開店までもう少し
「こりゃあ、覚悟決めないとな・・・」
昼飯を食べて一息ついた時、ギルドの職員が慌てて駆け込んできた。
ギルドから、その威信をかけて仕事を紹介したい相手がいる。
そう言って必要な道具も用意する暇を与えられずに引っ張られてきたのは、ギルド裏の、嫌な意味で有名な建物だった。
商業ギルドに逆らって潰された、宿屋。
場所柄もあって大繁盛していたのに、今じゃ親族もろとも行方が知れないって言うじゃないか・・・
俺も商売している身だからな。
商売ギルドには逆らうなという教訓を教えられた。
紹介されたのは、若い奴らだった。
ギルドが焦るほどの奴らとは到底思えないが・・・
だが、人を見た目で判断すれば痛い目を見るっていうのは、この街ではよくあることだ。
それにプロとして、どんな相手であろうと手を抜くわけがない。
「・・・建物の中の・・・痛んでいるところとかを・・・お願い・・できますか?」
可笑しなことだ。
俺とそう年が変わらないのもいるし、成人してるのもいるのに、指示を出してくるのは顔が髪に隠れた子供だなんて。
だが、誰も何にも言わないなら俺が口を出すことでもない。
「・・・良かったら・・・これを使ってください・・・」
そういって子供が俺の前に並べてのは、見たことも無いものばかりだった。
「これは、電動ドリル、電動ノコギリ、電動カンナ、電動ドライバー」
子供が言葉少なめに、それらの道具を使ってみせていく。
なんだ!これは!!
こんなもんがあったなんて。
何十年と大工の仕事をしてきたが、こんな道具見たことない。
こんなんがあったら、仕事がどれだけ楽になるか!
「これ、好きに使っていいから・・・建物の修復・・・終わったら声を・・・かけて下さい。」
そう言って、少年は厨房の中へと入っていった。
いつの間にか、他の人間もいなくっていてホールには道具と俺だけが残されている。
不気味だ。
ありえない道具。
よく分からない若い奴等。
まぁ、ギルドがあそこまで慌てて仕事をさせようとしてきたぐらいだ。
丁重に相手をするに越したことはない筈だ。
おう邪魔するぞ
借りた道具を使いながら、あと少しというところまで作業が進んでいたが、そんな時に店に入ってきた奴等に驚いた。
思わず、馬鹿みたいに口を開けて座り込み振り向いた体制で固まってしまった。
冒険者が多く闊歩しているこの街でも有数のパーティー
良くも悪くも、その名を轟かせている『暴虐の野獣』のメンバーが揃っていた。
「ん?お前は?」
おいおい勘弁してくれよ。
あの『暴虐の野獣』たちの視線が俺に注がれている。
魔物の群れから村を救ったとか
格上の冒険者たちの横暴から人々を守ったとか
他のパーティーと協力してだが、Sランクに部類されていた『黒焔竜』と退治したとか
彼らを褒め称える評判も響いている。
だが、それを上回る程のあれな評判も耳に入ってくる。
有名税ってこともあるだろうが、それにしてもその内容があれ過ぎる。
相手も自分も血まみれになるように戦うのが好きらしい巨漢のロアスの眼光に、背中を冷たいものが流れ落ちていく。呼吸するのもままならない・・・
「・・・・・・まだ・・・お店はやってない・・・です。」
立ち上がれないまま固まっていた俺の肩を叩く手があった。
そこでようやく、大きく息を吐くことが出来た。
「おう坊主。兄貴たちはいないのか?」
「・・・留守にしてます。・・・ラス兄さんと・・・セイは裏にいるけど・・・」
遠くにいる人間にも聞こえるんじゃないかと思うくらいに高鳴る胸を抑えている俺の肩を、少年がトントンと叩く。なんだと思い少年を見上げると、先程は前髪に隠れて見えなかった少年の黒い目が垣間見えた。
「・・・もう終わる?」
「あっ、あぁ。あの道具のおかげで仕事が早くてな。
あとは、使い始めて不都合があったら言ってくれれば直しにくるよ。」
「・・・そう・・・じゃあ・・・テーブルについて・・・ダグラスさんたちも・・・」
そう言って少年はまた厨房に戻っていった。
不思議に思ったが、依頼主の言うことだ。
素直に聞いておこうと自分の道具を片付け、少年に渡された不思議な道具も壁際に纏め、手近にあったテーブルのイスに腰掛けた。
「なんだ、お前大工か。」
『暴虐の野獣』たちも同じテーブルに座ってきた。
ロアスが一脚足りないイスを隣のテーブルから引っ張ってきてギシリと音をたてて座る。
「あぁ。ギルドを通して依頼されたんだ。
あんたたちは、ここと知り合いなのか?」
「そりゃあ、ギルドも慌てて駆け込んだんだろうな。」
「目に浮かぶな。」
どうやら、少年たちがギルドに重要視される原因を知っているみたいだな。
Aクラスが関わるだなんて、こりゃあ俺も覚悟を決めてかからないと心臓が持たなくなるな。
喉から唸るような笑いが自然と出てきた。
「・・・どうぞ」
少年が右腕に二つ、左腕に一つと。
器用なもんだ、大盛りの料理が盛り付けられた皿をテーブルに置いていく。
「・・・お店で出す料理・・・です。
・・・試食・・・していって下さい・・・」
まだまだあるので
そう言って、一人一人に小皿とフォークを渡して少年はまた厨房に入っていった。
そして、俺たちが驚いて料理に手を着けられずにいると次の三つの皿を運んできた。
「食べない・・・ですか?」
いっこうに手が動かない俺たちに少年は首を傾げた。
