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王女×死霊術士=世間知らず 異世界へ!!  作者: 鵠居士
二度ある事は三度ある。三度あることは・・・
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思わぬ再会

少年の左手に、少年の手の平から少し大きい砂時計が現れる。

クルリと、少年は砂時計を持った手の中で器用にも上下逆さにひっくり返した。




ハッと感じた時には、バルトの目の前に砂時計を手にしたままの仮面をつけた少年が居た。

一瞬のことだった。

バルトが瞬きをしたか、しないかの一瞬の間で、ひしめいている貴族達の間を潜り抜け、仮面をつけたままのメルリーウェと手を繋いだ少年が目の前に現れた。

「…こんな所で‥何をしてるの…バルトさん?」

のっぺりとした仮面がバルトを見上げながら話しかけてきた。

姿形に見覚えは無い。声も知らない。だが、その独特の話し方は耳慣れたものだった。

「トール、か?」

人見知りが激しい弟分の名前を口にすれば、目の前の少年がコクリと頷いた。

「じゃあ、やっぱりメルリーウェなんだな。」

「うん。」

トールと手を繋いでいない方の手で、メルリーウェがすんなりと仮面を剥がした。

顔を隠す為のものだろう、と今更ながらバルトが周囲を慌てて見回した。

目の前にトールとメルリーウェが移動してきているというのに、周囲から声が上がらない時点で頭の端では何となく何かが起こったのだと分かっていた。

バルトの動きは、条件反射のようなものだった。


誰一人、音一つ立てず、瞬き一つしようとしない空間が広がっている。

両隣を見ても、ニックもフェウルも前を見据えたまま動いていない。

バルトがフェウルに目を向けていると、メルリーウェが仮面を外すのに使った手をフェウルの体へと伸ばしていた。

メルリーウェの手がフェウルの腕に触れる。

すると、フェウルの全身が息を吹き返した。

「…どうして貴女達が召喚されてきたのですか?」

極普通に動き出したと同時に、目の前にいるメルリーウェに驚く様子も見せずにフェウルが疑問を口にした。

驚く素振りを少しも見せなかったフェウルにバルトは驚き、そして感嘆の声を上げた。

「分からないの。皆でご飯を食べてたら、本当に突然床が光り出したんだよ。」

「…陣の中心はリーウェちゃん…だった。」

メルリーウェとトールの説明に、それはそれはと呟くフェウルの目は恐ろしい光を宿した。

「あれは、セイとかか?」

バルトが陣の中で動きを止めている、メルリーウェとトールと一緒に居た少年を指差した。

「ううん。クイン君だよ。新しい家族になった。」

「あぁ、セイが連れてきたという従業員の子ですね。」

行商の途中でも店との連絡を毎日行なっていたフェウルには、セイが連れてきた従業員扱いとなった子供達の話は通っていた。

逆に、気づかなければ連絡を取らない日が続くバルトには、それは初耳だった。だが、それを口に出してしまえば連絡をこまめに入れろと叱りの言葉を投げつけられることが分かっていた為、バルトは何も言わず口をつぐんだ。

「…あぁ~…あっ、その仮面と、トールの体はどうなってんだ?召喚されたのは突然だったんだろ?店で飯食べながら何してたんだ?」

口を噤むのも可笑しいか、と思い立ったバルトが、何とか話を絞り出した。

それもまた、疑問に思っていたこと。

トールにメルリーウェ、そしてクインという少年が顔に貼り付けている不気味な仮面。そして、普段見慣れた少し太めの黒髪黒目のトール本来の姿では無い、今のトールの体のこと。


「あっ、これ?これは、トール君がこうした方がいいって言って。」

ね、トール君。メルリーウェは笑顔でトールを見る。

「こういう時って…多分、定番…通りだと思って…」

もう慣れた。

トールは多分嘲笑のような表情を仮面の下に浮かべているだろうと、その声から判断出来た。





翡翠の光に包まれた時、トールは素早い動きで左手の中にあるアイテムを生み出した。

それは、砂時計。

色々と小難しい条件があって使い勝手が悪いと不評だった、とあるゲームの希少アイテム。

効果は『砂が落ちるまでの間、砂時計使用者以外の周囲の時間を止める』というもの。

トールは砂時計を逆さにして、召喚の途中で時間を止めることに成功した。

そして、ふと思いついた事を実行した。

それは、砂時計を斜めにすることだった。砂時計は本来、平たい場所に置いて正確な時間を計る道具だ。ゲームの中でも、砂時計を使う選択をすれば、しっかりと真っ直ぐに逆さにされ砂を落とす砂時計のスナップが画面に現れていた。なら、斜めに砂時計を置けばどうなるか。砂は途中で落ちる事が出来なくなる。角度にもよるが、少ない量の砂は必ず上に残ってしまうのだ。ということは、『砂が落ちるまで時間を止める』という効果の制限時間が無くなるということ。トールは砂時計を斜めにして持つと、召喚に備えての準備を始めた。

