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店を作ろう

少し薄汚れているけど、直しが必要とは思えない建物。

建物の左側にある扉をくぐると埃やゴミは少し目立つけど定期的には簡単な掃除がされているんだろうということが分かる。


目の前には調理場の中が見えるカウンター

調理場は、建物の四分の一ほどの広さ

真ん中には二回に上る階段があり、その階段下はくり貫かれ横向きのカウンターになっている。階段をくぐったカウンターの中にはお酒が置けそうな棚とカウンターにイスが四脚。

ホールには五客のイスがついた6つのテーブルがそのまま残ってて、すぐにでも店は出来そうな状態だ。

階段を上ると二階には10部屋の客室があった。

ここは、自分たちの部屋と余った所は倉庫にすればいいね。


ホールにある扉を抜けると、小さな中庭と3つつらなるように建つ離れ。長屋みたいだね。これは、ラスとリーウェ、セイの工房。三人が気に入った客やそれに紹介された客を案内すればいいかな。祇園みたいに。


厨房には流石に物は残ってなかった。

まぁ、残っててもいらないけど。

こういうのは、使いなれた物じゃないと…

そうだな。

冷蔵庫、冷凍庫は必須だね。

これも、売り出したら面白いかも…

セイに魔道具で作れないか聞いてみよう…

オーブンにトースター、ミキサーにガスレンジ

これは錬金系ゲームのアイテムで作ったことがあるから魔石使用の魔道具。

包丁にまな板、

あっ、洗い場も魔道具で綺麗な飲み水が自動で流れるようにして

食器はどうしよ…

白磁器にガラス食器、陶磁器

百均にあったみたいな、真っ白なお洒落食器が異世界では流行るみたいな話が一杯あったけど…

陶器も好きなんだよね…

有田焼に志野焼、瀬戸焼、織部焼…

うん、ここら辺は相談しよう…


あとは…





「すっごい楽しそうね、トール君」


建物の中を動き回りながら、どんな風にするかを考えていたら、いつの間にか後ろでセイが呆れた顔をして立っていた。

「あれ?皆は?」

何時の間にか、セイ以外の皆の姿が何処にもなくなっている。

だから、緊張することなく、どもりの無い喋りが出来る。

セイとメルリーウェ、この二人と二人っきりの時だけは普通に話せる。

二人が絶対に僕を傷つけないって分かるから。

皆も僕を傷つけないって分かっているけど・・・他の皆は僕からしたら凄い人たちだから。

怖いとかそんなんじゃないほうで緊張しちゃうから。

これは説明してあって、みんな苦笑しながらも納得してくれた。

「トール君が夢中の間に、町の中を見に行ったわ。

私は、トール君がそうなっている間に誰か来たら危険だからってことで留守番。

 本当は私も行きたかったんだから。」

「・・・ごめんね?」

「なんで、疑問系?」

腰に手を当て肩を引き上げたセイの姿は、誰が見ても怒っていると分かる。

でも、そんなに怒っているわけではないと分かっているし、何より今セイが残っていてくれて助かるから。

「メニューを決めるのも、セイだったら話がしやすいでしょ?」

「あぁ、それはそうだね。

 昔ながらの喫茶店、今時の流行のカフェ、ファミレス、居酒屋、どんなメニューにするの?」

「僕が知っているのは、喫茶店だからね。

 それを基本にお酒とか食事とかを扱おうって思っているけど・・・

 役に立つと思って、お酒の知識を集めておいたけど・・・僕はあまり好きじゃないんだよね。」

一人暮らしなのをいいことに、図書館でお酒の知識を集め一口だけ口にするという方法をとったけど、あまり好きな味ではなかったから気が乗らない。

それに、メルリーウェやセイが給仕の手伝いをするって言ってくれているから、あまり酔っ払いとかいたら困るよね。

「別に、そこらへんはフェウル叔父さんに任せればいいじゃない。

 冒険者の町なんだから、お酒がないとパッとしないと思うわよ?」

「そうかなぁ・・・そうだね。給仕もバルト兄さんとかイスト姉さんがいる時は頼めばいいし。」

「そうそう。何なら、奴隷の町で拾ってきた女の人の身体で私が出るし。」

「危なくない?」

死んでいる僕らは痛みをそんなに感じないけど、怖いとかそういう心はちゃんとあるから。

