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あぁ、あの・・・って言われたいの。

いつの間にか、ブクマが凄いことに・・・・

ありがとうございます。これからも、よろしくお願いします。

「見せてあげましょうか。

 これの力。」


満面の笑顔になったセイは、ルンルンと弾むような動きでピアノの準備をしていった。

まずは大屋根を上げ支え棒で支える。

次に鍵盤の蓋を開け、イスに座ると指を鍵盤に、足をペダルに乗せた。


「っと、そうだね。

 お客さんたち、ごめんなさい。

 終わったら呼ぶから、外で待っててくれないかな?

 怪我はしないと思うけど、危ないかもしれないもの。」

一度座ったイスから立ち上がり、セイはテーブルに着いて固唾を呑んでいた客たちに軽く頭を下げた。


しかし、しばらく待ってみたが誰も動こうとはしない。

彼らの目は期待や好奇心で満ち溢れ、グランドピアノへと向かっている。

名の知れた魔術師であるルシアーノの様子に、多く流れてきたこの店の名前。

その二つだけでも、期待するだけ損のないものだ。


「あれ?

 誰も出て行かないの?」


訝しげなセイだったが、とっておきのピアノをお披露目出来るのなら人数は関係ないと、いそいそとイスに戻っていった。

作ったのはいいが、久しぶりに引いて指が動かない。そんなことになったら嫌だと、夜な夜な音を消して練習に励んだ成果を見せる機会としては、観客は多いに越したことはない。

ちなみに、夜な夜な、薄暗い中練習に励むセイの姿に、新しく出来た飲み仲間たちと夜中まで飲み明かして帰ってきたバルトとジェノスが驚き、腰を抜かしたことには、セイは練習に夢中で気づいていない。


「それじゃあ、行くね。」


始めに指を置いたのは、二つの鍵。


器用に両手、全ての指を使って奏でられていく音に、魔道具の力を見てみようと考えていた客たちが目を見開き、そして感嘆の声を上げた。

まだ、この世界には、ここまでの複雑な指の動きを必要とする楽器はなく、また複数の楽器が絡み合った音楽は王侯貴族や金持ちたちの道楽のようなもの。その為、いくつもの音が奏でるものを聞いたことがあるという冒険者は稀な存在だった。


感嘆の声は驚愕へと変わった。


重なる音が進むにつれて、その変化は確認できるようになっていく。


蓋が斜めに開けられた黒い箱の中から、緑色に輝く線があふれ出し、セイが奏でる音に合わせて動き、その周りに魔術陣を描いていった。

音が進むにつれ、魔術陣が一つ二つと増え、先に生まれていた魔術陣が大きく育っていく。


うぅ


ピアノのすぐ傍にいたダグラスたちは背後から聞こえてくるうめき声を音の合間に僅かに聞いた。

セイとピアノ、そして取り巻く魔術陣に見惚れているルシアーノ以外が振り返って見ると、床に跪く商人たちと腰を屈め、今にも跪きそうになっている冒険者たちの姿があった。

その目は、その体勢が不本意だと示すように戸惑いと焦りに満ち、恐怖に唇を震わせている。



「・・・・・   ・・・・」


ダグラスが目を巡らせると、階段の近くでトールがメルリーウェの手を繋ぎ、口元を忙しなく動かしている。よく見ると、その唇の動きはセイの奏でる旋律に連動している。

歌っている、のか?


「わりぃ、俺も駄目かも」


ダグラスがトールに声をかけようとするも、カミーユに背中を叩かれたことで、その意識は仲間たちへと向けた。

すでに、商人だけでなく名のある冒険者たちも跪いて、恍惚と身体を震わせ演奏するセイを見上げていた。そして、カミーユもイーダもすでに片足を落としている体勢であり、気がつくとロアスとダグラスも抑えがたい衝動から逃れようと身体が震えていた。

その大きな身体には軋むような重圧が、そして脳裏には「跪け」という衝動が。

歴戦を潜り抜け、魔術に対してもある程度の耐性をつけた二人でさえも、すでに膝が折れようとしていた。

ただ、ルシアーノだけが汗を流れ落としながらも、小さく結界の魔術を唱えながら抗っていた。


「?あれ!!?