いやいや、確かに湯気を立てる料理は美味しそうな匂いがして腹の音が鳴りそうになっている。
だが、これらの料理は俺が見たこともないようなもので、どんな味なのか、どうやって食べるのかとか色々聞きたいのだが、驚きのあまり喉から声が出てこない。
多分、同じテーブルを囲んでいる『暴虐の野獣』たちも同じ考えなのだろう。
「料理の説明しなきゃ食べられないんじゃない?トール君。」
階段の下をくり抜いたカウンターの横にある、中庭へと続くドアからひょっこり現れたのは、将来を期待できる可愛らしいというより綺麗と言った方がいい少女だった。
「おう。嬢ちゃん。そうそう、説明頼むよ。見たこともない料理ばっかだからよ。」
「だっよねぇ。
突然食べろって言われても、ねぇ。」
それから、少女が料理の説明をしてくれた。
見た目も名前もまったく聞いたことがないものばかりで、彼らが何処から来たのか・・・
いや、不用意なことは聞かない方がいい。
聞かなくていいことを聞いて、消えていった奴等なんて大量にいるんだからな。
ナポリタン。明太子スパ。照り焼きサンド。ツナマヨおにぎり。あんころピザ。高菜ピラフ。
少女が指差しながら説明した料理たち。
一度、料理を口に入れるともう駄目だった。
手が止まらない。
やはり食べたことのない味だったが、こんな料理が食べられるのなら店が始まったら毎日でも通ってもいい。
特に、ナポリタンの赤いソースと、おにぎりの中に入っているツナマヨというものが気に入った。
「上手いな。
嬢ちゃん、店開いたら絶対来るわ。」
「ありがとうございます。
でも、この料理が食べられるとは限りませんから。」
「えぇ?メニューには出さないのかい?
こんなに美味しいのに」
カミーユが少女に怪しい笑みを送っている。
あいつ、こういう男だってのは噂には聞いていたが、こんな子供にまで・・・
凄い顔をして見ていたんだろう。
ふと視線を感じて目をやると、苦笑を浮かべながら肩をすくめて見せる蛇族のイーダがいた。
だが、目が困ったなんて言っていない。
ありゃあ、騒ぎを待ち望んでいるような奴が浮かべるもんだ。
「飲み物を頼んでもらえば、カウンターにある十品は食べ放題。
十品は、その日その日で違うし、食事時以外は甘味を大目にするわね。
そういうお店なの。」
なんだ、それ。
「おいおい。
そんなんでやっていけるのか?」
そうだ。
ここは冒険者の街だぜ?
ほっときゃ馬鹿みたいに食う奴ばかりだ。
それを・・・
「じゃあ、飲みもんの値段を高くするのか?」
そうだな。
そうじゃなきゃ、とうてい採算があわない。
「お酒関係が銅貨10枚。それ以外は8枚。
夜は変わって、お酒関係が銅貨15枚、それ以外が10枚になるわ。
これって高い?」
普通に小食の奴が飲んで食える値段だな。ちょっと安いくらいだ。
夜もここらの定価より少し安い程度だな。
「いや。ちょっと安いくらいだ。
・・・大丈夫なのか?」
「私たちに、それを聞くの?『暴虐の野獣』さん?」
ぞくり
どういうことだ。
こんな子供相手に、恐ろしいと思うなんて。
「そうだな。
お前らには不要な心配だな。
・・・あっちの方は、まだ売りにはださないのか?」
どうやら、『暴虐の野獣』たちは詳しいようだな。
もしや、俺はもう帰れないところまで知ってしまったことになるんだろうか・・・
「あっちって、どれのこと?」
「俺としては剣とかそっちに興味があるんだが?
言ってただろ?『食事処の傍らで魔道具や服、装飾品を扱う予定』だって」
はぐらかそうとしているのか首を傾げる少女。
だが、もう可愛らしいなんて思えない。
「うん。ちゃんと扱うわ。
中庭に離れがあるのは知っている?
そこで、魔道具、装飾品、服を扱うの。
でも、離れに行けるあの扉を潜れるのは、こちらで許可した人だけ。」
そう言って指差したのは、先程彼女が出てきた中庭に通じる扉。
「その許可はどうしたらもらえるんですか?」
「あれ、興味深々だね魔術師のお兄さん。」
「もちろんですよ。あの時ギルドにいた人間で、その許可に興味を持たぬ者はいませんよ。」
少女が片手の中で広げた6枚のカード。
金属で出来ているそれを一人一人に渡していった。
もちろん、俺にも手渡された。
カードにはただ『カラミタ』という字が書いてある。
「それが、このお店の名前なの。
そのカードを持つ人にだけ離れでお買い物をしてもらえます。
私たちが気に入った人とか『書の大精霊』の紹介の人にしか渡さない。
彼女にそうお願いされちゃったからね。
ただし、カードを無くしたらもう終わり。二度と渡さない。
そこまでの人だったってことでしょ?
だから、無くさないでね?」
気づいたら自分の家にいた。
まるで夢を見ているかのような一日だ。
ただ、帰り際にあの少年に言われたことだけは、はっきりと覚えている。
カードを持っていれば、あの素晴らしい大工道具たちを貸してくれると言った。
服や装飾品なんていうのは興味はない。
だから、このカードを売ってしまえばとも思ったが、そんな風に言われたらそんなことしようなんて思えない。
絶対に手放さないように、
誰にも気づかれないようにしなくては。
食事は、最近外食で食べたものです・・・
書き終わって、「あれ?あんころピザって、もしかしてここら辺だけ?」と思ったのですが面倒くさかったので・・・