砂時計の次に左手で取り出すのは、仮面。

これには『周囲からの認識を弱める』効果があった。これをつけていれば、召喚主の下から逃げ出すのも簡単になるだろう。仮面を外して姿を消せば、トール達のことを思い出すのも難しくなるのだから。

そして、次に無限収納の中から一体の体を取り出した。それは、セイがいざという時に使えばいいと用意していたものだ。こんなにも早く使うことになるなんて、と溜息を吐き出しながら、トールは砂時計を動きが止まっているメルリーウェの体に押し付けた。ゲームでは使用者と説明されていたが、触れていればいいのではと考えたからだ。

その考えは当たり、砂時計に触れたメルリーウェが瞬きを始めた。

「あれ?」

動き始めたメルリーウェは、キョロキョロと周囲を窺う。

左右を見て、そして目の前にいるトールを見た。

「ここ、どこ?」

「…分からない…。時間を…元に戻したら…分かる、よ。」

言葉は少ないが、トールに言えることはそれだけだったし、メルリーウェもそれで納得した。

「リーウェちゃん。これに…僕を入れて欲しい…んだ。」

トールは袋から取り出して足下に転がした身体を指差し、メルリーウェに頼んだ。

「いいけど、どうして?」


「人は呼び出したモノに理想を押し付けるから。」


珍しく、トールの言葉がはっきりと吐き出された。

自分達の為に呼び出したものは美しくなければならない。

心優しいものでなくてはならない。

力があるものでなければならない。

それ以外が現れたのならば、それは失敗ということだと彼らは判断する。

それを、トールは今までの経験で知っていた。

「…これなら、この身体よりも…見目は良いから、ね…。ここから出たら…僕が良いと言うまで…仮面を被って声を…出さないで、ね。逃げる時の為にも…あまり…判断する材料を…与えないほうがいいから…」

「…うん。分かった。」


そしてトールはクインにも砂時計を触れさせ、メルリーウェと同じように説明した。始めて体験する訳の分からない状況の中ではトールとメルリーウェしか頼れる相手は居ない、そんなクインは大人しくトールの指示に従うしか無かった。


目を濃紫に輝かせたメルリーウェによってトールが体を変えた所で、砂時計の砂は完全に落とさせた。






「…よく頑張ったな。」

トールとメルリーウェの説明を聞いて、バルトはトールの頭をワシワシと少し乱暴に撫でまわした。

慣れているから、とトールはバルトの手に頭を翻弄されながら呟くが、だからといって冷静に判断を下して動くのは難しい。

「さて、このまま俺らと来るか?」

こうして召喚に立ち会うことになったのも、もしやこの為だったのかと思えて、バルトは笑いたくなった。嫌々連れて来られた場所で、大切な家族と再会することになるなんて。信じてもいない運命の神にバルトは内心感謝を捧げていた。

「ううん。」

時間が止まっている間に向けだしてしまうかというバルトの発案に、トールは首を振った。

「何をしたかったのか…説明だけは…聞いてあげないと…」

トールが気にしているのは召喚の理由。

在り来たりなのは、魔王を倒すためなど、現地の人間では対処出来ない敵を倒す為に無関係な異世界の人間を召喚するというもの。だけど、店に来る冒険者達からも、ギルドの人間からも、魔王とか、そういった噂話を聞いたことは無い。

なら、なんの為に。

トールが己の考えを口にすれば、フェウルがそれに同意を示した。

「そうですね。わざわざ、これほどまでに大掛かりな儀式を行なって、何をなそうとしているのかは気になりますね。」

「うん。…目的と…あの人達を観察したら…帰る、よ…」

トールが示したのは、魔術陣の中にいる三人の少年少女。

「多分、僕とセイの…世界の子…。馬鹿をする…タイプにも見えるから…見定めておく必要がある…んだ。」

「そうですか。なら、気をつけるんですよ。街中の、この宿で待っています。」

フェウルが小さな紙に自分が泊っている宿の名前を書き込むと、それをメルリーウェの手に滑り込ませた。

「…分かった。」

「頑張るね。」


そして、次に目に映ったのは、魔術陣の中にメルリーウェとトールが戻り立っている姿だった。

先程まで音一つなかった広間は歓喜の声で耳が痛い程五月蝿くなっていた。

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