セイやメルリーウェが怖い思いするのは嫌だな。

「いざとなれば、私の祝福の力で乗り切れるし大丈夫よ。

 それで、喫茶店メニューだとモーニングはもちろんやるのよね」

僕らの地元で盛んだったモーニングサービス。

発祥は隣の県でメディアでも取り上げられるのはそちらばかりで目立たなかったけど、奇抜さとか、喫茶店利用回数とかは僕らの地元の方が地味に多かった。

僕の家も、一回目の召喚のせいで地元を追われるまでは喫茶店を開いていて、朝はそれなりに混雑していた。地元のおじいちゃんおばあちゃん、ネットで見て来る遠方の客、仕事前のサラリーマン、学校前の学生。土日になると、ちょっとした戦争状態だったな・・・

もう見る事がない光景を思うと、無くなった筈の郷愁の思いが込み上げてくる気になる。

「トール君の家のモーニング好きだったよ、私。

 ぶ厚いジャムトーストにサラダ、ヨーグルトフルーツ、ゆで卵。で350円!」

「僕は、こっそり他のお店とか行ってたな。ばれたら怒られたけど、父さんに・・・」

「親と一緒の時は、和食系のモーニングだったよ。

 おにぎり二つに味噌汁、焼き魚に、卵焼きか茶碗蒸し。これは、ちょっと高めに450円だったな。」

「へぇ。一人暮らし始めてから通っていたのは何件かあるよ。

 薄いトースト一枚にメロン、バナナ、りんご、オレンジ、ロールケーキ一切れのところでしょ。

 野菜たっぷり目なバイキングのところ

 二枚のワッフルにバニラアイスとフルーツがたっぷり乗ったところ。

 全部、ワンコインだったから店員と話とかしなくて良かったから・・・楽だったね。」

「トール君、食生活がちょっと心配だよぉ・・・カロリーが・・・」

「さすがに、ここでまでそんな風にはしないよ。」

何かをブツブツと計算しているセイ。

カロリーってことは多分それの計算なんだろうな。

そういうところは、セイって女の子だよね。

なんだか、最近セイの本当の性別忘れちゃうよ・・・

「それで、どうするの?」

「うん。

 めんどくさいから、バイキング風じゃ駄目かな?

 ちょっと高めに飲み物代もらって、並べてある食べ物から好きに取ってもらうんだ。」

「じゃあ、メルと私は飲み物を運ぶのと食器を片付けるのが仕事ってことね。 」

そうだけど、実はちょっとした考えがあるんだけど。

まだ言わないでおこう。

びっくりさせたほうが面白そうだからね。

「あとは、壁に剣とか服とか装飾品を飾ろう。

 宣伝みたいになるし、何か言われても師の形見だから手放さないって言うんだ。」

「じゃあ、所有者を限定する術をかけるわね。

 そうすれば盗まれることもないし。」

やっぱりセイは凄いな。

魔術をもう自分のものにしているんだから・・・

「裏にある、長屋の三つの部屋はセイとリーウェとラス兄さんの工房。

 何処にするかは、相談してね。」

「分かったわ。」

建物の修復はプロに任せるしかないかな。

埃を払ってみると、所々に傷とか染みとか、気にしなければいいかもしれないけど、せっかく新しい、皆との生活だからね。

できるだかけ綺麗にしてみよう。

二階の部屋の中とかは、好みがあるから。

そこは個々で頼んでもらおうっと。

・・・電ノコとか作ったら大工さんの作業も早くなるかな?

レーニ翁が大工さんを手配してくれるっていうから、多分信頼のおける人だろうし

「ねぇ、セイ。

 大工さんって何時来るのかな?」

「あぁ、今日中に来るって聞いたよ?」

「聞いた?」

「もう、それも気づいてなかったの?

 店に着いた時、案内してくたギルドの人がこれから大工を連れて来るって言ってたでしょ!

 もう。夢中になると他が見えなくなるんだから!」


むぅ・・・

もうここは完全に安全ってわけじゃない

これからは気をつけないと・・・



さぁ、僕たちのお城作りの始まりだ。

僕たちが好きに出来る場所。

皆が帰ってくる場所。

大切な城だ。

頑張るぞっと。


モーニングの話は、実在するものです。

ちょいちょい利用します♪( *´艸`)

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