第三話 最初の憤怒
緑、緑、緑……。
まるで、野菜嫌いの俺への、いじめじゃないのかと思い始めた。
草原一帯。無人。
状況は、絶望的だ。
今にも叫び出しそうだ、イライラと異世界へのワクワクが超越した複雑な気分。
まあ、道を聞かなかった、俺が悪いわけでもあるが……。
だが、俺はこの状況でも生き抜いてみせる。
ライトノベルや、アニメで見た、異世界物語……。
これの攻略の鍵となる物は……チート能力だ。
まあ、俺が持っているのは神器。
チート武器だ。能力ではないが、充分だろ。
俺は、この異世界を攻略してみせる。
そして、魔王を倒し……英雄として君臨してやるぜ。
クックックック……思わずニヤけてくる。
「クロ、さっきから顔が気持ち悪いけど、何かあった?」
凛が俺の妄想を止めた。
そして、失礼な口ぶり……こいつ。
「いや、考え事だ。気にするな」
「思春期男子の考え事は、90%Hな事ですからねー、ちょっと怖いですね」
「舞、おまえは全国の思春期男子の標的にされる発言をしたぞ」
「クロさんもですか?」
「アホッッ!! 俺はそんなんじゃない」
「そうだぞ、舞。確かにクロは、何も出来ないくせに、カッコつけて、しかも少し、ナルシストで、死んだ眼をしている、オタクだが、決して悪い奴ではないぞ」
「香織……もう、俺の話題から離れよう」
正直、今のが一番傷ついたぞ。
何も出来なくねーし。俺だって本気だせば、何でも倒せるし。
見てろよ、そのうち強敵をブッ倒し、輝いてみせる!!
ズトオオオオォォォォォォンンンッッと、激しい地響きのような音がした。
何か振って来たのかと、思い。
音のする方向に向いてみると…………。
「ガアアアアアアアアッッッ!!!!」
轟音の鳴き声が耳を刺激し、俺たちを怯ませた。
その声主は、黒と赤が混じり合う色のした、翼を持ち。
体の至る所に、突起物が視える。
二足歩行で、尻尾を引きずらせ、ドシドシと歩いて行く。
その姿は――ドラゴン――だった。
日本では、神話に出てくる竜とも言われている。
さすが、異世界。本当にこんなのがいるとは……。
「香織……ど、どうする? 逃げるか!?」
「うーん。わざわざ危険を冒す必要はないし、逃げるか」
「待って下さい! 考えがあります!」
舞がらしくない、発言をした。
いつもなら、まわりの意見を優先しているのに、自分から意見を出すとは。
舞もやる時は、やるんだな。
「クロさん。何か武器みたいなのを貰いましたよね?」
「お、おう。そうだけど……」
「クロさんが頼りになるかのテストがしたいです。あのドラゴンを倒してください」
「おい……舞。おまえはRPGゲームをしたことあるか?」
「ありますよ、えへへ。実はそこから参考にして、意見を……」
「全くダメだ。分かってない」
舞が、「えええええ!?」と言って、驚いた。
そして、俺は言った。
「この世界がゲームだと思ったら大間違いだ。いいか? バーチャルじゃない限り、俺たちの体は、元の世界と一緒だ。分かりやすく言うと、永遠とレベルは変わらない、まず、レベルなんてないんだ。そんな世界で凡人の俺が…………」
その瞬間、妙なものを感じた……。
殺気のような……狂気のような……後ろから……。
振り返ってみると……。
ドラゴンが大きな口を開けていた。
俺の嫌な予想……いや、未来予知に近い。
ファイヤーブレスのようなものが来る!!
俺は咄嗟に皆に叫んだ。
「逃げろおおおおおっっっ」
「「きゃあああああっっ」」
三人は必死で逃げる。
そして、後方に熱を感じる……来るっ……。
本能的にヤバいと感じた俺は、剣を抜いた。
「クロ!! 何を!?」
「戦うんだよっ。じゃないとヤバいだろっ」
「無茶だっっ!! おまえも逃げろっっ!」
「………………」
俺は香織の言葉を無視して、ドラゴンに向かった。
そして、剣を地に突き刺した。
「来いっ、おまえの攻撃は俺が止めるっっ!」
「ガアアアアアアアアアッッッ!!!」
耳を刺激する、猛烈な雄たけびを上げて、ドラゴンの開いた口から、凄まじい熱を持つ、炎を吹いた。
炎はこちらに急接近し、憤怒の剣に直撃した。
炎は剣に当たると、二つに分断され俺と剣を避けていく。
そして、炎が噴き終わったところを狙い、剣を地から引っこ抜いた。
俺はドラゴンの方へ走り、接近した。
射程に入ると、すかさず斬りつけた。
…………ドラゴンの足を。
距離が離れてたから、よく分からなかったけど。
近くで見ると、ドラゴンはめちゃくちゃ大きいことに気がついた。
が、遅かった。
ドラゴンは、俺が斬りつけていた足を上げた。
そして、俺の上でピタリと止まった……まさか。
「俺を踏むのかっ!?」
「グルルルッッ……」
ああ、そうだ。と言っているかのように、返事をした。
そして、足は次第に落ちてきた。
自分と足が二メートルもないところで、確信した。
「あ……俺、死ぬわ……」
ペチャリ……。
そこで俺の意識は途切れた……ん?
何だ……何で生きてんだ。
俺は目を開いた……そこには。
「香織!! 凛!! 舞!! おまえら何やって……」
ドラゴンの足を三人で止めていた……何か、変な武器で……。
その武器は、黄色く輝き、光を放っていた。
「それは、こっちのセリフだ!!!」
香織が怒鳴った……目に涙を含ませて。
こんなに怒っている香織は、初めて見た。
香織は、続けて言った。
「クロが勝手に死ぬなど、私は絶対に認めないっ。おまえは、私を守るのだろう!!」
「ああ……そうだったな……悪い……」
「クロ! あたしらは、生徒会だよ! 生徒会は皆で生徒会だ!!」
「凛……ふっ、らしくねーな」
「クロに言われたくないって」
「クロさん……死ぬ時は、ちゃんと死亡フラグを立たせて死んでくださいね!」
「舞、可愛い声でそれを言うな」
はああぁぁ……。深くため息を吐いた。
ちょっと調子乗りすぎたか……。いつもそうだ。
何かがある度に良い気になって……結局、迷惑か……。
女の子に助けられてる男って……惨めすぎんだろ……。
自分に腹立つよ……何も出来ない自分にすごく、怒ってるよ……。
その時、右手の憤怒の剣から、凄まじい霊力のようなモノが溢れた。
全身の血が騒ぎ始めた。血の流れが速く感じ、体も軽くなった気がする。
そうだ……もっと怒れ……。何も出来ない惨めな自分に……怒れ。
俺は立ち上がり、剣の刃を右に向けて言った。
「今こそ……目覚めよ……我の憤怒よ!!!」
言ったというより、勝手に口から出てきた感じだった。
そして、憤怒の剣を上に向け、一気に振りおろした。
剣の重みが一切感じず、羽のように軽かった。
刃の先から、滲んだ血の色の巨大レーザーが放出された。
バチバチと音を発てたレーザーは、ドラゴンの体の中心を捕えた。
そして、そのままドラゴンを貫通した。
ドラゴンは真っ二つになり、ぼろぼろと、肉片のように転がった。
周囲に残っていた物は、ドラゴンを殺した張本人のクロと。
間一髪で避けた、香織、凛、舞。
そして、赤色の血で染まった、草原だった……。