死せるメイドの恍惚
「さて、メルリーウェ様。
これから、どうなさるおつもりで?」
祭壇に腰かけられた、我が愛しき主 可憐なる死の華 メルリーウェ・ペルセフィア・オリルシア
あぁ、そのような場所に座られてお召しものが汚れてしまいますわ。
誰が綺麗にすると思っているのですか!?
男が三人もいるのですから、誰が椅子の役目を買って出ればいいものを
まったく、役に立たない男どもですわね
「……イスト…声が出てるぞ」
あら?
「お聞き苦しいことを、お許しくださいませメルリーウェ様」
双剣鞘に納めながら苦々しく顔を歪めている同僚 バルドを無視し、眼前のメルリーウェに謝罪の弁を述べる。
当たり前ですわ。
椅子にもならない男など、屑も同然ですもの。
にっこりと笑うと、バルドだけでなく
近くにあった箱に腰かけた少年トールが顔を背け、その横に腕をか
らませ座る少女セイが真っ赤な口紅をさした口元をニィッと引き上げた。
「どうしよう…と言っても、帰れそうにないし、
帰らなくても別に良いし、
このまま、こっちに住んじゃえばいいんじゃないの?」
まぁ、素敵♪
「……………で…でもね、リーウェちゃん」
トールがとぎれとぎれ、囁くような小さな声を出す。
別にこの異様な状況に臆しているわけてはない。
これが、彼の普段からのしゃべり方で性格だ。
それに、こういう状況に一番慣れているのは彼でもある。
「…こういう時…一番大切なのは…その場所の常識や知識…
ここで…生活するとして…
僕たちには、それが…圧倒的に…不足してる…
目立てば、殺される」
目立てば殺される
トールの声に、一瞬どうしようもないほどの強い力が宿る。
今、その覆い隠されたトールの赤い目には、慟哭の光が宿っているのだろう。
「そうだな。
帰らないとして、必要なのは知識、そして金だ。」
そうですわね。
資金が無くては、メルリーウェ様のお食事もお着替えも有りませんし…
基本的に、契約により体に縛られているだけの、死んでいる私たちに食事は必要ありませんし…
まぁ、嗜好品としてならたしなみますが、
メルリーウェ様が生きていれば存在できる。
つまりは、一人分の食料を手に入ればよいわけですが…
「なら、知識を貰えばいいんじゃないの?」
目を向けると、いつの間に採ってきたのだろう?
真っ白な手を赤く染めたセイが、先ほど切り落とした無礼者の首。
血が抜け真っ青になった顔は、驚愕に目を大きく開き、歪んでいる。
「こいつに聞いたらいいんじゃない?
魔術使って、知識には自信がありそうな感じだったもの」
ねぇ メルリーウェ
せっかくの死霊術だもの
にっこりと微笑んだメルリーウェ様が両手を伸ばし、セイから首を受けとる。
あぁ
血の汚れは落としにくいのに
首を見つめるその瞳が、薄い栗色から輝く濃紫へと変化する。
それと同時に、己の中で力が蠢くのを感じる。
私たちは、メルリーウェ様の力により契約に縛られ、その魂に繋がれた存在。
メルリーウェ様が力を振るわれる時、まるで喜んでいるかのように体の中で力が蠢く。
それを、とても心地好く感じてしまうのは私だけなのか
いいえ
さっと目を回すと、同胞たち三人も恍惚とした様子でメルリーウェ様に、濃紫に光る目を向けている。
この感覚を味わっているのだろう
「こんにちは あっでも、こんばんは なのかな?
わたくしは、オリルシア聖王国が廃王女 メルリーウェ・ペルセフィア・オリルシア
あなたのおなまえは?」
ふふふ
たまらない ですわ