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王女×死霊術士=世間知らず 異世界へ!!  作者: 鵠居士
二度ある事は三度ある。三度あることは・・・
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そこに現れたのは・・・

バルトとフェウルの視界を翡翠色の光が覆い尽くしたのは一瞬の事だった。

腕を持ち上げ、広間の中心から放たれた光が目が直接当たらないようにしたバルトとフェウルは、光が治まったと感じると同時に腕を下ろし、目を開けた。

他に広間にいた貴族達がまだ目を瞑っている状況の中で、多分誰よりも早くに状況を見定めようと目を開いたのはバルトとフェウル、そしてニックだったと思われた。


魔術陣を形成している線は未だに翡翠色の光を放っていた。

陣を取り囲む、貴族達にも変化は無い。

ただ一つ、変化があったのは魔術陣の内部だった。

ニックが驚愕の声を上げて顔を引き攣らせている中、ようやく目を開く事が出来た貴族達から歓声の声が上がり始めた。その声は段々と大きくなり、広間を振るわせるまでとなる。

その中で、バルトとフェウルは驚きに愕然とし、声を失い、ある一点を見つめていた。


魔術陣の中には、先程までは居なかった6人の、まだ幼さを残す少年少女の姿があった。


その内、二人と少年と一人の少女は黒い髪に黒い目と、この世界ではあまり見かけない色を持っていた。その纏っている服も、あまり見かけないもの。少女にいたっては、娼婦でも滅多に身に付けることの無い膝を露にしたスカートだった。


その異様な服装の三人から少しだけ離れた場所に固まって立っている、彼らよりも年下だと思える身体の小さな残りの三人は、この世界に普通に暮らしていると言われても納得出来る装いをしていた。

6人の中で一番小さく幼いと思われる少女は栗色の長い髪で、可愛らしく動きやすい平民の少女が纏う服を着ていた。

少女の両隣を固めるように立つ二人の少年も栗色の髪で、少し身なりの良い平民の服装を纏っている。

だが、前の三人よりも、こちらの三人の方が異様だった。

真っ白な、凹凸の無いのっぺらとした仮面で、三人は顔を隠していた。

目の色も判別出来ない、小さな穴が開いているだけの仮面は不気味さを放っている。


歓声を上げて興奮している貴族達はまだ、それを気にすることも出来る程落ち着きを取り戻してはいない。

同じ場所に立っている、仮面で顔を隠していない少年少女達は不安を隠せない、恐怖に染まる表情で歓声を上げる周囲を見回すだけで精一杯のようで、それに気づいてすらいない。


だが、バルトとフェウルは、その三人にこそ目を奪われていた。

一人、少女に関しては確信があった。

だが、彼女と共にいる二人の少年に見覚えが無かった。

たまたま近くに居ただけなのか、だが、そう思うには少女が二人の少年を信頼しているように見える。

年の頃からすれば、セイとトールのような気もしないでは無いが…。

もしかして、メルリーウェの力で何処かで手に入れた遺体を使っているのか?

混乱していた頭でようやく、姿形が違う只一つの理由に辿り着けたバルトとフェウルが息を飲んだ。


メルリーウェだと思われる少女と手を繋いでいた少年が、その仮面に隠されている顔をバルト達へと向けたのだ。


そして、少女へと何かを話しかけ、小さく他からは見難い動きでバルト達の居る方向を指差す。

少女がその動きに促され、顔を上げた。


ゾクリッ

バルトとフェウルの背筋に歓喜の振るえが走った。


メルリーウェだ。

二人は確信した。







その日、すでに様々な噂によって冒険者にとって憧れを向けられる程になったいる店『カラミタ』は店を閉めていた。

といっても、店の中からは賑やかな声が聞こえていた。

受けていた依頼が終わり、休息を取る為に久しぶりに帰っていたジェノスを交え、バルトとフェウルが居ないことを残念に思いながらも、全員で食事を取っていた。時間としては少し遅めではあったが、各々に有意義な作業時間を過ごしていたら、すっかりと昼食の時間を過ぎていたのだ。

トールは、食べる事に興味がありあふれるエニに試食をさせながら簡単な料理の仕方を教え、自分は料理本を見ながら新しい料理に挑戦していた。

自分の能力を使えば、インスタントや缶詰、コンビになどで売っている調理済みのものもすぐに用意出来るのだが、何だかそれも味気ないなと感じるトールは、自分達が食べる分だけでも自分で作ろうという考えがあった。時には、食材も能力で出すのではなく、この世界のものを活用しながら。