 あぁ、ごめんなさい。夢中になっちゃった。」


本当に驚いた表情で、セイが演奏を止め立ち上がった。

これにはルシアーノも驚いた。

何の予備動作も、合図もなく、魔道具の使用をやめる。

それはヘタをすれば暴走を意味している。

けれど、セイが演奏を止めたと同時に緑の光輝く線や完成して成長している魔術陣は、ゆっくりと薄れていくだけで、暴走といったことはなく、ただ身体に圧し掛かった「跪け」という重圧だけが失われていった。

それは術にかかっていた全員にいえたことで、ホッと肩を撫で下ろし、全員が全員とも床に座り込んでいた。


「説明するわね。

 これは、奏でる曲に合わせて様々な魔術を行使できる魔道具なの。」


疲れきり、座り込んだまま荒い息をついている見物者たちに笑いかけ、セイはピアノの黒く光る体を撫でている。




魔術師でなくても使用できるように、魔力を周囲から取り込み増幅する機能を着けてみたんだ。


一つの曲に、一つの魔術。

威力は曲を終えた時点での魔術陣の数と大きさ。

さっきは最終的に6つだったけど、最大で10出るわ。

曲に込められた魔術は、終えた時点で出ている魔術陣の数の分だけの威力を発揮する。

その過程の威力とかは魔術によって違ってくるけど、途中で止めたからって暴走することや消えてしまうことはないから安心安全。

ただし、曲の音を一つでも、リズムを一つでも間違えたら、魔術は無効となり綺麗に消えてしまうようにしてあるの。


今の曲の効果は「跪かせる」こと。

この曲は、大地を讃えて多くの子供たちが集まって歌う曲。

効果とぴったりでしょ。

讃えられた大地の前に、無力な人間が偉そうにしてはいけないもの。

殺傷能力は無くても、屈辱を与えるし、隙をついて攻撃も出来ちゃうから、ちょっと危険だね。


あと、幾つかの曲を仕込んであるけど、それはまたのお楽しみってことで。 



ポロンッ


説明を終えたセイが、鍵盤を一つ叩く。


客たちが肩を揺らしたところを見ると、先程の効果に恐ろしさを感じたのだろう。

曲にしなきゃ大丈夫だよ。とセイが笑っても恐怖に彩られた目を逸らそうとしない。

きっと、セイがピアノのイスから退くまでその目を逸らすことはないだろう。



「それは・・・・」


客の冒険者達、その中でもダグラスたちと同じように名を知らせた高ランクの兵たちは、立ち上がろうとしない、いや出来ない者たちの中で素早く立ち上がり、セイの説明を噛み締め、なんとも言えない顔をしている。


「そう、なんとも使えない、使い勝手の悪そうな魔道具でしょ?」


口先を濁す彼らに、セイが笑って言い放った。

そう、分かってやっていることだ。

使い勝手のいい、強力な魔道具など作ってもいいが、面倒くさいし、面白くも無い。


「私の夢は、今を知るような人が全部いなくなった未来で、

 昔こんな変人がいたとか、遺跡で見つかったあれはあの奇人の作品だとか

 そういう風に話に残っている魔道具作家になることなの。

 ロマンがあるでしょ?」


目を輝かせ夢を語るその姿は、色々な街や村でよく見かける少女そのものだった。

だが、その言っている内容があまりにもオカシ過ぎる。

誰もが、何を言っていいのか口を閉ざす中・・・


「分かる、分かるぞ。」


ルシアーノだけは違った。

「お前の言う通りだ。

 魔術を研究して名を残そうというのなら、その程度の奇抜さがなくては!

 学院にいた奴等は一辺倒、暮らしを良くする為だとか国の為だの。

 そのようなことで大いなる魔術の頂きに辿りつけるものか!」

「ありがとう!!

