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フェウルの企み

本日二回目。

「私たちが攻めに打って出なくとも、彼等は欲求の声に押し潰されることになるよ。」



「この店で扱っている物は全て、この世界ではトールにしか生み出せない物。

遠い未来では独自に生み出されることもあるかも知れませんが、今現在ではこの店で手に入れるしかないものばかり。

衆目のある場所で『暴虐の野獣』に渡したことで、『無限収納』の効果は近隣の冒険者の間に知れ渡る結果となり、この店でカードを受け取り数々の商品を購入していった冒険者たちもまた、各地でそれらの効果を広めていく。

『書の大精霊』が自分のお気に入りに与えた事から、遠方のあちらこちらでも話題になっている様子。

その効果を見て、欲しいと願う人々は多いことでしょうね。」


ギルドに依頼を出したりと冒険者たちと交流をし、気にいった者たちにカードを手渡したラスやメルリーウェ、セイ。

『暴虐の野獣』が手に入れた『無限収納』の利便性を宣伝してくれたおかげで、彼等は一様にして『無限収納』を求めた。手に入れることが出来た彼等がまた自然と宣伝の役割を果たし、今や多くの冒険者や商人達が手に入れたいと店を訪れている。


『書の大精霊』に至っては、開店する前に店を訪れ、こちらが望む情報などを手土産に『無限収納』を望んできた。そして、それらを遠方で活動している高ランク・高名なお気に入りの冒険者たちに贈っていた。ギルドに対しての貢献度が高い、実力も名声もある彼等に贈られたそれは、その周囲でも噂が噂を呼んで手に入れたいと望む者たちを増やしている。徒歩で何ヶ月もかかるような場所に住んでいる商人が転移の魔法を駆使して店に訪れたこともあった。


「そんな声が高まっている時に、『あの店を利用するのは止めろ』『利用するなら、どうなるか分かっているな』と言えばどうなるか。」


フェウルが近い将来に起こる事態を想定して、笑いを漏らした。

話を聞く事なく遠くから見るだけなら、フェウルは優しい微笑みを浮かべているように見えるだろうが、イストたちに言わせれば、その背後に黒いものが立ち上っているように思える笑いだった。


「人は、自分が手に入れていない物、高価な物、希少な物、便利な物を何としても手に入れたいと望む生き物だからね。ましてや、カードを持つ者以外では『書の大精霊』が褒美として与えた高名な冒険者が手に入れている道具。それに憧れを抱く者も少なくはないだろう。

只でさえ手に入れる機会が少ないそれが、ある一つの組織のせいで、より手に入りにくくなっているとなれば、その不満は何処に向かうのか。」


「私たちに向かう危険もあるんじゃない?」


「それもあるだろうね。

けれど、別に出し惜しみしている訳でもなく、人柄を気に入った人、依頼を受けてくれた人、それぞれが気軽にカードを配っているじゃないか。

本当に欲しいと思えば方法はいくらでもあるという事になる。なんたって、私達の人数分の方法があるのだからね。」

少なくとも、8通りの入手方法があるのだ。

「その欲求をより強める為に、私も少し外に出ようと思うんだ。

イスト、君にしばらくの間のことを任せてもいいかな?」


突然の申し出だった。


「はぁ!?どういうこと?」

「トールに、地位あるご婦人が好む物を幾つか出してもらってね。

冒険者の声だけでは、欲の皮を被った商業ギルドを動かすのは難しい。

ならば、誰ならば動くのか。

世界が違えど、そういう事は同じだからね。簡単だ。

権力のある存在、資金を持つ存在。

そういった階級の中でも、一番物欲が強いのが貴族の女たちというものだよ。」

確かに、とイストも思う。

元の世界でも貴族の女たちの他人の持つ物を羨む姿や、あれやこれやと買い求める姿は常軌逸した光景でもあった。

「服に宝石、これらはメルリーウェとラスに用意して貰ったよ。素晴らしいものばかり数点、きっと見ただけで欲しいと手をあげるだろう。それを纏う姿を見た女たちは、何処で手に入れたのか、どうやったら手に入るのかと噂するだろう。

なにより、トールが用意してくれた化粧品と美容品は、『真贋の大精霊』とギルドの女性職員たちのお墨付きの品質と効果だ。一度試して欲しいと提供すれば、必ず購入する意思を示してくるようになる。

そんな時に、商業ギルドから睨まれた。売れば商業ギルドが黙っていない。と心苦しく、商品を片付け店に帰るとなれば、夫人たちはその権力を存分に発揮してくれることだろうね。」


トールが出した、化粧品や美容品は『真贋の大精霊』によって品質に太鼓判が押され、試しにとギルドの女性職員に使用してもらった所、それなりの値段を設定したというのに次から次へと購入する姿が見られた。品質・効果、共にこの世界にあるそれらとは比べ物にならない程のものだった。


「分かったわ。

じゃあ、貴方が出掛ける前に外の奴等を片付けておかないと。」

フェウルが出掛けるとなると、店に残るのはトールとメルリーウェ、ラスとイストだけだ。ラスもそれなりに戦えるし、トールも結果を考慮しなけらば様々な道具で撃退することが出来るだろう。だが、ある程度の戦闘実績となればイストだけが戦力ということになる。

フェウルが留守にする前に、外にいる鬱陶しい奴等を始末しておいた方がいいだろう。


「いえ。外の方々には手を出さないように。」


「どうして?」

「こちらの様子を窺っているとはいえ、外で手を出してしまえば、あちらに手を回されて『いきなり手を出した。』とされてしまうやも知れないということです。

地の利は、あちらにありますからね。

だからこそ、手を出すのは店の中に踏み込んできた者たちだけにするように。

正当防衛ならば、あちらも何も言えないでしょう。」

まだ、しばらくの間あの視線に耐えなければならないのかと不満げな顔をしたイストだったが、すぐに獲物をいたぶる猫のような目と笑みを浮かべた。

「正当防衛なら、どんなことになってもいいかしら?」

その面白がるような提案に、フェウルは戸惑い顎に手を当てて考えた。

「まぁ・・・いいでしょう。

 夜、女、子供だけの家に踏み込むんです。何をされようと文句は言えないでしょう。それに、恐怖に怯えた相手が予想外の本領を発揮するなんて、よくある話ですしね。」


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