プロローグ
読むだけでは飽き足らず、ついに書く方にまで手を出してしまいました。
お付き合いいただければ嬉しい限りでございます…!
この綾村 伊織という高校生、決して勉強ができるというカテゴリーに含まれる少年ではない。
文系の教科ではなんとか人並みに点数をとっているが、こと理系教科となるとわりと壊滅的な数字を気軽に叩き出す。高校の授業が理系しかなかったら卒業なんて夢のまた夢の話になりかねない。そもそも高校に入学すらできていなかった可能性も出てくる。
だが、伊織少年の名誉の為に言うならば、決して彼の頭はポンコツという訳ではないのだ。しっかり勉強すれば、それなりにそれなりの点数を取れるようになるポテンシャルはちゃんと秘めているのである。
だが現実にはそうなっていないわけで。
それには、もちろん理由がある。
伊織は数字アレルギー持ちなのだ。数式なんて見ただけで軽い頭痛を覚える事さえあるという、なかなかのツワモノである。
根本的で、致命的な問題だった。
しかし、そんな『理系』という分野と袂を分かつ事になってて久しい伊織にも、これくらいの事は分かるつもりでいる。
「……地球から見える月って、一つっきりだよな?」
腕を組み、眉根をひそめ、これ以上ないって位に難しい顔で夜空を見上げる伊織。
なにを馬鹿な事を。
傍から聞いているとそう言わずにいられないくらい、全く当たり前の事である。
……だが。
もし貴方にお時間があるなら、どうか彼の隣に立って、一緒に夜空を見上げてみてほしい。
その光景に呆気に取られたあとで、貴方はきっと隣にいる少年と顔を見合わせて同じ台詞を呟いてしまうことだろう。
──伊織の眼前に広がるのは綺麗に澄んだ夜空と満天の星。
そして、まるで夜空に浮かぶ目玉の様にこちらを見下ろす『二つの月』の姿であった。