プロローグ!
目が覚めたら、そこは棺の中だった。
俺は数秒またたきをした後に深くため息をつく。
いつの間に死んだのやら。
そしてムクリと起き上がれば目の前に見知った顔を見た。
「よー、お疲れ」
「お疲れー、お前もか」
それは俺と同じ顔で、同じ格好の同胞。
見た目が骸骨な感じなのはご愛嬌。
よく見る形だろう。
そしてお互い手を上げて慰労し合いつつ棺の中から出た。
「とりあえずあの棺は買い替えたほうがいいと思うわ」
「あー、分かるわ。所々色落ちしてるし」
そんな他愛もない話を繰り広げる俺だが、次も仕事があるため長くは話していられない。
こんな俺らも忙しい身なのだ。
しばらく歩くと、目の前には2つの分かれ道が現れた。
俺は隣の同胞を見やる。
「俺今日こっちなんだけど、お前は?」
「俺もう上がりなんだわ」
「嘘だろ」
「いやいやこれマジな。じゃっ!お疲れ!」
清々しい笑顔で(傍から見たらただの骸骨顔)去っていく同胞を羨ましく思うが、俺もこれが終われば明日は休みだ。
さっさと終わらせて帰ってご飯食って寝よう。
まぁ、俺寝なくても死なないんだけどさ。
「集合ざんすー!早くするざんすー!」
一つの扉を開ければ、騒がしく叫ぶ俺の上司が目に入った。
そういえば、今日の二度目の勤務はこの先輩だったっけ。
俺は目の前にいる図体だけがでかいノロマな上司の元へと足早に駆け寄り敬礼をする。
「やっと全員ざんすか、全くお前ら動きが鈍すぎるざんす」
お前に言われたかねぇよ。
そして「世界征服ざんす」とかいうのはやめようよ。
さすがに寒いわ、今の時代。
厨ニ病かよ。
その思想はついていけないわ。
と、心の中で毒を吐く。
口には出せない、出したらリストラだし。
こう見えて、結構身分高いからこの上司。
それ以前にこの格好の時は同胞以外の前で声出すの禁止だし。
そしてひと通りの思想論(無駄話)が終わったところでやっと出陣。
俺が瞬きをした次の瞬間には目の前に敵がいた。
「出たな、魔界族…覚悟しやがれ!」
「けけけけっ!勇者よ、今日こそは消し炭にしてくれるざんす!」
かかるざんす!と、声が挙げられれば俺達は一斉に飛びかかった。
そう、前置きは長くなったが俺は悪の魔王様の手下163号。
とある魔界で生まれたいわゆる雑魚キャラだ。
しかしそんな俺らにも意志がある。
例えば、俺の163号って数字…どう思う?
今、微妙な数字だと思ったやつ。
俺もそう思うから一緒に呑みながら話さないか。
まぁ、そんなことは今更気にしてはいないことだけどな。
生まれる順番なんて選べないんだし、俺より微妙な数字の奴らはたくさんいる…はず。
大体今、何人の仲間がいるのかも分からないのだから微妙な数字云々の問題ではないという話だ。
しかも俺達はアンデット、死なないから減らない。
お陰で労働時間がおかしいぐらい長くなることがないから、安心安全の働き生活が送れてる。
こんなしょうもない様な上司が多い魔王城だけど、給料も悪かないし不満はないのだ。
「くらえ!ホーリーナイト!」
「そ、それは!」
あ、これは死んだわ。
上司はギョッとした顔で俺達を盾にする。
俺は目の前に放たれた勇者懇親の一撃に自身の死を察した。
一体何体が一気に死ぬんだ、これ。
あ、でもこれで俺の仕事終わりじゃん、やったね。
俺は光に包まれて意識を飛ばした。