準備は大切です。
グロ表現注意してください。
「着替えて…」
床に積まれた五人分の服をそれぞれに渡していく。
「・・・服装についてだけ・・・選別して消化したから・・・
これで・・不信に思われることはないよ・・・」
「そう、私たちの世界と違いはなさそうね。」
「うん。・・・兄さんと姉さんと僕が冒険者・・・リーウェとセイは村娘・・・
・・・まずは・・・村から大きな町に出て行く・・・初期装備、これがコンセプト」
「・・・・ちょっと、トール。何よ、この服。」
それぞれが渡された服を着ていると、イストが背中を向けていたトールの頭を鷲掴みにした。
「えっ・・・・何か・・・駄目だった・・・?」
イストが指さしているのは、足首まである藍のスカートただし右足側には足の付け根が見えそうなほどのスリットが入っている。
「わぁ、似合うねイスト・・・あっお姉ちゃん」
「当たり前です。私がどれだけこの体に注ぎ込んだことか」
文句を言いたげだったイストが、メルリーウェの目をキラキラさせた賛辞に豹変した。
でも、自信を持っていうだけあってイストのスリットから覗く右足は男なら鼻の下を伸ばすものだ。
「わ、私もいつかお姉ちゃんみたいに!!」
「駄目」
聞き捨てならないと、珍しく滑らかな言葉がトールから出た。
「リーウェちゃん。ああいうのを好きな男は移り気でだらしなくて、女癖が悪いに決まっているんだ。
いや。スレンダーで足が綺麗な強気な女性に近づくのはドMみたいな変態さんかも知れないよ。
リーウェちゃんは、そのままで十分男の人から好かれる。このままで大きくなればいいんだよ」
鬼気迫るトールの珍しい様子に、いつもなら怒って制裁を下すイストもドン引きしている。
「まぁ、トールの言い分も一理あるな。騎士団に多かったし、そういう奴」
「知りたくなかったわよ、そんなの。私、騎士団の奴から何人も口説かれたのよ」
「俺が知る限り、そいつら皆そういう趣味だった。」
「教えなさい、見えたんなら、その時に」
イストに首を締め上げられ足元が浮かび上がる。
「いや、すまん。せっかく貢がせてるんだから邪魔したら駄目だと思ってな」
「えぇ、たっぷりと貰えるもんは貰ったけどね。生理的に受け付けないの、そういうの。」
バルトは首を押さえ咳き込んだ。
呼吸が必要というわけでもなく、首を絞められたくらいで苦しみを感じるわけでもないが、ついつい生前と同じ感覚で行動してしまう。
ふと見ると、まだ着替えていないのはセイだけになっていた。
「セイ、いい加減に喰べるの止めて、着替えろよ。消化に時間かかるだろ」
「基本的な情報を選別して消化すれば、一日寝るくらいで済みそうよ?」
「何があるか分からないんだ。戦力は欠きたくない。」
バルトに言われ、食べるのを止めて振り向いたセイの口元と手は真っ赤に汚れ、服も色では分からないがベタベタに血に濡れていた。
「ねぇ、セイ。なら、この人残しちゃうの?私が貰ってもいい?」
魔術師の男と生贄を優先的に食べていたセイが一欠片も手につけていなかった従者ジェイクの横にしゃがみこんだメルリーウェ。
「ただの庶民じゃなさそうだったから味もいいかなぁと思って、デザートにしようかなぁって」
「お腹がすいたからって食べちゃ駄目よ、メル。貴女は死人じゃないんだから。」
「お腹・・・すいたの?・・・・はい、これ・・・」
照れるセイに勘違いするイスト。トールにいたっては、腰から下げたポーチから白いパンを取り出しメルリーウェに差し出した。
「あっ・・・大丈夫だよ・・・僕の『インベントリ』の中・・・時間流れないし・・・」
「違うもん。」
ぷくぅと頬を膨らませて拗ねる。けれど、白いパンはしっかりとその手の中に入っている。
「傍にいなかった三人・・・魂だけで着いてきたんだ。
綺麗な体だから、誰かの体に使えるかなと思っただけだもん。」
「あら」
「えっ」
「へぇ」
「ほんと!?」
つんつん少年の遺体を突くメルリーウェの後ろで四人が驚きの声を上げる。
「それじゃあ、王宮には三人の死体が残っているってこと!?
で、消えた離宮の廃王女!
