ある青年の挫折
残酷な描写がありますので、ご注意下さい。
はぁはぁ
息ができない。
でも足を止めることは出来ない。
だって、奴等が追ってきているかもしれない。
そしたら僕は殺される。
いやだ。
死にたくない。
死にたくない。
彼女みたいには、なりたくない。
僕は走る。
暗闇に支配された森の中を、ひたすら走っていく。
目的の場所なんてない。
何処に逃げれば助かるなんて分からない。
でも止まれない。
あぁ、焚き火の光が見える。
あれは冒険者か、それとも奴等の仲間なのか。
でも僕にはそこに向かうしか道がない。
こんな森の中で灯りも持たずにいるなんて、人間以外に襲われる可能性だってある。
今まで無我夢中で走っていて何も考えていなかったけど、僕以外の人間の気配を感じて当たり前の考えがようやく頭に過ぎった。
「た、助けてください。」
木々の間から飛び出て、焚き火を囲んでいる人たちの中に飛び込んだ。
そこにいたのは、夜営の装備を持った3人の冒険者たち。
僕の叫びを聞きながらも、その手が自分達の獲物に置かれたのが分かる。
当たり前だ。
こんな夜更けに何の装備も持たずに飛び込んでくる奴がいたら、僕だってそうする。
怪しすぎる。
「何だよ、おい!?」
「おいおいおい」
「あれ、こいつって」
冒険者たちが普通のように見えて、奴らの仲間や柄の悪い奴等には見えなかったから、僕は力を入れて動かしていた足をヘタリと揺らして、地面に崩れ落ちた。
これで助かったんだっと安心した。
大きく息を吸おうとするが、細かくしか出来ない。
苦しくて胸を押さえる。
「お前って、朝にギルドで依頼探してた坊主じゃないか?」
「あぁそうだ。バルト、お前よく覚えてたな。」
「人の顔を覚えるのは得意なんだ。」
言葉が作れなくて、二本の剣をもっている男の言葉に頷いて答えた。
「確か、パーティーが解散になったんで、パーティー組める奴も探してたよな。」
「ぜぇ げほっ 一人・・・見つけっ・・・て・・・依頼、受け・・・げほっ」
ようやく声が出せたと思ったが、咳き込んでしまう。
だけど、彼らは僕の言いたいことを理解してくれたらしい。
「ってことは、その相方っていうのは何処にいるんだよ。
いや。その様子だと何かあったんだな。
てめぇ、見捨てて逃げてきたってことはないよなぁ?」
「うっうぅぅぅぅ」
その言葉に涙が溢れ出してきた。
そうだ。
その通りだ。
僕は彼女を見捨てたんだ。
「ちっ。坊ちゃまが」
僕は大商家の次男として生まれた。
子供の頃から冒険者に憧れて、成人と共に家を出てギルドに入った。
そこで仲間を見つけて一緒に旅をした。
様々な依頼を受けたし、森の中の探索にも出た。
もう少しでDランクになれるってところまでいったんだ。
だけど、一月前いきなりパーティーが解散した。
いや、解散ではない。僕だけが置いてかれたんだ。
そして、途方に暮れる僕のところに母が会いに来た。
冒険者なんて危ないことを辞めなさい。心配でしょうがなかった。我慢しきらずに会いに来た。
そう言っていた。
でも、僕は知っていた。
このまえ、兄が事故で死んだってことを。
跡継ぎが必要で僕を迎えにきたんだってことを。
だから、今回のことも母の、いや父の仕業だって気づいた。
仲間たちに何をしたのかも分かる。金を掴ませたんだろう。Dクラスの冒険者に払うお金なんて父にとっては、はした金にもならないだろうから。
僕は拒絶した。
母を振り払い、なんとか一人でディフェンの町に辿り着き、ギルドで新しい仲間を探した。
なかなか見つからなくて、何日もギルドに通い詰めた。
もう一人で依頼を受けて森に入ろうかと思ったところで、声をかけてくれたのが彼女だった。
「私もパーティーが解散してしまって困っていたんです。
私とパーティーを組んでくれませんか?」
冒険者なんてやっているのが不思議なくらいな、小柄の女の子だった。話を聞いたら、彼女はエルザという名前の駆け出し魔術師で、成人して一年もたっているという。まったく見えなかった。
でも、僕には彼女と組むしか道はなかったし、彼女を放っておくことも出来なかった。
彼女と受けたのは、薬草の採取という簡単な仕事だった。
夕方までには終わるような簡単なもの。
だから、本当に気軽な気持ちで、彼女との絆をつくる為と受けたんだ。
でも違った。
薬草が集まり、日も落ち始めていたから戻ろうとしていた時だった。
それを彼女に伝えた時、僕の頭に痛みが走って僕は意識を失った。
そして、目が覚めた時には何処かの山小屋みたいなところの中で、
・・・小屋の中では、たくさんの小汚い男たちがいて、彼女がその中で嬲られていた。
僕も体中が痛くて、目も朦朧としていたけど、
彼女は殴られたんだろう、顔が腫れあがっていた。
片足が折られて変な方向を向いていた。
右腕が肘から先が無かった。白い骨が見えるそこから、血がダラダラ流れていた。もう一つの腕も、千切れかけていた。
でも、腫れあがった顔の中から彼女の目だけが僕を向いた時、
「逃げて!」
って、そう彼女が叫んだんだ。
虫の息だったのに大きな声で、でも凄く掠れていた。
彼女の声で男たちが僕のほうに目を向けた。
僕は怖くて全身が震えて動ける状態じゃなかった。
でも、彼女は僕を助けようと炎を生み出してくれたんだ。
彼女が取っておきだって言っていた一回限りの魔道具の力だった。
「それで、お前は逃げてきたってことか」
「はい。炎のおかげで壁が壊れて外が見えて・・・
あとは必死に逃げてきました。」
彼らの目が厳しくなっていくのが分かる。
それもそうだ。
僕は彼女を守るどころか、彼女を見捨てて逃げてきたんだ。
「俺達には何も言えない。
冒険者になったんだったら、お前もその女も覚悟はあっただろうしな。
だが、一つだけ言う。
お前もその女も、冒険者には向いてないってことだ。
分かるな?」
「はい。」
分かっている。
それに、もう冒険者としやっていこうなんて思えない。
怖い。
怖くて仕方がない。
「今、貴方たちが何も依頼を受けていない状態なら、
僕の依頼を受けてもらえませんか。」
彼女の最後の姿が脳裏を過ぎる。
僕を見て、笑っているように見えた。
いや、勘違いだ。だって、彼女の顔は腫れあがっていたんだし。
「僕を、僕の家まで送って欲しい。」
彼らは依頼を受けてくれた。
僕は彼らを連れられて、家に帰った。
満足そうに笑う父親と嬉しそうに笑う母親。
でも、彼女の顔が頭から消えることはなかった。
毎日、ふとした瞬間に恐怖が支配してくる。
毎日、夢に見てしまう。
僕はもう、冒険に出ようなんて思わない。
出てきていませんが、ちゃんとイストが主役の回となります。




