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第二話 会長は俺が守る

 あれ……ここは……そうか、異世界に来たのか。

 何か、背中に違和感が……。


「うわっ、何だこれ? 剣の鞘?」


 まあ、便利だし良いか。

 

「ここ何処だー!!!」


 凛の猛烈な叫びが耳に入った。

 そして、立ち上がり辺りをキョロキョロする。


「はあ、本当に異世界? なの?」

「そうみたいだな」

「クロは、どうしてそんなに落ち着いてるのよ!」

「こういう系は、結構得意だから……」


 凛が首を傾げた。

 ゲームの話だが、言い方が悪かったか。

 

 それより、他の二人は……。


「きゃああ、何ここ!? ええ! 怖いっ、どうしよ……誰か……」

「ど、どうしたんですか!? 会長!」


 やばい、会長パニック状態だ……。

 そりゃ、そうだ。会長だって女の子だもん……。

 これが、本当の会長の姿……。


 目の前には、会長の面影すらない。膝をついて、今にも泣きそうな女の子の姿。

 本当に会長なのかと疑ってしまう。


「えええ、会長しっかりしてください!! 大変です。あわわわ」

「怖い……誰か……」


 舞が何度も声をかけているが……ダメそうだ。

 俺も何とかしなくては……。

 しかし、どうする。普通に「大丈夫ですか?」でか、確実にダメだ。


 会長の心を揺らす言葉でなければ……。

 少し、印象が崩れるが、あれをやるか。


「会長、俺を見てください」

「く、クロ? ……」

「会長、怖いかも知れませんが、会長は俺が守りますから、安心してください」


「ほ、本当に……?」

「はい、本当です。命に代えても」

「う、うん。クロがそう言うなら安心」


 会長の頬が赤く染まり、可愛かった。

 やっぱり、会長でも、女の子は、女の子だ。

 会長は、スカートに付いた土を払い、立ち上がった。


「よし! では、さっそく行動するぞ!!」


 ん? 会長が……まあ、良いか。

 この方がしっくりくる。


「後、皆、会長はやめてくれ。香織と呼んでくれ」

「OKー。香織!」

「はい、香織さん!」


 凛と舞が返事を返した。

 元気そうで、安心した。

 さて、これからどうするかだ……町に行くか? つか、まずここは何処だ?


 初回そうそう、無人の草原からはキツイだろ……。

 何か、イベントの一つぐらい……。


 下を向いて地面を見ていた時、何か影のようなものが、映った。

 大きい影だ。夏には良い休み場だな。

 ん? 大きな影!?


 ふと、上に視線を向けた。

 そこには、クマさんの顔が有った。

 いや、そんな可愛いものじゃない。鋭い牙を光らせている、肉食の熊だ!!


「か、香織さん……クマさんですよ! クマさん!!」

「舞! あれは、人を襲う熊だ! 決してクマさんではない!!」

「ど、どうする!? 逃げる!? 逃げようよ!!」


 香織たちがビビりまくっている。足がガクガクと震えている。

 自分の足に視線を向けてた。内心不安だが、体はビクついていない。

 俺は……戦う……この、憤怒イラの剣で。


 俺は剣を抜き、バックステップを踏み、下がって構えた。

 そして、熊を睨んだ……眼が合った瞬間。


「貴様……神器持ちか……?」


 熊の口から、そう音が漏れた。

 ん? 聞き間違いか? 熊が喋ったような……。


「おい、無視をするな!」

「………………っっ!!」


「「熊が喋ったああああぁぁぁぁ!!!」」

「今更、驚くな。普通だろ」

「いや、普通じゃねーよ! 何で人間の言葉喋れるんだよ!?」


「そ、そうですよ! クマさんが……可愛いです」

「舞! クマさんじゃない! 熊だ!」

「どっちも一緒だってば!!」


 三人のコントのような会話が聞こえた。

 この状況で余裕なおまえらがすごいよ……。

 どうする……こいつを殺すか? いや、そんなこと俺に出来るのか?


 いやいや、違う。

 ここは平和的に話そうじゃないか……。


「おい、あんた。俺らこの世界について全然知らないんだ、少しばかり教えてくれ」

「なるほど、転生者か……良いだろう。ここは人々が剣と魔法を使い、成り立っている世界。名前は特にないだろう。そして、平和に暮らしていた時に、突如魔王が来たのだ。魔王は人々を殺し殺し殺し尽くした……今は、魔界大陸に帰っているが、何時襲ってくるか……」


「なるほど。で、あんたが言ってた神器持ちってのは?」

「ああ、神器持ちとは、名の通り神器を持っている者だ。その者は常人より凄まじい戦闘能力を持つと言われている」


「へえ。ってことは、俺以外に神器持ちがいるのか? いたとしたら、もしかして……」

「ん?」

「魔王側にも、いるんじゃないのか?」


「ああ、ご察しの通りだ。奴らは強い、気をつけろ」

「そうか、それでは、もう一つ……。これから俺らは、どうすりゃいいんだ? 魔王を倒してくれとか、どうとか……」


「そうか、やはり神に連れて来られたのか。そうだな、ギルドで冒険者登録をして、貴様らでパーティを組み、戦い。魔王を打ちのめせばいいだろう」

「おいおい、簡単に言うなよ」


「いや、俺もよく分からんでな。詳しくはギルドの看板娘にでも聞きな」

「おい……その子は可愛いのか?」

「ああ」


「ちょっと、話が反れてるじゃないかっ。真面目にしろ!」


 香織によって、会話が中断された……怖い人だ。


「分かったよ。つか、聞いてたのか……熊ありがとな。頑張るよ」

「ああ、それと俺の名は、クマさんだ覚えておけ」

「あああああ、ほら香織さん!! やっぱりクマさんじゃないですか!!」


「あっはっはっは、こんな……ことありえるの? ブブブッ……」


 凛が爆笑し、お腹を押さえている。

 香織は少し、気難しそうにしていた。

 まあ、色々ありそうだが、これでいいのかもな。


「クマさん、じゃあな。魔王打ちのめしてやるよ」

「期待しているぞ」


「クマさーーんっ。また、遊んでくださーい!!」


 別に舞は遊んでいないけどな……。


「クマさん。有益な情報、感謝します。どうか達者で」

「クマさーん。今度、遊ぼうなー!!」


 香織と凛も、クマさんに別れを告げた。

 相変わらず香織は、堅苦しい。

 

 俺たちは、辺り一面に広がる草原の中を歩き続けた。

 風が心地よく、気持ちいい。

 が、俺たちは少し嫌なことに気付いた。


「なあ、香織……」

「どうした……クロ」

「町に行く、道を聞くの忘れてたな……」


「……そうだな……」


 こうして、俺たちの異世界生活の始めは。

 草原の中をただ、ひたすら歩き続けることから、始まった。

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