第六話 初仕事は聖樹の精霊!?
結局、香織は妖刀・冷鬼を購入した。
しかし、香織の後ろに視えた、鬼は一体……。
考えるのはやめよう。
今は、今できる事をやって行こう。
うん……そうしよう……。
「ねえ、クロ~。これなんてどう?」
凛が呼んだ。
あいつが手に持っていた物は……ナックル?
いや、違う……。
それは、盾のように、内側の縄の輪に腕を通して装備して使うそうだ。
形は複雑で、プロテクターに無数の針のような物があった。
「お、おい。なんだそりゃ?」
「えっと、千龍昆? だって……かっこよくない?」
「うーん、まあ。かっこいい」
凛は千龍昆を装着し、ガッツポーズをして見せびらかした。
うん、人前で装備したらめちゃくちゃ危ないね。
「あの……クロさん、これ、どうでしょう?」
後ろから、舞の声が聞こえた。
俺は振り返り、舞の手にしている物を見た。
……杖?
「それ、杖?」
「はい! どうでしょうか……」
「うん、綺麗な水色でいいと思う」
「本当ですか!? ありがとうございます」
まさに、治癒神官と言える、優しい雰囲気だ。
うん、治癒神官は、雰囲気が大事だろ。
優しい雰囲気は、患者さんに安心を芽生えさせ、不安も治癒できる。
やはり、これはとても重要視されるのではないか?
俺はそう思う。
もし、これが殺気の塊だったら絶対嫌だろ。
そう、治癒神官は雰囲気が大事。
舞にピッタリな職業だな。
凛も舞も、無事に、武器を手に入れた。
凛は千龍昆。
舞は聖癒の杖を買った。
俺たちは、さっそく武器を使いたい!!
ということで、ギルドに戻って仕事を探した。
俺はやはり、ユグドラシルが気になる。
聖樹を守る精霊が、何故、討伐対象に……。
「これ、お願いします!!」
「かしこまりました!」
凛が依頼の紙を受付嬢のお姉さんに差し出した。
ちらっと、文字が見えた……聖樹の精霊・ユグドラシル……。
「おおおおいい!? おま、何やってんだよ!」
「だって、ユグドラシルだよ!? かっこいいじゃん!?」
「おまえ、ユグドラシル何か知ってんの!?」
「知るわけないじゃん!!」
ダメだこりゃ……俺はそう確信した。
「おまえな、俺たちの装備見てみろ」
「千龍昆!!」
「防具見てみろよ!!」
「……制服」
そう、俺たちは武器は問題ないものの、防具がまるでダメ。
制服に当然防御効果はない。
それに動きにくいだろ……。
「それでは、行ってらっしゃいませ」
「え?」
お姉さんの声が聞こえた。
同時に、床に大きな魔法陣が現れた。
これ、見たことある……。
ワープでしょ? ワープだよね!?
待って、いきなりはないだろ!?
心の準備が……。
「転移!! 聖樹の森!」
「おお、これが転移! なかなか、すごいではないか!」
「転移って、ワープですか? お、お空飛べますか!?」
「そんなこと言ってる場合じゃねー!! ユグドラシルって、危ない予感が!!」
そう言葉を残し、俺たちの姿は光の中に消えていった。
目を開けた……
葉……木々……森……。
本当に、ユグドラシルの依頼に……。
「おっほぉぉ!! ワープしたぞー!」
「うむ! 中々のモノだった!」
「おまえらはのんきでいいな」
って、あれ? 舞は?
俺は周囲を見渡した。
木がたくさんあり、少し冷たい風が吹く。
そして、薄暗い。
俺たちの周囲には、舞がいない。
どこに行ったのだろう。
ま、探すか! どうせその辺にいるだろ。
俺たちは、ユグドラシル捜索ついでに、舞も探した。
暗い森の小道を進んで行った。
虫の鳴き声が度々聞こえる。
それも、綺麗な音色ではなく、不気味な音。
キシキシ……ギギギ……。
気味が悪い。
本当にこんな所に精霊なんて、いるのだろうか。
凛も香織も警戒心がハンパない。
すっごい眼で見てる……ん?
あいつら、何見てんだ?
俺は、二人の視線に移すように、視線を向けた。
蜘蛛……?
粘液溢れる口にズラッと並ぶ牙。
モサモサの毛に包まれた体。
八本足……。
十六の目…………蜘蛛だ。
「獲物発見!!」
凛が飛び出していった。
「おい、そいつ危険だぞ!! 一人じゃ……」
いくら蜘蛛でも、今、俺たちの目の前にいるのは巨大蜘蛛。
高さが二メートル前後、体長五メートル。
そんな程度だ……デカすぎる。
凛は蜘蛛の射程に入ると、二メートルほどジャンプした。
「嘘だろ……?」
「うっひょおおおお!!!」
凛は叫びながら、千龍昆で蜘蛛の甲殻部分をえぐった。
「ギギギギギギギッッ」
蜘蛛は悲鳴を上げて、少し下がった。
「おい、凛! 今、どうやってあんなに高く?」
俺は尋ねた。ジャンプで二メートルなんて見たことない。
「ああ、何か飛んじゃった」
「は!? そんなわけ……」
「それは重力の問題じゃないかな?」
香織が割り込んで来た。
「重力?」
「うむ、この世界は重力が元の世界より、少し弱いみたいだ。体が軽くないか?」
「言われてみれば……」
体が軽い……これならっ。
俺は蜘蛛に追い打ちをかけるように接近した。
「おい、クロ! 無茶をするな!」
「なら、おまえも戦えよな!」
俺はそう言って、さっそくジャンプした。
地から足の裏が離れた瞬間、体がフワッと浮いた。
そして、気付けば二メートル程の高さ。
「うおっ、こりゃ楽しいな!」
俺は、憤怒の剣を背中の鞘から出して、高く刃を上げた。
「うおおらぁぁ」
叫びと同時に剣を振り下げた。
刃の先が蜘蛛の顔面部分を斬った。
目が二、三個斬れた。
蜘蛛は悲鳴を上げす、固まっていた。
結構致命傷だったか……。
俺は剣を持ち直し、グサリと頭を串刺しにしてやろうと思った。
そして、剣を上げた……その時。
「あれ? 動かない……え?」
足元を見てみた。無数の糸が絡んでいる。
そうか、こいつ蜘蛛だった。
てことは、俺は……エサ?
蜘蛛と目が合った。赤い眼には恐怖感を覚えるほどの殺気があった。
マズイ、マズイ。速急に脱出しなくては。
俺は足を動かし、必死にもがいた……動かない。
「ギギギギギギギッッ」
「おまえ、笑ってんのか?」
「ギギギギギギッッ……ギギッ」
「何言ってるか分かんねーよ」
だが、バカにされているのは分かる。
蜘蛛が大きく口を開けた。
中は唾液などで、液体塗れ……汚い。
嫌だ、入りたくない……。
「クロおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
「香織……おせーよ……」
走ってこちらに向かってくる、香織と凛が見えた。
だが、距離と蜘蛛の密着度を考えれば間に合わない……。
終わり……かな?
「クロ!! 絶対、死なせないぞ!!」
「クロ!! 今行くから!!」
「ドジ踏んでばっかで悪いな……」
パクリ……。視界が閉ざされた。