ラスは常と同じく、自分の作業場で気が向いたものを手掛けていた。今日は、銀細工を作ろうと思い至ったのか、見事な細工へと銀で作り出していた。

その横で、それに興味を持ったトリアがジッとラスの手元を見つめていた。

メルリーウェにも裁縫や編み物を教わっているトリアは、物を作ることに興味があるようだった。


メルリーウェも自分の工房に篭り、ひたすらに服を作り出していた。

5人の成長期真っ只中の仲間を迎え入れたことで、それぞれの服が何枚も必要となった。仲間のものだからと、メルリーウェはトールが用意してくれた特殊な力を宿す素材から布を作ることから始めるという凝り用を発揮し、最近工房からはトンテンカンという布を織る音が聞こえてきていた。

特に、自分と同じくらいの女の子が居ることが嬉しかったようで、フリルやレースなどの可愛らしく華やかなものを多様しようとウキウキとトリアとエニに相談する姿が毎日のように見られていた。


中庭では、イストとジェノスが、冒険者になりたいと志願するカイとアトに基本的な動きや武器の扱い方などを教えていた。

面倒臭そうにしていても面倒見が良いイストも、元々部下を育成することも仕事の内としていたジェノスも教え方は上手く、カイとアトの良さを活かした伸ばし方をしていた。

そのおかげか、教わり始めて日の浅い二人も順調に技量を伸ばしていっている。荒れ果てた街で子供だけで暮らしていたこともあって度胸もあった。そろそろ、魔の森の浅い部分ならば連れていって空気に慣れさせるくらいはしてもいいかとイストとジェノスは話していた。


食堂では、セイがクインに簡単な魔術を教えていた。クインに魔術の才があると、魔術師から奪った刻印の効果によってセイは初めて見た時から気づいていた。クインが使える属性は火と風、地。魔力もそこそこにあるようだと分かり、店を護る為の戦力として使えそうだと思ったのだ。

それに、見た目が良いものが多い貴族の血を引いているだけあって、クインの見た目はそこそこに良い方だ。トールに作り出させて魔道具や魔術の媒体へと改造した楽器を持たせたら似合いそうだとセイは考えていた。

見た目が良いとセイが勝手に判断した楽器を幾つか用意し、クインに魔術と一緒に使い方を教えていた。ヴァイオリンにフルート、サックス、セイもそれぞれ音の出し方を知っている程度の楽器ではあったが、フルートとサックスは吹奏楽部だったトールが音階の出し方くらいは知っていたし、後は初心者用の本を読みながらの作業となっていた。




なんとか一段落ついた全員が食堂に集まったのは合図も無く自然な流れだった。

示し合わせたわけでも、呼びかけたわけでもないのに、同じような時間に食堂へと休憩を取りに出てきた全員に、トールとエニは二人で作った料理の数々を運び出し、食事を取ることになった。

全員が席につき、わいわいと、今日、自分がしている事を話しながら賑やかに進む食事。

疲れが隠せない子供らも、慣れないことばかりも生活に苦労も多いが、店に来る前には考えられなかった"楽しい"生活に笑顔を浮かべていた。


そんな食事が終わってすぐの事だった。


すっかり空となった食器を片付けようとトールがまず、席を立った。

俺がやります、とトールに続いて立ち上がったのは、トールの横に座っていたクイン。

「デザートを持ってくるついでだから。」とクインに座っているようにという、トールの言葉に反応したのは甘いものは別腹だと笑顔を浮かべたエニとメルリーウェ。「運ぶの手伝う。」そう言って立ち上がったメルリーウェとエニがトールの傍へ駆け寄った。


そして、それは起こった。

翡翠色の線が、メルリーウェを中心に床を走った。

その線は、クインとエニ、トールの下を走り模様を描いていく。

「どいて!」

それが何か判別がついたセイの、焦りと怒りが交じり合った声が鋭く飛ぶが遅かった。

とっさにエニをトールが突き飛ばし、驚いて一瞬動くのが遅れたメルリーウェへと手を伸ばした所で、翡翠の光が強く輝いた。


「メルリーウェ!!」


次の瞬間には、メルリーウェ、トール、クインの姿はそこには無かった。

「私達が留まっているってことは、この世界の中にメルは居るってことよね。」

冷静さを損なっていないように聞こえるイストの声。

だが、その目は何時になく鋭く険しかった。



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