第五話 妖刀・冷鬼と神喰(オニ)
俺たちは冒険者登録を無事に済ませ、さっそく依頼を探した。
オークの十体討伐。
ビックペアの討伐。
ドラゴンの討伐。
聖樹の精霊・ユグドラシルの討伐。
最初の二つは大体想像できる。
三つ目に関しては、さっき倒した。
最後のって……。
精霊とか、相手にできんの?
つか、何で討伐対象になってるの?
いろいろと、疑問が湧いたが、考えても仕方ないので、考えるのをやめた。
「なあ、お姉さん。このユグドラシルってのは、何だ?」
「え、あ、私? ええと、ユグドラシルっていうのは、聖樹を守る精霊のことですよ」
やはり、勝手にお姉さんと、愛称を付けたのに戸惑っていた。
俺は話を続けた。
「そんな精霊さんが、何で討伐対象になってんの?」
「ええと、国からの正式な依頼でして、理由は機密だとか……」
「へえ。分かった、教えてくれて。サンキューな」
俺が言うと、お姉さんは、また不思議そうな顔をした。
「サンキューってのは、存じませんが、そんな装備で行くのですか?」
「うーん、金がないしな……」
「では、ギルドの方から援助資金を出しましょう」
「え、いいの!?」
これはビックリ。
最低限の事を教えて終わりかと思ったが、援助資金があるとは……。
すごく、助かる。
お姉さんは、ニコッと笑い言った。
「はい、これをお受け取ってください。五万ゼニーです」
「ありがとう! 因みに、百ゼニーで何が買える?」
「えっと、ジュースとかですかね、後、パンなども」
なるほど、相場は元の世界とは、そんなに変わらないな。
その方が計算が楽だし、慣れてるからいいけど。
俺は、お姉さんにもう一度礼を言って、テーブルで腕相撲大会のようなのを開催している、三人の所へ行った。
そして、凛の甲高い声が聞こえた。
「っしゃあ!! あたし、優勝!!」
「おまえら、何やってんだよ……」
俺が聞くと、香織が何故か自信気に言った。
「腕相撲大会だ!!」
「いや、そりゃ、見たら分かるよ……って、そうだ、買い物に行くぞ!」
すると、舞が呆れた顔で言い放った。
「私たち、無一文なんですよ。もう一度言います。無一文ですよ」
「だが、ギルドの方から資金を頂いたんだな」
「ほ、本当ですか!?」
舞の表情には。希望が満ち溢れていた。
壊してしまいたいほどだが、ここは優しく。
「じゃ、買い物行くぞ」
「「おおおお!!!」」
三人のかけ声と共に、俺たちがギルドを飛び出した。
「ていうかさー、買い物って何を買えばいいの? あたし、オタ世界全然知らないからさー」
「オタ言うな、立派な異世界だ。本題だが、その辺は任せてくれ。異世界と言えど、MMORPGゲーマーの俺に攻略不可能の文字はない」
「香織……何でこんな奴生徒会に推薦したの……」
そんなこったで、俺たちは商店街をぶらぶらと歩いた。
町並みは、ゲームの世界とほぼ同じで、西洋感が出ている。
アニメの中だけの話だったと思ったのだが、実在するとは……。
ふと、一つの店に眼が停まった。武器屋。
俺には、神器――憤怒の剣があるから良いけど……。
この三人にも、必要だよな……。
「おい、あの武器屋入って、おまえらの武器買うぞ」
「おお、武器ですか! 燃えますね~」
三人は、触れたことない世界に一歩踏み入れる感覚で武器屋に入った。
たくさんの種類の武器が並んである。
俺は、剣の品が置いてある棚を見ていた。
剣にも様々な種類があった。
大剣。片手剣。双剣。短剣。
さらに、太刀などもあった。
すると、香織が一本の剣を持って訪ねてきた。
「クロ、これなんて、どうか?」
「どれどれ、少し見せてくれ」
そう言うと、香織から剣を受け取った。
剣の刃は、まるで凍てつく氷のような冷気を感じる。
触ってしまえば、たちまち凍ってしまうような気がした。
氷の妖刀……まさにそんな印象だ。
香織に合ってるじゃないか。
「香織、この剣。おまえにピッタリじゃないのか? 俺は良いと思うぞ」
「そ、そうか? クロが言うならしょうがない。これを買う」
「おいおい、まだ時間はあるんだ。ゆっくり選べば……」
「バカ! これでいいんだ!!」
何で怒ってんだよ……。
何か、やらかした感が尋常じゃないんだけど。
香織は、店員にさっきの剣を差し出した。
俺は香織に資金を渡し、剣を買った。
「嬢ちゃん、そりゃあ、妖刀・冷鬼だぞ。おまえに使えるのか?」
「何だ、爺さん。その剣やベーのか?」
武器屋の爺さんは、冷鬼を持って語り出した。
長くなりそうだが、覚悟して聞いた。
「むかーし、むかーし、一人の鬼の子がいました。その鬼の子は両親にも優しくされ、元気良くスクスクと、育った。しかし、鬼の子が住んでいる島……鬼ヶ島に異変が起きた。沖の方から、一隻の船がこちらに向かって来た。その船の帆には、大きな桃の絵が記されていた」
「ちょっと待て、その話完全に桃……」
「黙らんか!! まだ続きがあるんじゃ!!」
「す、すみません」
「では、続ける。島にいる鬼たちは大急ぎで戦闘準備をした。そして、船は島に着き、船から四人の戦士が現れた。そいつらの名は、桃吉、ケルベロス、キメラ、キングコング・ザ・ゴリラ」
「なあ、それデタラメだろ? そんな日本昔話聞いたことねーよ」
「ああ? ニホン? ムカシバナシ? よう分からんが続けるぞ」
そうか、ここは日本じゃないんだった。
当然、知るはずないか……でも、動物たち名前的に強いのに、桃吉弱そう。
「それでの、桃吉団と、鬼が勝負した。が、桃吉団は恐ろしく強く。鬼は無様に死んでいった。そして、キングコング・ザ・ゴリラが鬼の子を見つけた。鬼の子は目の前の両親の死体を見て、泣き叫んだ。すると、何が起こったのだろうか……ゴリラの首が消えた。いや、そうではなかった。鬼の子の手にあった。そして、鬼の子は桃吉団を全滅させた。その時鬼の子が使っていた、太刀に鬼の子の血と涙が吸収されて、出来たのがそれだ」
…………………。
「待って! それ危なすぎるじゃん!! 鬼の魂宿ってんじゃん!」
「うむ、だから言っておるのだ。嬢ちゃんに使えるか」
香織は妖刀を見つめた……。
俺は止めようとした、危険すぎる。だが。
「はい、これ買います!」
「おい、香織。この太刀危なすぎるだろ!! やめとけよ!」
「クロ、私は生徒会の活動では、いつも心を鬼にしていた。おまえも言っただろう? 私に合ってると」
香織は代金を渡し、妖刀が収められている、鞘を受け取った。
そして、俺に微笑んで言った。
「鬼は、神をも喰らうんだよ。それが、神喰……」
一瞬、眼を疑った。
今、ほんの一瞬だけ……。
香織の後ろに……鬼がいた……。
補足ですが、妖刀・冷鬼 は、神器ではありません。
神器は神が残した、最強の武器とされているので、鬼が作った武器とは、少し違います。