小旅行へ
「こんにちは。
依頼があるんだけど、受けてもらえませんか?ロアスさん。」
ギルドで次の依頼を物色していた俺達に声をかけてきたのは、奇妙な魔道具を作り出す、例の集団の一人、セイだった。
「・・・俺を名指しか。どんな依頼だ。」
俺達のリーダーとして一番相手をしているダグラスでもなく、魔術に関して抱き合うほど意気投合していたルシアーノでもなく、あまり関わっていない俺の名前で依頼を頼んできたことに違和感を覚えた。
「『書の大精霊』に聞きました。
隣の領地のアルバっていう町の出身だそうですね、ロアスさん。」
アルバ。何十年も前に魔物たちの群れに襲われて大打撃を受けた、俺の故郷だ。それ以来復興することもなく、成金主義の領主にも見放され、薄汚れて住人たちの生気すら吸い取っているような場所だ。そんな場所に何の用があるのか。
「そこまで連れていって欲しいんです。往路の案内が依頼です。」
セイが差し出してきたギルドで書かされる依頼の紙の一番下にはギルド長の印が成されていた。これはギルドからの依頼と同じような意味がある。
こいつらの事を気に入っている『書の大精霊』が関与しているのだろうな。
依頼の報酬も相場よりも高いくらいだ。
ダグラスたちに目をやると、言いたいことが分かっているようで頷いている。
「いいだろう。
ダグラス、しばらく離れる。いいな?」
「アルバの町なら往復で6日くらいだろ。
それくらいなら、この辺りでウロウロしてるさ。」
すぐに手続きをして、セイを連れギルドを出た。
トールから貰った袋のおかげで、アルバに行って帰ってくるくらいの装備はそろっている。
そう難しいことのある道のりでもないからな、すぐにでも出れるだろう。
「すぐに出るってことでいいんだな。」
「うん。必要なものはちゃんと準備してあるから。」
確かに、ざっと見た限りでも準備は整っている。
ふと、セイの手が少し赤らんでいるのが気になった。
「どうした、その手は。」
「あぁ。ちょっと喧嘩してきただけ。あんまり人殴ったことないから。
慣れないことするもんじゃないよね。」
「はぁ?」
「トール君がね。すごい勘違いしてて、ちょっとムカついちゃったの。
何年の付き合いがあると思っているのよ、って。」
「やっぱり、仲がいいんだな」
普段の様子を見ていてもそう感じた。
はきはきとしたセイと、その正反対にあるトールが親しげに一緒にいると違和感を感じることもあったが、それでも仲がいいってことはそれは本物だろうな。死ぬまで続くものだ。
「仲はいいよ。だから、今頃自己嫌悪でハツカネズミな頭になってるのも想像できる。
きっと帰ってきたら一番最初にゴメンって言うわね。」
「一人離れて行動するのは寂しいだろう。」
これくらいの子供は、まぁ普通の子供と一緒にするべきかは分からないが、一人で行動しなくてはいけないとなると心細いものだろうな。
「寂しいわね。でも、これは私がやりたいなって思ったことだから。
最初から最後まで責任持って自分でやらなくちゃ、でしょ?」
「何をするつもりだ?」
とんでもない魔道具を作っちまうこいつのことだ。今回も何を企んでいるのか。事と場合によっちゃぁ止めるべきかも知れないな。
「アルバって、仕事が欲しい子供たちが一杯いるって聞いたの。」
「あぁ。いるな。」
「その子たちにね、住む家と食事、そして仕事をあげようと思って。
ちょっと練習がいるけど、危険も少ないし、なんだったら冒険者になれる仕事。
でも、子供達は警戒心が高いから簡単には信じてくれないって言われたわ。
だから、ロアスさん。」
あの街出身の俺がいれば話が通るとおもったわけか。
それにしても、仕事か。
「どんな仕事だ。店にはそんなに人はいらねぇだろ。
何をさせる気だ?」
「音楽を奏でるって仕事だよ。ただし、ただの楽器じゃなくて魔道具だけど。」
思い浮かんだのは、あのピアノだった。
「あぁ、ピアノではないから。
もっと小さくて、持ち運びが出来るものがあってね。
治癒系か防御系の魔術が込められた魔道具で、ピアノとはちょっと違った仕組みにしてあるわ。
それを、ただ奏でたり、魔術の効果を求める人の所で奏でたり、
最終的には専用の建物で演奏することもあるかな。
魔術での演出がある美しい演奏会。ちょっとした売り上げにはなると思うんだけど?」
それが本当なら、家もなく、親も無く、日々の糧にも困りながら暮らしている子供らには夢のような話だな。こいつらの関わることなら、失敗もないように感じる。
「お優しいことだな。」
貴族でもやらないような、慈善事業だ。
「私はただ、作った魔道具を使って欲しいだけ。
楽器が多すぎて使う時が無いし、
それに色々と作っていく魔道具の実験にも付き合ってもらう予定だもの。
誰かの手が足りないときは手伝ってもらうし、人使い荒いと思うわよ?
それに、私『足長おじさん』とか『オペラ座の怪人』が好きだったから。
だから、ただの自己満足ってところかな。」
「『アシナガオジサン』『オペラザノカイジン』がどういうものかは知らんが。
それでも子供らには救いの手だろうな」
街を出て、アルバへと向かう道に足を進める。
「それじゃあ、ロアスさん。
よろしくお願いします。」
軽く頭を下げるセイの姿は、ただの子供に見える。
だが、これからの道中でセイの恐ろしさを改めて感じることになることを、どこか予感していた。
いったん、セイ退場。
次からはイストの話となります。




