配置は最前線であり、誰よりも早く死にに行き安全に戻って来れた俺は安心して岐路につくことにした。
まだ後ろが騒がしいが、気にしない。
そうだ明日は休みだ、何をしよう。
俺は余計なことは考えるのをやめて出入り口横にある更衣室へと入り、いそいそと着替えを始めた。
「よし、帰る」
そして戦闘服を脱ぎ、きれいに畳んで手持ちの鞄に納めて歩き出す。
腰にぶら下げてある懐中時計を見ればまだ16時を指しており、今日はいつも以上に早く帰宅できていることに気づいた。
「よし、買い出しにでも行くかな」
「お、ヒロちゃん!今帰りかい?」
「あーおじさん、そうだよ。そっちは畑仕事まだ終わらないの?」
「そうなんだよ、そうだ!手伝「わないよ」こりゃ参った」
帰り道、横から声をかけられたと思えば近所に住んでいるおじさんだった。
おじさんは畑仕事をして生計を立てている自給自足の鏡と言えるお方だ。
ちなみにこのおじさんは、ただの人間。
俺たち同胞とは違うものたちだ。
なぜ仲良く話しているのかと言うと、近所だからだ。
というか、おじさんがこっちに越してきた俺を甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたのだ。
おじさんの他にもおばさんがいるが、今日は一緒じゃないみたいだな。
「相変わらずつめてーよ、ヒロちゃん」
「そのヒロちゃんをやめてくれたら、ちょっとぐらいは優しさを出しますよ」
「ははは!それは出来ねぇ相談だな!」
楽しそうに高笑いをし「今日は早く終わったんだろ?帰ってゆっくり休みな!」とだけ言って、おじさんは仕事に戻って行った。
やめれば手伝うと言うのに、いつもああやって断られる。
本当によく分からない人である。
というか一体何のために俺を呼び止めたんだか。
俺はその背中を見送って、再び岐路に着いたのだった。