暗い森の中
本日、三回目の更新となります。
残酷な描写がありますので、ご注意下さい。
9/24、前話と今話でミスがあったので直しました。
ご指摘ありがとうございます。
「おい、ガキが逃げたぞ!!」
「くそぉ。このアマァ!!!」
小屋の中に大きく上がった火柱
それは、今まで男たちが嬲っていた女の固く握られた左手の中の、真っ赤な石から生まれていた。
火によって壁に穴が開き、殴りつけて気を失わせ縛っておいた青年が逃げていく後姿が煙と火柱の向こうに見える。
真っ赤な石はすぐに砕け火柱は消え去ったが、部屋の中に充満した煙にむせこむ男たち。
口元を押さえ、目から涙を流した男たちが、それまでの暴行と手元から生まれた炎によって死に掛けていた女に執拗な蹴りを入れ息の根を止め、壁の穴から青年を追おうとした。
持っていたものはすでに奪ってあり、奴隷として売るくらいしか旨みもない相手だったが、こんな形で虚仮にされたままでは、男たちのプライドが許さなかった。
今回使った小屋も、昔に数奇者の冒険者が作ったというもので、男たちにとってはどうなってもいいものだ。
次々と穴から外に出て行く男たち。
「全員の気がすむまで殴り続けてやる。」
男たちがげひた笑いを上げて走っていく。
「ぐぎゃ」
その声にもならない悲鳴が、男たちの一番後ろから聞こえた。
一瞬、自分達の笑い声の中で聞き間違えかと思った。
だが男たちも一応は冒険者としてやってきた者たちだ。
僅かな変調も聞き逃すことが命とりになることは、よく知っている。
獲物に手をやり、男たちは背後を振り返った。
「ひぃぃいぃ」
そこには、仲間の一人の首に噛り付く、殺したはずの女がいた。
首の半分が口の形に抉られた仲間は、すでに絶命しており、ゆっくりと地面に崩れ落ちていく。
その横にたち、真っ赤に血塗られた口で笑う女が男たちに体を向けてくる。
右腕の肘から先の腕は無い。
まだ残っていた血がボタボタ落ちて女が歩く道筋に印をつけている。
炎を生み出した魔道具を握っていた左手はなくなっていた。残っている腕の先は炭になり、ボロボロと崩れている。
左足も宙に浮く度にプラプラとあらぬ方向を彷徨い、女の歩き方もフラフラ、ヒョロヒョロと定まっていない。だか、その体は少しずつ男たちへと向かってきている。
「いだいぃわぁああもぉぉおおおおおおおお」
女の体が飛び、一番近くにいた男に噛み付いた。
「うぅあああああああああああああああああああああ」
「おいおい、死んだ筈だろ?
なんで生きてるんだよ!!!」
「ば、化け物」
男たちをパニックが包み込んだ。
「落ち着け、てめぇら。
生きてたってだけだろ!!始末しちまえばいいだけだ」
何人かの男たちが剣やら棒やらを振り上げ、人の肉を噛み千切った女に襲い掛かる。
しかし、片足がまともに機能していない状態でどうなっているのか、素早い動きで女は攻撃を避け、一人また一人と襲い掛かる男たちの手や肩、首の肉を噛み千切り、男たちの命を奪っていく。
逃げられたのは、僅か2人。
始めのパニック状態の時に無我夢中で走りだした者達だ。
恐怖で足が止まった者たちは、仲間たちが食い殺されるのを見せられた後、ゆっくりと近づいてきた女にかみ殺されていった。
「ふ、ふふふ。あぁぁ、痛かったぁ~」
森の中に、真っ赤な血溜りを生み出した女は、その一言を残して地面に倒れていった。
その倒れた体は、血の気が失せ、男たちの血が塗れた場所以外は真っ白になっていた。
完全に死んでいたのだが、それを確認するものは誰も残ってはいなかった。
「おはよう、イスト。」
「おはよう、メルリーウェ。」
部屋の窓から見える空は月と星が見える、完全な夜のもの。
町の家々の明かりさえも見えないのだから、その時間帯も推し量れる。
けれど、イストの身体が寝かされていたベットの横で、膝の上に刺繍しかけの布を置いて椅子に腰掛けてたメルリーウェは、イストの目覚めに気がつくと「おはよう」と迷わず言った。
それが、彼女の中で死霊術をつかう時の決まり言葉になっているからだ。
だからイストたちも、身体に戻った時は「おはよう」と返す。
「依頼は無事に終わったの?」
「えぇ、無事に。
でも、やっぱり痛いものは痛いわね。死なないだけで。
この身体に戻ったというのに、まだ痛みがあるような気がするわ。」
朝早く、メルリーウェはイストに頼まれて、彼女が用意した身体に彼女の魂を移した。
なんでも、なかなか報酬がいい依頼に必要だったらしいが、メルリーウェは詳しいことは聞かなかった。
そういう事は聞かないのがルールだと教えられていたからだ。
メルリーウェはただ、夜になったら戻るというイストの言葉を信じて、夜寝静まった後イストの身体に付き添っていた。そして先程、魂だけとなって帰ってきたイストを身体に戻したのだ。
「じゃあ、ちょっと行ってくるわ。」
「こんな時間に?」
手を動かし、無事に身体が思うままに動くことを確認すると、イストはさっさと立ち上がり部屋を出て行く。
「依頼主が首を長くして待っているだろうしね。
こういった依頼のやり取りは、暗闇の中で行われるのが常なのよ」
もぉっと呆れながらも、メルリーウェはさっさと出て行くイストを見送った。
イストが帰ってくるまでは、と我慢をしていた眠気に襲われたことでメルリーウェは、イストの身体の形に皺が寄ったベットに入り込んだ。寝かされていた身体は生命活動をしていなかったので、ベットにイストの温もりなどは何も無かった。けれど、イストが無事に帰ってきたことを喜ぶメルリーウェは幸せそうに眠りに落ちていった。
今後もこのような描写などすると思います。ご注意下さい。




