死せる騎士の推考
魂の奥底から湧き出す、歓喜。高揚。
一度味わえば二度と忘れられないこの感じは、味わったことのないものには決して理解することができないものだろう。
支配される喜びなんて、理解しないものからみれば解かるわけのない代物だ。
そして、逃れられない。
麻薬のようなものでもある。
偉大なる光の魔法を受け継ぐ、聖王家。
幾度となく、その血に宿る光の魔法をもって勇者を召喚し、世界を危機から救い続ける世界第一の大国。
その栄光ある聖王家の、王と王家に最も近しい公爵家出の正妃の間に生まれた第一子でありながら、光の力を持たず、生まれてよりずっと離宮に幽閉され母である正妃が亡くなると共に王籍より廃された第二王女メルリーウェ殿下。
生きている間に、殿下に会ったのはたった一度だった。
王宮の警邏隊に配属されて半年、俺は離宮の警護に回された。
本来なら王族の警護は近衛隊の役目だが、廃王女の警護は下っ端の新人の役目だった。
死んだ鳥をその腕に抱え、壁に囲まれた庭の端に埋めようとしてた殿下。
小さな手で硬い土を掘ろうとしていたのを手伝ったのが、たった一回の邂逅だった。
そして、数年後。
俺は殺された。メルリーウェ殿下の目の前で。
やったのは近衛隊に配属となった同期の男。
命じたのは、聖王陛下。
あの邂逅以来、俺のことを気にしていたメルリーウェ殿下に対する当てつけだった。
聖王は、廃王女が外に気を向けること、誰かに心を開くことを嫌った。
ただ、それだけの理由だった。
背後から剣で腹を貫かれ、血を流して崩れ落ちる俺の姿に、メルリーウェ殿下は悲鳴をあげた。
その瞳が濃紫色に光り輝くのを見た。
それが、俺の鼓動が鳴る最後に見た光景だった。
俺は、こうして死霊術士メルリーウェに仕える僕の三人目となった。
死霊として甦った俺がその本能のままに、主であるメルリーウェの敵として同期の男を喰らい殺した。
死霊は命あるモノを喰らうことで、主から与えられる以外で唯一エネルギーを得ることが出来、その相手の記憶や能力を奪うことができるらしい。
それにより、俺はすべてを知ることができた。
突然暴れ出した近衛の男を倒した。
そう報告した俺は、そのまま生きているかのように振る舞い、離宮配属の騎士となった。
まぁ、あっちからすれば、余計なことをした俺を左遷したみたいに感じているんだろうな
俺は三人目。
一人目は、メイドのイスト・レイバン
メルリーウェ殿下の身の回りの世話をすべてこなす。服汚して仕事を増やすとめっちゃ怒る。
元々は王宮に潜り込んでいた暗殺者だったそうだ。特技は拷問のドS女。
戦闘能力については信頼できる。
二人目は、今ここにはいない。
どうやら召喚される瞬間に一緒にいた者しかこの場にいないが、俺らの同胞は後三人いる。四人目と六人目。奴等はいったいどうなったのか?
五人目は、トール・オグラ
見た目どおり運動は苦手で、気が弱く、長く伸ばした前髪で目を隠している。
でも、メルリーウェ殿下と気があうらしく、初めてのお友達だそうだ。
数年前、魔王が率いる魔物の大侵攻に対する為に行われた勇者召喚のさい、巻き込まれる形で召喚されてしまった少年。眉目秀麗な勇者の傍に不釣合いな容姿と性格。ただ、それだけの理由で彼は殺された。
数回だけ、彼の力を見たことがある。十分な戦力になるだろう、あの性格でなければ・・・・
そして、七人目。セイ・クラマ
白い肌に、真紅の装い、整った顔立ち。少女ながらも妖艶な姿に、王宮でも見惚れる者が多かった。
トールの幼馴染で、召喚という手段ではなく突然落されたのだという大侵攻を指揮した魔王。
勇者が魔王を倒し凱旋したその影で、トールが瀕死の状態で連れてきて同胞となした。
その実力は未知数。しかし、魔王というほどだ。期待してもいいだろう。
このメンバーで、この世界で、どう生きていくか。
離宮から出たことのないメルリーウェ殿下は、世間知らずだ。
そんな彼女を連れて・・・
定住するか、放浪するか。
どんな生業をしていくか。
考えることはたくさんありそうだ。
考えることが得意な二番目と六番目がいないのが難点だな。
基本、俺は脳筋ポジションだしな