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盛況の裏側

ダグラスたちが『カラミタ』という看板を掲げた店を訪れたのは開店の前日から20日後のことだった。

あれから彼らはギルドに赴き、遠方に足を運ぶ護衛の依頼を受けて旅立っていった。

それも全て、トールに頼まれた宣伝をかねてのことだ。




「いらっしゃいませ~」


ダグラスたちを出迎えてくれたのは、所々に白糸で細やかな刺繍が施された黒いワンピースの上にフリルがふんだんに使われたエプロンをかけた、セイだった。


「あ、皆さん。

 おかえりなさい。

 無事に戻ってこられたんですね。」


接客用に作られた笑顔を浮かべセイはダグラスたちに駆け寄ってきた。

店の中は全てのテーブルが冒険者や商人たちによって埋まり、その中をメイがちょこまかとグラスを持って動いていた。

カウンターに並べられた十枚の大皿に盛られた料理は客たちにも好評なのか、その手元の小皿から動く手は止まる様子が無かった。

けれど、彼らの目は少しでもセイたち従業員の動きを逃さないよう強い光を放っている。

「盛況なようだな」

「そうなんです。まだ5回しか営業してないのに皆さん来て下さって。

 まぁ、営業してない日に来られて怒鳴り込んでくる人とか、

 壁に飾ってある、あれらを持っていこうという人とか、

 困った人たちも多かったんですけどね。」

確かに、壁にかけられている剣や装飾品を見上げて唾を飲み込んでいる客の姿が見える。

魔が差しても仕方がない、そんな価値がある物ばかりだ。


 おい、『暴虐の野獣』だ。

 やっぱり、ここと懇意にしているみたいだな

 聞いたぞ。あの袋、もの凄い値で売ってくれって言われているみたいだぞ。

 断ったって話だろ。


店の様子と料理に集中していた客たちが、ダグラスたちに気づき始めた。


「席は空いてなさそうだな。

 出直してくるか」


ダグラスが仲間たちを振り返って店を出ようとした。

すると、本当に小さな、店の喧騒の中では聞こえるか聞こえないかの丁度あいだくらいの声でセイが囁いてきた。

「まぁ待って。

 少し付き合って下さいよ。」



「あら、『暴虐の野獣』の皆さん。

 お戻りになられたのね。

 私たちの依頼はどうでした?上手くいきました?」


階段を下りてきた若い女性が甘い声を店中に響かせた。

ダグラスたちには初めて見る女だったが、自室として使うと言っていた二階から降りてきたことから仲間の一人だろうと考えることにした。

女は、まっすぐに入り口にいるダグラスに歩み寄るとその太い腕に自身の身体を巻きつけた。

驚いたダグラスを余所にその後ろで口笛を吹くカミーユたち。

そして、客に背を向けながら彼らにニヤニヤと笑ってみせるセイの姿。

その姿にダグラスはため息を一つ吐き、セイが囁いた言葉の意味を理解した。


「依頼は完璧だ。

 それで、報酬は何時もらえるんだ?」

「分かっているわ。

 お金はすぐにでも渡せます。

 それと、もう一つの報酬ね。

 裏の工房へどうぞ。装飾品、魔道具、服。何をお求めかしら?」


客の冒険者、商人たちの視線が一斉に集まってきた。

開店してから5回、僅かに聞こえてくる噂でした知りえなかった中庭の工房の話が、初めて店の人間から聞くことが出来たのだ。

ギルドが認めた高ランクのアイテム。

今まで聞いたこともない希少なアイテム。

『書の大精霊』が開示したのは、それらがこの店の工房でしか作れないものということだけだった。

そして、それらを手に出来る者が店に選ばれた者だけであると何処からともなく噂が流れてきた。

それらを求めた者たちは店が開くのを待っていた。

けれど、一度開いた後は数日後。そして、また数日後。

苛立って来なくなったものもいた。

苛立ちに店を壊そうとしたものもいた。

今、此処に残っているのは辛抱強く待ち続けていた者たちだった。

そして、ようやく事実を知る手がかりを掴むことが出来たと、彼らの胸は高鳴っていた。


女はダグラスたちを店の奥、中庭に繋がる扉へと進ませた。


「でも、良かったわ。

 あれからギルドに幾つかの依頼を出したのだけど、まだ誰も。

 だから、カードをお渡しすることも無くて暇を持て余していたのよ、工房の面々が。」


依頼

二つの報酬

工房

カード


声を潜め情報を多く得ようとしている客たちの頭に四つの言葉が流れ込んでくる。


「そうだわ。

 なんだったら、中庭にテーブルを用意します。

 カードを持っていらっしゃる方々は、特別ですもの。」

「そうだね。準備するね。

 何か食べたいものはあります?

 カードを持っている人には、トール君も料理のリクエストを受けますから。」


二人は次々と「特別」という言葉に色をつけていく。

多くの情報を得ることが出来たと目を輝かせている客たちの様子に、メンバーの中でも沸点が低いのだろう、イーダとカミーユが笑い声を漏らしそうになり、ルシアール、ロアスに殴られ、口を押さえつけられている。ロアスに口を押さえられたカミーユはすぐに笑いが消え、苦しそうにロアスの丸太みたいな腕を叩いていた。



「おや。

 あれが、出発する前に秘密だと言っていたものですか。」



ルシアールが指差したのは、開店前日にトールが秘密だと嬉しそうに言っていた空間。

入り口からは客たちの身体で見えにくかったが、中庭の扉に近づくとそれははっきりと見えてきた。


「そうなの。

 トール君が私の為に作ってくれたのよ。」


セイが嬉しそうに笑う。

三脚の脚で支えられた、黒く塗られた木で作られた曲線を描く箱。

同じく、黒色の木製のイスも置かれている。 

依頼のある無しに関わらず、多くの土地を旅したことがあると自負しているダグラスたちにしても、見たこともないものだった。

客たちも気になっていたのだろう。

引き続き、聞き耳を立てている。


「グランドピアノ。

 私が得意な楽器なのよ。」


楽器。

ダグラスを始めとする、この世界の人間の頭に浮かんだのは、息を吹きいれ音を鳴らす笛などの管楽器の数々や、太鼓の類。

商人たちは、宮廷で演奏されている弦を鳴らす弦楽器を考えた。


「それも、魔道具ですね。これは。

 強い魔力を纏っているのが見えます。」


ふふふふふ

ルシアールが怪しい笑い声が漏れる。

その目は、面白い玩具を見た子供のように無邪気な色を宿している。

世界最高峰の学園に通っていた、そこで多くの魔道具を見てきたルシアールでさえ喜ぶほど、強い魔道具ということに驚愕を覚えた。


「そう。

 ちょっと弄るつもりだったら、とっても強力なものになっちゃたの。

 でも、せっかくだから。そのまま使うつもりよ。」


まるで、まったくの偶然のように嘯く。

しかし、これが成るべくして作られた魔道具だと、僅かながらもセイを知るダグラスたちは確信していた。そして、そのセイが強力と言う魔道具の威力を想像して、僅かに恐怖を感じていた。





ダグラスたちを宣伝に使いまくる。

ちゃんと代価は払います。


ピアノについては、歴史でも弦楽器よりも後に誕生しているので、この世界ではまだ出来ていなかったということにしました。

どんな魔道具になっているかは次回をお待ち下さい。

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