ミステリー!!」
セイの目がキラキラと輝く。
「いや。そうじゃないだろ。」
「そうね。そんな分かりやすい殺しなんてしないもの。」
「違っての。」
「・・・全員がそろえば・・・できることが広がるね・・・」
トールがうっとりと笑う。
元の世界で読み漁った内政チートや冒険の物語が頭の中を駆け巡る。
自分は動きたくないけど間近で見てみたいという欲求がむくむくと大きくなる。
普段離宮には近寄らず何食わぬ顔で生者の生活を続ける仲間たちの実力は、それだけ強力なものだからこそ期待してしまう。
「まずは三つ。体を手に入れる必要があるな。」
「まずは?」
首を傾げたメルリーウェの頭を、バルトは優しい手つきでぐしゃぐしゃと撫で付ける。
「何なら、俺たち四人も体を変える可能性があるって話だ。
トールの能力の一つ『インベントリ』もある。魂の入っていない体が腐る心配もない。
体のストックがあれば、どんな状況にも対応できるってもんだろ。」
「わっるい顔ぉ」
「でも良い考えね。」
バルトだけではなく、セイやイスト、よく見えないがトールも歪んだ笑みを浮かべた。
「基本的に死霊の私たちはメルリーウェに繋がれた魂があれば容れ物など選ばないもの。
状況に応じて、好みに応じて、容れ物は自由自在だわ。・・・今の私のようにね。」
「じゃあ、まずはこれは誰の体にする?」
全員の脳裏に浮かぶのは、三人の仲間たち。
四人以上に個性あふれる三人だ。
次の体が手に入るまでに、行動する中必要な者は誰か。非常に悩むところだ。
戦力を選ぶか。
交渉力を選ぶか。
後衛役を選ぶか。
「悪いが翁はまだ必要ない。」
「そうね。治癒能力は必要なものだけど今かと言われれば違う。
いざとなれば、私たちの誰かと体を交換すればいいもの。出来るわよね、メル?」
「・・・出来ると思うよ。普通よりちょっと疲れるけど」
「なら、翁は後でいい。」
「そうだねぇ。簡単な怪我ならトール君の『夢を描く手』で初級ポーションとか出せばいいんだしぃ」
クスクス セイがトールの腕に絡みつく。
「なら、どっちだ」
「私はおーじ様がいいなぁ。交渉力って大切だもの。
それに、この子の容姿もどっちかっていうとおーじ様向け」
「私は団長が。セイの消化が終わるまでは、どんな敵が現れるか未知数。
・・・なによりこの子可愛らしいから彼の趣味にあうわ。」
「・・・団長で・・・戦力は必要だし・・・・・・王子様は目立つ・・・」
「・・・団長にするか・・・夜営とかも手馴れているだろうし、な」
決断したバルトが少年の傍にしゃがみこんだままだったメルリーウェに目を戻す。
首を縦に動かしたメルリーウェは、再び体の奥底から力を練りだし、その目を濃紫へと変化させる。
それにより、引き釣られるように目の色を変化させた四人にも普段は気配を感じるだけの光景が目に映るようになる。
メルリーウェの周りには紫色の燐光を放ちながら漂う三つの光の珠
そして、部屋の中には数個の白い光の珠が漂っている。
「セイ。肉を食べる前に魂を食べなさい。効率が悪いでしょ。」
「だって、もう体から完全に離れていたんだもの。面倒くさいじゃない、捕まえるの。」
死者を喰べて情報や記憶を得るには死者の魂と肉体を食べればいい。でも、魂と肉体では得られる情報の量も質も段違いで変化する。死んで時間が経ち魂と肉体の繋がりが失われてしまうと、魂を捕まえるのは難しく面倒くさくなる。
ヒソヒソと話す中でも、イストのうっとりとした視線はメルリーウェに注がれている。
メルリーウェは、自分の周りに漂う紫珠の一つを手の平に乗せると、それを死んだ少年の口元に導き押し込んだ。
げほっ がはっ
「必要ないはずなのに、咳き込んじゃうのはなんでなんだろうね?」
紫珠が口に入った瞬間に、咳き込み、持ち上がった手で口元を押さえる少年の姿に、セイが首を傾げる。
「魂が記憶しているんだろうな、息をしていた時の条件反射を。」
俺もよくやっちまうんだよなとバルトが頷いている。
「あぁぁぅ。」
上半身を起き上がらせた少年が口元を押さえ唸り声を上げた。
「・・・ジェノスさん・・・これ・・・」
茶褐色の小瓶をトールが差し出す。
少年は躊躇いもなく小瓶の蓋を開け、中身を煽った。
すると、体の前面に大きく斜めに斬りつけられた傷口がみるみると塞がっていった。
「相変わらず、すげぇ効き目だな。異世界の薬ってのは恐ろしいもんだ」
正確に言えば、異世界のゲームの中のアイテムなのだが、ゲームの存在しない世界の住人に説明するのは面倒くさいし、説明しても覚える気のないバルトにしてもしょうがないので、トールとセイはもう説明するのは諦めている。
「おはよう、ジェノス」
にっこりと満面の笑みを浮かべ、メルリーウェが傷口の確認の為体を触っている少年に抱きついた。
イスト「あぁぁぁメル!服に血がつくでしょ!!!」
バルト「お前、どんだけ洗濯に命かけんだよ。」
セイ「感動的な場面が台無し」