 ルシアーノさんなら分かってくれるって思ってた!!」

抱きしめ合う、不健康そうな面の男と整った顔立ちの小柄な子供。

分かち合う同志の抱擁とはいえ、看過できないのは彼ら二人の中身だ。

先程見た魔道具の実力に常人には理解できかねる夢を持つ少女と、凄腕の魔術師ながら過激な魔術を使い、時には地面に大きな穴を開け放ち村や街を殲滅したという噂さえある男だ。

混ぜるな危険。

この場にいる者たちが、セイの世界の洗剤を知っていたら口に出して叫んでいたことだろう。

「それで、あれはどの程度吹っ飛ばすことができるのか!?」

「一応、この街くらいは吹っ飛ばせるくらいのは、もう楽譜に起こしてあるの。」

聞こえない。

聞こえない。

全員が耳を塞いで、頭を振った。

余計なことを知って何をされるか、どんな影響があるかなんて考えたくも無かった。

こういう時に利益を計算する商人でさえ、今後の商談の為にも、この店を敵には回せないと聞かぬ存ぜぬを貫くことにした。

ここにいたのは、辛抱強く時を待った者たちだ。

その程度の判断は瞬時に出来た。


「少年。彼女を止めることは?」

ロアスがルシアーノを、イーダがセイを羽交い絞めにし引き離す。

ダグラスは、トールに近づきセイとピアノを指差した。

「・・・・大丈夫・・・・楽譜は秘密の金庫に・・・。

 それに・・・危ないもの程・・・難しい曲にしたって・・・

 だから、大丈夫・・・です。」

つまりは、セイだけが・・・しばらくはセイだけがあの魔道具を使いこなせるということだ。

ピアノが無かった世界で両手弾きの、しかもセイが選んだ難易度がある曲を弾き熟せる人間が何時現れるのか。それは誰にも分からない。

しかも、あのピアノをこの店から持ち出そうにも難しく、セイが起こした全ての楽譜は秘密の金庫-トールの収納空間の中。聞いただけで音もリズムも完璧に弾けるようになる。

ある意味では、そんな人間が現れるのか楽しみだとも言えた。

「でも、これってある意味使えますね。

 防御の魔術の曲は無いのでしょうか?」

「・・・誰・・・?」

トールに近づいてきたのは、それなりの仕立ての服を纏った優男。

「失礼。僕はアルダード商会の会長、マルクです。

 先日まで、そちらのダグラスさん達と旅をしていました。」

手を差し伸べてくるマルク。

トールはダグラスに視線を送り確認を取る。

「俺達の昔なじみで、よく依頼を受ける。そこそこの商会だ。」

ダグラスの表情を読み取り、マルクに視線を戻したトールだったが、その手を握り返すことは無かった。

「店の・・・魔道具担当は・・・セイ・・だから。

 ・・・話は・・・そっち・・・」

「ごめんなさい。トール君は人見知りなの。」

トールは足早に厨房へと入っていき、メルリーウェはトールを心配そうに見送ると、イーダたちと話をしていたセイへと駆け寄っていった。


きっと、皆さんのご想像通りの使い方だったと思います(汗)

使い勝手の悪い、魔道具なピアノ。名前はまだ無い。


大地を讃える歌はマイナーですか、ね。

そうでしたら、意味がわからないかも…

すみません。適度に長くて難しい曲ってことになります。


一応、盗まれても大丈夫なように考えたのです。

グランドピアノ、重たいよ?楽譜もなしに初見で弾ける初心者っているの?

子供が集まって歌う曲(中学校)、流行とかクラシックよりも怒られなさそう。な感じです。

幾つか曲と魔術が決まってるんですが・・・・

「ランララランラララン」っていうハッペルベルさんは精神攻撃だなと確信しています。(あれって精神に着ません?←分からない人すみません。)

まぁ、話に出てくるかは分かりませんが。

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