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第七話 初代魔王の邪悪な力

 ああ、俺死んだかも……。いや、死んだんじゃね?

 クソ……異世界で最高の人生作ろうとしたのに。

 呆気なく終わったな……。

 香織たち、生きてるかな? 舞も見つかったかな?

 まあ、あいつらが生きてるならそれでいい。

 へっ、俺、ドジすぎるだろ。

 ドラゴンに踏まれそうになったり……蜘蛛に喰われたり。

 これが、俺の異世界で授かったチート能力か?

 なわけないよな……。


「おい、相棒。諦めるのは速いぜ」


 何処からともなく、一筋の声が聞こえた。

 とうとう、幻聴も聞こえ出したか……。


「おいっ! 聞いてんのか!?」

「うわっ!? 幻聴じゃない! どこだ!?」


 俺は辺りを見回した……真っ暗で人気も感じない……。


「ここだここだ。おまえの右手」

「ん? あ、おまえだったのか!? 憤怒イラの剣!!」

「おうよ、俺には理性があるからな。喋ろうと思えば喋れる」

「あ、そうだったの……諦めるのは速いって……」


「ああ! 諦めるのは速すぎだぜ! 見損なったぞ相棒!!」

「でも、どうすりゃいんだよ? つか、ここ何処だよ?」

「ざっくり言うと、俺の意識の中だな。そこにおまえの意識をとりこんだわけだから、つまり……」

「夢だな……」


「そう! そして、本題だが……おまえ、本当に諦めちまうのかよ?」

「俺は喰われたんだ。どうすることも……」

「確かに、おまえは腹の中にいる。簡単には出られないだろうな。だが、俺とおまえの力は、あのドラゴンの時のもんじゃねぇよ。今こそ、俺の力を解放しろ……相棒!!」


「どうやって?」

「怒れよ……」

「きっかけ作れよ……」

「…………………………」


「仕方ない……初代魔王の力を借りるか……」

「おい、今何てっっ!?」

「だいぶ古いから、燃費悪いが、頑張れよっ!!」

「おいっっ!!」


 その瞬間。何か、俺の体に入りこんでくるのが分かった。

 力がドンドン溢れ出てくる感じ、高揚感。

 全ての感覚神経が研ぎ澄まされ、体中の器官が限界を超えた感じ。


 同時に、恐ろしいほどに感じる不吉な感じ。


「うっ、あああああああああっっっ!!」


 突然、俺の脳内に、声だ鳴り響いた。


「殺せ……」

「絶対に許すな……」

「怒りを憎しみを力に変えろ……」

「おまえの憤怒見せてみろ……」

「さあ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!!」


「ふっふっふっふ……ああ、殺そう」

「力入れ過ぎて、狂っちまったか……。まあ、適合して良かった。初代魔王の力」


 俺は、夢から目覚めた……。

 粘液で体がべちょべちょだった……。

 だが、そんな事はどうでもよかった。

 今、俺には殺したいという、欲求で一杯だった。

 

 俺は、剣を蜘蛛の腹の中の天井っぽい、粘液塗れの壁に突き立てた。


「まずは、この蜘蛛からっ!」


 剣を勢いよく上げながらジャンプして、壁を突き抜けた。

 壁から血が溢れ出て、顔に浴びた。

 目にも入り、すぐに拭って目を開いた。

 木がたくさん……青い空、白い雲……外だ。


「はあ、やけに冷静だな、俺」


 俺は下を見下ろした。二人の少女。

 一人は、泣き崩れ。一人はそれを抱え込んでいた。

 俺はそれを見て、また、脳内に声が聞こえた。同じ声色。


「殺せ……」

「おまえの大事な人を泣かせたのは、あの蜘蛛だ……」

「骨も残すな、ぶち殺せ……」

「おまえの更なる憤怒……見せてみろ……」

「さあ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!!」


 俺の中から、さっきとは比べ物にはならないほどの、力が湧き出た。

 それに……力だけでなく、こう、魔力? みたいなのが込みあがる。

 やばいよ……俺、狂っちまったか……。


「凛……あれをっ、クロだ!!」

「うん! でも、何か違う……黒い翼が生えてるよ……」

「それに、眼が違う、明らかに殺人者と同じ眼をしている」

「顔にも……黒い……変な線が……怖いよ、香織。あんなのクロじゃないっ」


 香織と凛が俺を見て震えている。やっぱり、俺の姿変わっちまってるか。

 まあいい。あの蜘蛛ぶち殺せばいいか。

 蜘蛛に視線を移した。

 知能が高いのか、糸で傷口を塞いでいた。


「どうせ、すぐ殺すのにな!」


 俺は翼を使い、急降下した。

 そして、蜘蛛の顔の前で勢いを付けるため、一回転し、剣を振った。

 顔の中心に大きな縦の傷が出来た。

 蜘蛛は、「ギギギギギギ!!」と、叫びながらも、反撃を試みた。

 その証拠に、刃物のような足先で、俺に向かって振りまわした。

 

 しかし、当たらない。

 感覚と危険察知能力が研ぎ澄まされている俺にとっては、スローモーションだ。

 退屈すぎてつまらない……殺しちゃお。


 俺は、翼で低空飛行を保ち、距離を取った。

 そして、一気に駆け抜け蜘蛛を通り過ぎた。

 ただし…………。


 ひと手間加えてな。


 俺はあの一瞬。

 コンマ0・1秒足らずで蜘蛛を突っ切った。

 その間、俺は蜘蛛の足を全て斬り落とし。

 蜘蛛の上空に回り込み、上から胴体を細かく微塵切りにした。

 そう、料理をしている感じで。

 そして、剣を鞘に納めて、今に至った。


 蜘蛛は当然何が起こったか理解できてない。

 ただ、これは理解できただろう。

 

 自分の体がバラバラに崩れ落ち、死という現実が。

 俺は、清々しい気分に満たされた。

 スッキリ……いや。

 これ以上のない満足感だ。


「クロ!!」

「大丈夫か!?」


 香織と凛がいち早く、俺に駆け付けた。

 香織が左手で俺の手を握り、右手で俺の頬に触れた。

 しかし、俺の脳内に響く声が鳴りやまない。

 香織を殺せ、殺せと俺に命じる。

 俺は必死に叫びながら、耐える、耐えている。

 だが、体が今にも裂けそうで、どうしようもない。

 香織を殺せば、楽になる……。

 更なる……快楽、満足感で満たされる……我慢できな……。


 香織の薄い桜色の唇が動いた。


「クロ、守ってくれてありがとう」


 俺の頬に一筋の涙が流れた。

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