どんな味?
あなたのおなまえは?
メルリーウェが力を振るう。
すると、首だけになった男の大きく見開かれた目がぐるりと回り、最後に自分を掲げるメルリーウェへ向かう。
く ひひひひひひひひひひひh
kらだ わたひの からd
呂律のまわらない狂った笑い声をあげた。
「駄目ですね、これ」
ちぇっとセイが口を尖らせる。
「そういえば、ここまで壊れたのに術をかけたのって初めてだった」
あららと苦笑いを浮かべるメルリーウェ。
「当たり前ですわ。そんな汚いもの、メルリーウェ様の前に、離宮の中にいれるわけございませんわ。
私の仕事が増えるじゃないですか。」
腰に手をあて胸を張るイスト。
「そういう話ではない気がするんだがな。
で、どうすんだ・・・これ?
話聞けそうにないだろ、どうみても」
メルリーウェの手から、バルトが流れた血で真っ赤になった髪の毛をつかんで首を持ち上げる。
「・・・セイが・・・食べちゃえばいい・・と思うよ、僕は・・・」
相変わらず、ぼそぼそとしたトールの声に全員の視線が、トールに背中を押されて一歩前にでることになったセイへと向かう。
「えぇ、私?」
トールを振り返ったセイは頬を膨らませて不快感をあらわにした。
「知識を得るんだったら、俺とかイストとかで良くないか?
年長者ってことで前に出ることも多くなるんだし・・・」
「そうですわね。・・・美味しくなさそうで、嫌ですけど。」
つんつんと首をつつくイストの顔もセイと同じように不快感に満ちていた。
「ですよねぇ、イスト姉さん。なんか、十日間放置したミルクな感じがしませんか?この人」
「いいえ。じめじめとした日に飲む、日向に置かれていたワインの味ですわ絶対」
「・・・魔術士なんだから・・偉そうにしてたし・・・・魔術の知識が豊富・・・
・・・なら・・・セイが適任・・・でしょ?」
トールの言い分に納得したバルトが、セイに笑い続けている首を渡す。
「それもそうだな。ほら、喰え」
「うえぇぇ」
「・・・設定・・・考えよう」
ぐちゃっぐちゃっ
こちらに背を向けて座り込み咀嚼しているセイを横目に、これからの事を話あっていく。
あの狂った男だけでは心許無いうえに、常識もってそうか?という話になり、セイは生贄に使われたであろう人々も少しずつ食べておくことになった。
「設定?何のだ?」
こういった事態に一番慣れているトールが話し合いの指揮をとることになった。
「・・・極力・・・目立たないこと・・・
・・・その為にも・・・溶け込まないと・・いけない
服装・・・お金・・・それを得る為のお金・・・・僕らの関係性」
「関係性ですか」
「確かに、怪しいことこの上ないな俺たちは。
すると、兄弟ってことにするにしても似てないし、色が違う。」
改めて全員を見渡すバルト
腰まで伸ばした栗色の髪に目、庶民では有り得ない日に当たらない白磁の肌を持つ12才のメルリーウェ。年よりも少し幼く見え、親から離れて旅をしているのも怪しいかも知れない。
ましてや、王族にしては簡素だが絹を使ったドレスは身分を怪しまれることこの上ない。
纏めた藍色の髪と目を持つ享年19才のイストは、それなりに溶け込むことができるだろう。闇に生きた者としての技量もあるから、その点では心配することはない。ただ、そのメイド服を変えてしまえばいいだけだろう。
17才のトールに関しては、仕立てはいいが一見すれば普通に見える服を纏っている。問題は、その黒い髪だ。ちらっと見たことがあるが目も黒色。黒を忌む色としている場合にどうするか・・・まぁそこはトール自身の力でどうにか出来るかも知れない。
俺は、この騎士服をどうにかしてしまえれば赤銅色の髪も緑の目もなんということはないと思える。
一番の問題は、セイだな。
真っ赤な髪に、ごてごてと装飾が施された真紅のドレス、夜会に出ている貴族の女たち程きつくはないがしっかりとした化粧。なにより、顔立ちが目立つ。真実を知らなければ騙されてしまう程の美少女といってもいい。トールと同じ17才らしいが、見ようによってはそれよりも大人びていたり、幼くも見えたり・・・王宮でも、どれだけの貴族どもが貢ぎ要員にされていたか。
「・・・同じ村を出てきた・・・兄弟みたいに育った・・・それが妥当じゃないかな・・・」
「そうだな。なら、俺とセイが兄弟、トールとメルリーウェ殿下が兄妹ってことにすればいいかな」
「そうですわね。貴方とセイは色が似ていますし、
幼いメルリーウェ様が血縁がないというのは可笑しなことですし」
「なら。災害か何かで村が潰れて生き残った俺たちが流れてきた。そんな設定でどうだ?」
「・・・いいと思う。・・・リーウェちゃんも、いい?」
三人の視線を受けたメルリーウェは、にっこりと笑みを浮かべて了承した。
「大丈夫だよ。これからは、みんなのことをお兄ちゃん、お姉ちゃんって呼べばいいのでしょ?」
「じゃあ俺は、メルって呼ぶってことで」
「私も。話し方も改めることにするわ。」
「・・・・じゃあ、次は服やお金だね・・・」
立ち上がったトールは、もぐもぐと口を動かし食べ続けているセイの肩を叩いた。
「ん、ぬぁに?」
口元を真っ赤に染めたセイの手元から、トールは肉片を拾い上げ口に放り込んだ。
「・・・・・・・・ん。あった」
目を閉じ、口の中のものをじっくりと噛みしめる。
ごくんと喉が動くと、トールは濃紫に変化した目を開けた。
『夢を描く手』
ゆらり
トールは、先程まで座っていた箱に触れる。
「あいかわらず、反則だよな・・・その力は」
触れた途端に箱は消え、
そこには五人分の服が落ちていた。
「でも、僕は殺されたよ」
ちなみに、バルトは24才。