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ちょっと、そこまで。

「僕はアルダード商会の会長、マルクです。」

ダグラスさんたちの知り合いだという優男な商人に話を持ちかけられた時、僕の計画は形を成し始めた。



「ねぇ、メルリーウェ」

まず相談したのはメルリーウェ。

メルリーウェには服をたくさん作ってもらわないといけなくなるし、何よりメルリーウェが承諾してくれたらラスを落としたも同然だものね。

この計画は、元々はトール君が教えてくれた漫画から思いついたものだし、お腹が真っ黒なおじーちゃんも気に入るだろうし、問題は他人があんまり好きじゃない最近めっきり引きこもり態勢に入っているラスなんだよね。この店にも出入りすることになるだろうし、ラスにもやって欲しいことあるし。

「・・・てことで、メルには少なくても3種類、人数分の服を作ってもらいたいの。

 そうだね、出来ればだけど最低限11人くらいは必要かな。」

「いいよ。面白そう。フェウルが言っていた秘密結社ってやつだね。」

おじーちゃんのいう秘密結社は怪しい感じがする・・・。私が考えているのはそんなにドロドロしたやつじゃないから。なんだろ、メルリーウェが信じてくれない・・・。

「でも、11人もどうするの?ギルドに依頼するの?」

「ううん。そっちはいい考えがあるの。

 あとで『書の大精霊ヴィヴリオ』に聞きにいこうかと思ってる。

 この前のマルクっていう商人さんも使えば問題はないと思うし・・・。」

完全に信じることは出来ないけど、利用し、利用される関係にはなれる。まぁ簡単に利用されるつもりはないけど、役に立ってくれるなら少しくらいなら利用されてあげてもいい。

ダグラスさんたちに聞いたら、なかなかやり手で各国の王侯貴族とも取引があるらしいから、私達のいい宣伝として使える。服とか装飾品のいい取引相手はどうしてもお金を持った人になるから。

「じゃあ、服を作って待ってればいい?兄様にも言っておくね。」

「うん。お願いね。」



「『書の大精霊ヴィヴリオ』。聞きたいことがあるんだけど。」

たくさんの箱が積み上げられた工房に入り、一つ一つ箱を開けて中を物色している『書の大精霊』に声をかけた。

何処から入り込むのか、何かを作る度に離れの三つの部屋に主の許可なく入り込み、製作物を撫で回すという奇行を重ねる『書の大精霊』。一度、ギルドの精霊たちの長姉という『迷宮の大精霊』が菓子折りを持って現れてから、私達はその奇行に反応を示すことを諦めた。

まさか異世界で、菓子折りを持った謝罪を受けることになるとは思ってもいなかったが、そこは大精霊たちの親である英雄タクマから教わった謝り方だと言っていた。大精霊に菓子折りと土下座の謝罪方法を教えなくてはいけない状況って一体何があったのか。その内調べてみても面白いかも知れないね。

「何だ?」

「ここいらで仕事が欲しい孤児っている?」

箱の中身から目を放すことが無かった『書の大精霊』が振り返って驚いている。

「そんなの、大量にいるさ。

 魔物やら戦争やら、この世界には親を亡くす子供なんてたくさんいるからな。

 この辺りの領主はしっかりとしているが、隣のとなると放ったらかしだな。

 家も、毎日の食事もない子供らが寄り集まって生活している。

 無事に成長できればギルドに入ることもあるが・・・

 大抵はその日暮らしの後ろ暗い道に入っていくな。」

予想通り。

そういう存在も、魔物が蔓延る異世界の定番だとトールも言っていたから確信はあった。

「家と食事をあげるから仕事をしないかって言ったら来てくれるかな?

 極力危険はないような仕事なんだけど。

 最低11人。」

「来る子供もいるだろうが、難しいだろうな。

 ああいった子供らは警戒心が強く、団結し合っている。

 そんな上手い話を信じるかどうか。」

「何か、いい方法はある?」

「何をするか教えてくれたら、方法を与えてやらないこともない。

 情報には情報を、だ。」

今まで散々、人の工房を漁りまくっていた癖に!

お姉さんに言いつけてやろうか。

まぁ仕方ない。

どうせ知られることだし、この世界で誰よりも情報に精通しているこいつ(書の大精霊)に教えておいたほうが何かと融通が利くだろうし。

ただ、ニヤニヤ笑う姿にイラッとしたから、やっぱり『迷宮の大精霊』に言いつけてやろう。

彼女が謝りに来た時の様子から、姉には弱いってことは分かったもの。




そして次の日。

私は旅の準備を整えてギルドに向かった。

全ての事情を話した『書の大精霊ヴィヴリオ』の手配で彼がギルドに来ていることも、今何も依頼を受けていないことも確認済みだ。


「こんにちは。

 依頼があるんだけど、受けてもらえませんか?ロアスさん。」

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